寿命が来るまでお元気で

ゆれ

文字の大きさ
上 下
44 / 57

44

しおりを挟む
 
 ありがとう、はちょっと違う。まだよく言葉にできない。自分のほうが遥かにうまく使える筈なのに、おかしなことだ。わらってゆるく首を振り、つないだ手にじわりと力をこめる。それで伝わるわけではないけれど、ただそうしたい気分だった。
 案の定村長は顔を真っ赤にして怒ったが、手紙はきちんと畳んで仕舞っていた。激情のあまり倒れかけて妻を心配させ、しかし矛先を向ける相手が来良ではないとちゃんと理解して、ぐぐっと拳を握り込んで、これで村の他の娘が連れていかれずに済むのならよかった、と呻くように言った。








 ふさふさでもふもふの上等な尻尾に埋もれていると旅疲れなど秒で消し飛んだ。

「きもち……」

 抱いた時よりさらに感じ入ったような声を聞きつけて朱炎はけものの本性をしたまま顔を顰める。矜持にいささか傷がついた。そんなことなどつゆ知らず来良はとにかく幸せな気持ちでいっぱいだった。にこにこしながら、白銀の美しい被毛にすりすりと頬を寄せる。やわらかく撫でさする。顔をうずめて嗅ぎ慣れた匂いを思いっきり吸い込む。
 初めこそくすぐったがっていた朱炎は、徐々に洒落にならない変化を身体に感じ戦々恐々としていた。端的に言うとムラムラした。

『オイ来良、もういいだろ』

 けものの姿では人語を操れないので念で頭の中に直接話しかける。人形ひとがたをとっている時も使える能力だが、便利そうで羨ましかった。俺も使えたらいいのにと来良はこっそり思っている。

「えーやだ、もうちょっともふる」
『いつでもなってやっから俺様にもさわらせろ』
「ダメ……」

 色っぽい吐息まじりのいらえに朱炎はキレた。

「クソが!!!」
「ああ!」

 懇願を無視して朱炎が人形ひとがたをとる。しかも欲望に忠実に青年体なのに気づいて来良は慌てて離れようとした、が足首を掴まれて畳にべしゃっと潰れる。移動も含めると長丁場の仕事が済んで久方ぶりに屋敷へ戻ってくれば弟達は留守をしていた。それもそうか、日中だ。しかし雨がしとしと地面を打ち続けている所為で昼間だというのに昏く、行燈の灯が部屋の隅で揺らいでいる。
 風呂に入ってすこしだけ食べ物をつまんで、贅沢に午睡とでも耽ろうとしていただけなのに。黒いひとえ一枚という薄着の来良をひん剥いて朱炎は喉や胸、下腹、太腿の内側など好きなところをきつく吸い上げてはせっせと情痕を残している。巨大で可愛い九尾の狐は跡形もなく消えてしまった。

「ンン、こら朱炎、せめて見えねぇとこにしろって」
「あ? どうせすぐ消えんだろ」
「弟達に見られちまう」
「お前な……」

 いい加減あいつらを乳飲み子のように扱うのはやめろと言いたくなる。朱炎は顔を上げると、来良の肉感的な唇にがぶりと噛みつく。んっとこちらの気も知らずにまた悩ましい下半身直撃の喘ぎ声がころがる。知らぬは親ばかりなり。そんな文言が、朱炎の脳裏をふっと過った。

 弟達がいるまえでは少年の姿をしていること。同居に際して来良が朱炎に結ばせた約束のひとつだ。つまり青年体をしている時は交合する意図があると、実は幸良も新良も暮らしだしてすぐに察しわざと邪魔をしてくるようになっている。それに気が付いてないのは来良だけだ。未だに朱炎と何をしているか、具体的には知られてないと思っている。
 長身美形のこの姿ならナメられもしないのに。少年のままでいると、あの悪童達はすぐにクソ狐クソ狐と罵ってくるしやり返して傷のひとつでもつけようものなら、来良に嫌われてしまう。足を見られて朱炎は反撃できないのだ。理不尽にもほどがある。

