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おまけ
19 おうちが一番 ①
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「誕生日?」
「何か欲しい物、ある?」
私がそう問いかけると、翼は上を見て少し考えている様子だった。しばらくして、目線を私に戻し、口を開く。
「物はいらないから、遊園地に行きたい!」
「遊園地?」
予想外の希望。
「俺、美羽と付き合うまで、デートらしいデートってしたことなくて」
「……は?」
「失恋して、もう誰かを好きになることはないと思って。そういうのは諦めてた」
「入れ食いだったんじゃないの?」
淡々と訊ねると、翼は少し眉を寄せた。
「……聞きたいの?」
「純粋に疑問で」
嫉妬した方がいいのか。いいんだろうけど、そういうの、どうでもいいしなあ。過去のことだし。
「ほとんどの相手とは一回限りだったし、二回会った相手とも向こうから誘われて夜飲んでその流れでっていうパターンしかなかった。三回会った相手はいない」
これはひどい。私だってデートくらいしたことはある。
幼馴染のミユキさんに振られたなら振られたで、次の恋へ進めばいいのに。どうして恋愛そのものを諦めて、女子を食い散らかす方向に行ったんだ。極端すぎるだろ。
それに、私とも、いわゆるデートらしいデートはしていない気がする。たまに、街に買い物に行ったり、夜飲みに行ったりすることはあるけど。買い物は生活用品であることがほとんどだし、飲みに行くのも安い居酒屋だ。色気ゼロ。
映画は家で見るし、遊園地・動物園・水族館あたりのアミューズメントパークに行ったことはない。私はインドア派だから進んで出かけはしないし、翼からも特に行きたいとは言われなかったから。
結局、翼の前倒し誕生祝いは、本当の誕生日の三週間ほど前に決定した。そんなに前だともはや誕生祝いではない気もするけど。その三日後に引っ越し。あわただしい。
当日は最寄り駅で落ち合うことになった。デートだから待ち合わせがしたいと翼が熱烈に希望したからだ。お互いの部屋から十五分くらいの場所で待ち合わせ。なんだか妙な気分。
改札に着くと、翼は、最近では珍しい、入れ食い時代の服を着ていた。それなりの格好をすると、それなりに綺麗な顔をしているから、それなりに見える。「それなり」飽和状態。
「美羽!」
私の姿を見つけた翼がやたら嬉しそうで。手だけじゃなく、尻尾もぶんぶん振られているような。本当に犬だ。
「今日のスカート、初めて見た!」
「まあ、買ったから」
黒いカットソーにラベンダーピンクのスカートを合わせた。春らしい、シフォン生地の。翼のデートに対する期待がものすごく大きそうだったので、コスプレと割り切って、少し女の子らしい服を買ったのだ。必要経費。トップスを白にした方が春らしいのだろうけど、そこまで甘い雰囲気のコーディネートは、私が無理だった。
「いいね! 美羽、そういうちょっとひらっとした感じ、似合う!」
「え? 似合う?」
確かに、試着した時、店員さんにもやたら褒められた。セールストークだとしか思っていなかったけど。
「うん。それに俺ずっと、美羽、そういうのが好きなんだろうと思ってたんだ」
おかしい。なんだか話が噛み合わない気がする。女の子らしい服を纏ったマネキンやタレントを眺めていたのは、翼自身ではないか。
「翼が、こういうの、好きなのかと思ってたんだけど」
「女子の服なんかよくわかんないし、どういう格好をしてほしいとかも特にない。本人が好きなものを着たらいい」
「でも、こういう服よく見て……」
翼はきょとんとした表情で少しの間黙っていた。何か合点がいったのだろう、ああ、と言って微笑む。
「美羽、そういう服の子を、街でもネットでも目で追うこと多かったから、好きなんかな? と思って。美羽が着たらどんな感じになるだろう? みたいに想像はしてた」
私は、翼が、女の子らしいタイプを好きなんだろうと思い込んでいた。まさかの、因果関係が逆。自分の無意識の行動には気づけない。
「美羽、何、照れてんの」
「照れてない」
