【R18】朝も昼も夕も夜も

テキイチ

文字の大きさ
19 / 23
おまけ

19 おうちが一番 ①

しおりを挟む
「誕生日?」
「何か欲しい物、ある?」

 私がそう問いかけると、翼は上を見て少し考えている様子だった。しばらくして、目線を私に戻し、口を開く。

「物はいらないから、遊園地に行きたい!」
「遊園地?」

 予想外の希望。

「俺、美羽と付き合うまで、デートらしいデートってしたことなくて」
「……は?」
「失恋して、もう誰かを好きになることはないと思って。そういうのは諦めてた」
「入れ食いだったんじゃないの?」

 淡々と訊ねると、翼は少し眉を寄せた。

「……聞きたいの?」
「純粋に疑問で」

 嫉妬した方がいいのか。いいんだろうけど、そういうの、どうでもいいしなあ。過去のことだし。

「ほとんどの相手とは一回限りだったし、二回会った相手とも向こうから誘われて夜飲んでその流れでっていうパターンしかなかった。三回会った相手はいない」

 これはひどい。私だってデートくらいしたことはある。
 幼馴染のミユキさんに振られたなら振られたで、次の恋へ進めばいいのに。どうして恋愛そのものを諦めて、女子を食い散らかす方向に行ったんだ。極端すぎるだろ。

 それに、私とも、いわゆるデートらしいデートはしていない気がする。たまに、街に買い物に行ったり、夜飲みに行ったりすることはあるけど。買い物は生活用品であることがほとんどだし、飲みに行くのも安い居酒屋だ。色気ゼロ。
 映画は家で見るし、遊園地・動物園・水族館あたりのアミューズメントパークに行ったことはない。私はインドア派だから進んで出かけはしないし、翼からも特に行きたいとは言われなかったから。

 結局、翼の前倒し誕生祝いは、本当の誕生日の三週間ほど前に決定した。そんなに前だともはや誕生祝いではない気もするけど。その三日後に引っ越し。あわただしい。



 当日は最寄り駅で落ち合うことになった。デートだから待ち合わせがしたいと翼が熱烈に希望したからだ。お互いの部屋から十五分くらいの場所で待ち合わせ。なんだか妙な気分。
 改札に着くと、翼は、最近では珍しい、入れ食い時代の服を着ていた。それなりの格好をすると、それなりに綺麗な顔をしているから、それなりに見える。「それなり」飽和状態。

「美羽!」

 私の姿を見つけた翼がやたら嬉しそうで。手だけじゃなく、尻尾もぶんぶん振られているような。本当に犬だ。

「今日のスカート、初めて見た!」
「まあ、買ったから」

 黒いカットソーにラベンダーピンクのスカートを合わせた。春らしい、シフォン生地の。翼のデートに対する期待がものすごく大きそうだったので、コスプレと割り切って、少し女の子らしい服を買ったのだ。必要経費。トップスを白にした方が春らしいのだろうけど、そこまで甘い雰囲気のコーディネートは、私が無理だった。

「いいね! 美羽、そういうちょっとひらっとした感じ、似合う!」
「え? 似合う?」

 確かに、試着した時、店員さんにもやたら褒められた。セールストークだとしか思っていなかったけど。

「うん。それに俺ずっと、美羽、そういうのが好きなんだろうと思ってたんだ」

 おかしい。なんだか話が噛み合わない気がする。女の子らしい服を纏ったマネキンやタレントを眺めていたのは、翼自身ではないか。

「翼が、こういうの、好きなのかと思ってたんだけど」
「女子の服なんかよくわかんないし、どういう格好をしてほしいとかも特にない。本人が好きなものを着たらいい」
「でも、こういう服よく見て……」

 翼はきょとんとした表情で少しの間黙っていた。何か合点がいったのだろう、ああ、と言って微笑む。

「美羽、そういう服の子を、街でもネットでも目で追うこと多かったから、好きなんかな? と思って。美羽が着たらどんな感じになるだろう? みたいに想像はしてた」

 私は、翼が、女の子らしいタイプを好きなんだろうと思い込んでいた。まさかの、因果関係が逆。自分の無意識の行動には気づけない。

「美羽、何、照れてんの」
「照れてない」
「ふうん」

 翼のにこにこした顔が、すごくむかつく。私のことなんか気にせず手を握って、嬉しそうに先に進みだしたのも、なんだか余計むかつく。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

【完結】ゆるぎとはな。

海月くらげ
恋愛
「せんせえ、もうシよ……?」 高校生の花奈と、聖職者であり高校教師の油留木。 普段穏やかで生徒からも人気のある油留木先生。 そんな男が花奈にだけ見せる表情がある。 教師×生徒 禁断TL小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...