【完結】優等生の幼なじみは私をねらう異常者でした。

小波0073

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第二章 おもちゃの密室

3.

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 そうすれば。
 僕は苦い笑みをもらした。
 僕を殺そうと思う間は自殺しようとは考えまい。
 復讐という名の黒い鎖で、僕はこのまま笑香をつなぎとめておけるだろう。

「殺せ。でなければ、もうあきらめろ。僕を止めることはできないんだ」

 笑香は毛布のすきまから黙って僕の顔を見つめた。

「また来る」

 僕がそう言うと笑香は毛布を引きよせた。そのまま毛布の中にうまって、再び黒いかたまりになる。

「明日も来る。あさっても。君がこの部屋を出るまで、何度でも。──それが嫌なら自分から出ろ、僕に引きずり出されたくないならな」

 最後にそれだけを告げて、僕は笑香に背を向けた。
 階段の下の廊下では、さっきと同じ格好のままでおばさんが僕を見上げていた。僕は静かに階段を下りると不安そうなおばさんの前に立った。作り物の笑顔を見せて、いつものおだやかな口調で語る。

「多分大丈夫だと思います。笑香が自分から部屋を出るまで、もう少しだけまって下さい」

 安堵の表情を浮かべるおばさんにわずかに良心の呵責を感じる。さりげなく目を伏せ、僕はたずねた。

「警察へは……?」

 おばさんは小さく首を振った。

「あの子がどうしても嫌だっていうの。お父さんにも言うなって。誰にも知られたくない、絶対に誰にも言うなって……あの子の気持ちもわかるから、一体どうしたらいいのか……」
「そうですね。──笑香がそう言うのなら、そのほうがいいのかもしれない」

 考え深げな表情をよそおい、僕は低くつぶやいた。

「今は傷を治す方が先です。これ以上僕も笑香の傷をえぐるようなことはしたくない」
「史郎君」

 おばさんの悲痛な呼び声に、僕はおばさんの顔を見返した。

「お願い。あの子のそばにいてあげてね」

 どちらかというと勇人に似た、丸みをおびた柔和な面立ち。その顔色には連日の疲労が色濃く見えた。
 不意に、僕はあらためて思った。この人は何も知らないのだ。

「わかってます」

 僕はおだやかに微笑んだ。

「僕は笑香から離れません」

 おばさんが泣き笑いの表情になる。

「史郎君がいて本当によかった」

 おばさんの心からの言葉に、僕はわずかに視線をそらした。
 嘘で塗り固めたおばさんへの言葉。もしも本当のことを知ったらおばさんはどう思うだろう。笑香と同じように、いや、当事者の笑香以上に怒り、悲しみ、呆然とするのだろうか。
 僕はその時、やっと気がついた。
 これは僕の復讐か? 
 母親を殺した犯人の娘をだまして強姦した息子。もしかすると、僕は母親の敵を討ったことになるのだろうか。
 だが。僕は小さく首を振った。今の僕には長年面倒を見てくれた恩を、仇で返しているようにしか思えなかった。

「また明日お邪魔します」

 僕は視線をそらしたままで、僕を見上げるおばさんの前から離れた。

「何かあったらすぐに連絡をお願いします。……僕は、ずっと笑香のそばにいます」

 たとえ何と言われようともこの思いだけは真実だ。
 僕はそれだけ言い置いて、玄関へと足を向けた。
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