「ふうん」
翼のにこにこした顔が、すごくむかつく。私のことなんか気にせず手を握って、嬉しそうに先に進みだしたのも、なんだか余計むかつく。
「何か欲しい物、ある?」
私がそう問いかけると、翼は上を見て少し考えている様子だった。しばらくして、目線を私に戻し、口を開く。
「物はいらないから、遊園地に行きたい!」
「遊園地?」
予想外の希望。
「俺、美羽と付き合うまで、デートらしいデートってしたことなくて」
「……は?」
「失恋して、もう誰かを好きになることはないと思って。そういうのは諦めてた」
「入れ食いだったんじゃないの?」
淡々と訊ねると、翼は少し眉を寄せた。
「……聞きたいの?」
「純粋に疑問で」
嫉妬した方がいいのか。いいんだろうけど、そういうの、どうでもいいしなあ。過去のことだし。
「ほとんどの相手とは一回限りだったし、二回会った相手とも向こうから誘われて夜飲んでその流れでっていうパターンしかなかった。三回会った相手はいない」
これはひどい。私だってデートくらいしたことはある。
幼馴染のミユキさんに振られたなら振られたで、次の恋へ進めばいいのに。どうして恋愛そのものを諦めて、女子を食い散らかす方向に行ったんだ。極端すぎるだろ。
それに、私とも、いわゆるデートらしいデートはしていない気がする。たまに、街に買い物に行ったり、夜飲みに行ったりすることはあるけど。買い物は生活用品であることがほとんどだし、飲みに行くのも安い居酒屋だ。色気ゼロ。
映画は家で見るし、遊園地・動物園・水族館あたりのアミューズメントパークに行ったことはない。私はインドア派だから進んで出かけはしないし、翼からも特に行きたいとは言われなかったから。
結局、翼の前倒し誕生祝いは、本当の誕生日の三週間ほど前に決定した。そんなに前だともはや誕生祝いではない気もするけど。その三日後に引っ越し。あわただしい。
当日は最寄り駅で落ち合うことになった。デートだから待ち合わせがしたいと翼が熱烈に希望したからだ。お互いの部屋から十五分くらいの場所で待ち合わせ。なんだか妙な気分。
改札に着くと、翼は、最近では珍しい、入れ食い時代の服を着ていた。それなりの格好をすると、それなりに綺麗な顔をしているから、それなりに見える。「それなり」飽和状態。
「美羽!」
私の姿を見つけた翼がやたら嬉しそうで。手だけじゃなく、尻尾もぶんぶん振られているような。本当に犬だ。
「今日のスカート、初めて見た!」
「まあ、買ったから」
黒いカットソーにラベンダーピンクのスカートを合わせた。春らしい、シフォン生地の。翼のデートに対する期待がものすごく大きそうだったので、コスプレと割り切って、少し女の子らしい服を買ったのだ。必要経費。トップスを白にした方が春らしいのだろうけど、そこまで甘い雰囲気のコーディネートは、私が無理だった。
「いいね! 美羽、そういうちょっとひらっとした感じ、似合う!」
「え? 似合う?」
確かに、試着した時、店員さんにもやたら褒められた。セールストークだとしか思っていなかったけど。
「うん。それに俺ずっと、美羽、そういうのが好きなんだろうと思ってたんだ」
おかしい。なんだか話が噛み合わない気がする。女の子らしい服を纏ったマネキンやタレントを眺めていたのは、翼自身ではないか。
「翼が、こういうの、好きなのかと思ってたんだけど」
「女子の服なんかよくわかんないし、どういう格好をしてほしいとかも特にない。本人が好きなものを着たらいい」
「でも、こういう服よく見て……」
翼はきょとんとした表情で少しの間黙っていた。何か合点がいったのだろう、ああ、と言って微笑む。
「美羽、そういう服の子を、街でもネットでも目で追うこと多かったから、好きなんかな? と思って。美羽が着たらどんな感じになるだろう? みたいに想像はしてた」
私は、翼が、女の子らしいタイプを好きなんだろうと思い込んでいた。まさかの、因果関係が逆。自分の無意識の行動には気づけない。
「美羽、何、照れてんの」
「照れてない」
「ふうん」
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