 況してやこんなふうに滅多に人目にさらさない、けものの本性をただもふりたいからという理由で見せてやっているなどとばれた日にはきっと鬼の首を取ったようにからかい倒してくるに違いない。恐ろしい、いっそ悍ましい、そこらのあやかしなどよりも余程性根の曲がった幸良と新良を、来良にも見せてやりたい。
 というかそういうふうに意味のないイジられ方をしていても『仲良くなったなあ』のひとことで片付ける来良の感性にも多分に問題がある気がしてくる。惚れた弱みで見逃してきたが、さて、なんとかしてもうちょっとでもあのクソガキ達より多く愛情を得られないものだろうか。

「挿れンぞ」
「うう、ンンん……っ」

 まだ行為に慣れないうちこそ、指をいれられかき混ぜられたものだったが最近ではもう初めから朱炎の茎がはいってくる。来良は力を脱いて逞しいそれを根元まで呑み込んだ。四つ這いにされている所為か内側の弱点によく当たって腰がびくびく震える。来良自身も完全に近いかたちにふくれあがって、朱炎の白い手がひとえの合わせをくぐりぎゅうぎゅうと扱いてきたのでますます硬さを増した。

 不意にちいさな影が縁側からふっと現れ敏捷な動きでふたりに近づく。来良の背中にとす、と着地してまるく座るそれは黒猫だ。萌葱色の双眸でじいっと朱炎を見あげる。

「オイ猫、邪魔だ退け」
「あ、やっぱいる?」

 視認はできない来良が半分首を返すと、ゴロゴロ喉を鳴らして頬にすりつく。弾かれないところを見るとただの猫のようだ。しかしこれが、朱炎が気をあてても逃げない。「眷族か」と忌ま忌ましげに呻くのが聞こえる。どうやらあやかしになっていなければ力を帯びていても触れて平気らしい。

 あまりまえに身体を倒さなければ猫を潰さずに動けるのは動けるが見えると気になるのだろう。なかに含んだ朱炎が若干萎えたのが可笑しい。あやかしだろうと男の性が繊細なのは共通のようだ。
 来良は、じんと痺れに包まれてはいっているだけでもきもちいのだけれど。せめて助けにならないかときゅっと締めてみると、背後からうっと切羽詰まった声が落ち見事ふたたび力を取り戻された。押し開かれて来良も切なく息を吐く。

「なあ、っあんたもう、芝居は、ぁん、やんねぇの」
「目的は果たしたからな」
 言いながら朱炎が、ぐいーっと大きく腰を回す。合わせて内壁がぞぞぞと蠢く。

「そりゃ、残念。きれえだった、のに、な……アア!」
「また冬青かよ」

 急にがつがつと激しく掘られて濡れた先端が、ぐぽ、と奥に嵌まった。鈍い痛みに来良が背中をびびっと震わせる。かまわずごちゅんと腰を押し出すと達ったらしく、かすかな悲鳴を洩らして朱炎の手がしろく汚された。
 この体位だと深く突けるのはいいが顔が見えない。いつしか猫はいなくなっていた。フンと鼻で笑うと、白い妖狐は指にまとわりつく体液をきれいに舐め取っていく。その間も最奥に嵌められて来良は目を回していた。こんなところまではいられて大丈夫なのだろうか、下腹が熱くて、血がぐんぐん巡っているのがわかる。
 
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

路地に降り立つ

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:2

薄幸少女が狐に嫁入りして溺愛される話

恋愛 / 完結 24h.ポイント:63pt お気に入り:359

悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:19,896pt お気に入り:5,991

二人のアルファは変異Ωを逃さない!

BL / 完結 24h.ポイント:127pt お気に入り:1,354

義妹が本物、私は偽物? 追放されたら幸せが待っていました。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:35pt お気に入り:228

【R18】金色の空は今日も月に恋してる

恋愛 / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:8

森暮らしの菓子職人が神さまに嫁いだ理由

恋愛 / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:15

愛されなかった公爵令嬢のやり直し

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:15,095pt お気に入り:5,779

処理中です...