【完結】優等生の幼なじみは私をねらう異常者でした。

小波0073

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第一章 スパイダー

25.

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 柿崎家での昼食の後、僕は笑香と家へもどった。警戒しきった笑香をともない、いつものようにキッチンへ入る。
 僕は食器棚の前に立ち、背伸びして棚の上にある造花の入ったかごを取った。

「人間は自分の目線より上にある物を見つけにくいって話だよ」

 僕はそう言いながらほこりまみれのかごの中をさぐった。そっと手のひら大の箱を取り出す。
 笑香ははりつめた表情で僕の行動を見守っていた。箱を開けると、僕は笑香にティッシュに包まれた中身を見せた。笑香が大きく目を見張る。

「これ……」

 僕はうなずいた。

「そうだよ。おじさんのネクタイピンだ」

 笑香は絶句したままで食い入るようにピンを見つめた。

「君にも見覚えがあるんじゃないか? おじさんはこれがお気に入りで、昔はしょっちゅうこのネクタイピンをしてたから。──なくしたことを知った時にはあせっただろうね。実際、葬式の後で何度かおじさんがここにいるのを見たから、多分ここで落としたことは知ってたんだと思うよ。まさか八歳の僕が拾って、大切に保管してたとは思わなかったようだけど」

 どこかやるせない表情を作り、笑香は僕の顔を見た。疑いようのない現実に突きつけられたものから目をそらす。

「それから、これが母さんの携帯」

 僕は箱からもう一つ、古ぼけた携帯電話を取り出した。

「中には母さんとおじさんの間でやりとりされたメールが入ってる。母さんの七回忌の時、もう一度充電して中身を確認してみたけど、ちゃんと見られたよ。どうやら二人はここだけじゃなくて外でも会ってたみたいだね。……犯行の後、おじさんもぎりぎりまで母さんの携帯を探してたけど、結局見つからなかったんだ。母さんが警戒して、自分だけのかくし場所にしまっておいたから」

 二つ折りの携帯を開き、ふたたびぱちんと音を立てて閉める。そして笑香を手招きし、僕はレンジ台の前に立った。備えつけのコンロの脇に小さな引き出しがついている。

「ここの中に入ってた。たまに、ここに母さんが携帯をしまうのを見てたんだ。きっと母さんも警戒してたんだろうね。そろそろ別れ話が出て、何かの拍子に証拠の携帯をおじさんに取られるんじゃないかって」

 笑香は小さく首を横に振った。何かを言おうと口を開くが、唇が震えて言葉にならない。

「ピンは言い合いをしている時に母さんがつかんで外れたものだから、まだその指紋が残ってると思う。携帯のメールも確認したければ見せてあげるよ。 ──どうだ? これでも僕が言ったことが嘘だと思うか?」

 僕がとどめの言葉を放つと笑香はうなだれ、目を閉じた。それは死刑を宣告された被告人の姿を思わせた。

「もう……もう、やめて……わかったから」

 やっとのことで出したつぶやき。その声に、すでに抵抗の響きはなかった。
 僕は満面の笑みを浮かべて箱の中に証拠の品々をもどした。そっと笑香の背中を押す。

「僕の部屋へ行こうか」

 笑香が生気のない顔で従う。
 僕は笑香を先に自分の部屋へ通した。僕がベッドに腰をかけると、笑香は憔悴しきった顔で部屋の真ん中に立っていた。
 この悪夢が間違いであるというかすかな期待が消えさって、完全に笑香は打ちひしがれていた。何をどうしていいかわからず、ただその視線をさまよわせる。
 仕方ないな。

「おいで」

 僕が手まねいてベッドに誘うと笑香は頬を引きつらせた。色のなかった双眸が一気に僕への嫌悪で染まる。
 僕は微笑み、優しく言った。

「大丈夫。あんまり痛くないように、いくらでも時間をかけてあげるから」
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