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第二章 おもちゃの密室
17.
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いいとも嫌だとも言わないうちに新保の箸がのびてくる。ひょいとチャーシューをつまみ上げ、ほぼ一口で食いきられた。
僕は思わずむっとした。僕だって別に昔から小食だったわけじゃない。中学の頃はよくサッカー部の連中と練習の後、大盛のカレーを食べに行った。
「唐揚げ、一個食うか?」
小山に盛られた唐揚げを自分の前に押し出され、僕はあわてて首を振った。ただ、最近は食べるのをちょっとひかえているだけだ。
僕は半分やけになり、スープまで飲みほして完食した。
*
支払いを終えて店を出る時、僕は満足に息もできないくらいだった。
「お前、大丈夫か?」
新保の心配そうな声に僕は無理やり笑顔を作った。こんなに苦しい笑顔を作るのは本当に久しぶりだ。
どうやら気を使っているらしく、自転車を押してゆっくり進む新保の後について行く。やっとの思いで追いつくと、新保がふとその歩みを止めた。
「……俺、お前に聞きたいことがあったんだ」
新保はぼそりとつぶやいた。
「お前、昔長野に住んでただろ」
僕は自分の顔を上げた。
「覚えてないか? 結城正孝って。──俺、お前と同じ東部幼稚園だったんだ」
僕は一瞬、めまいがした。
「あの頃、俺んちはまだ親が離婚する前で、母ちゃんは幼稚園で働いてたんだ。それで俺も一緒に通ってた。結城和子っての、覚えてる?」
僕の額ににじんだ汗は決して満腹のせいではなかった。腹の底から吐き気を感じ、その場にうずくまりそうになる。
「たしかお前は途中でいなくなって、俺も小学生の時に親が離婚してこっちに来たんだ。でも長野にいとこがいて……そいつがちょっと教えてくれた。お前、小学生まで長野にいただろ。五年生くらい……いつこっちに来たんだ?」
まさたか。結城正孝。
たしかに僕も覚えている。体格がよく、そのわりに運動よりも絵本が好きで、当時は引っ込み思案だった僕とよく図書室の中で遊んだ。
その頃、僕は精神が一番不安定な時期で、母親が僕を迎えに来るとすぐに本棚の影にかくれた。母親をさける僕の姿に、見つけに来た結城先生はいつもこまった顔をしていた。
僕の過去。
僕が一番ふれられたくない、僕を作り上げる前の過去。
僕は思わずむっとした。僕だって別に昔から小食だったわけじゃない。中学の頃はよくサッカー部の連中と練習の後、大盛のカレーを食べに行った。
「唐揚げ、一個食うか?」
小山に盛られた唐揚げを自分の前に押し出され、僕はあわてて首を振った。ただ、最近は食べるのをちょっとひかえているだけだ。
僕は半分やけになり、スープまで飲みほして完食した。
*
支払いを終えて店を出る時、僕は満足に息もできないくらいだった。
「お前、大丈夫か?」
新保の心配そうな声に僕は無理やり笑顔を作った。こんなに苦しい笑顔を作るのは本当に久しぶりだ。
どうやら気を使っているらしく、自転車を押してゆっくり進む新保の後について行く。やっとの思いで追いつくと、新保がふとその歩みを止めた。
「……俺、お前に聞きたいことがあったんだ」
新保はぼそりとつぶやいた。
「お前、昔長野に住んでただろ」
僕は自分の顔を上げた。
「覚えてないか? 結城正孝って。──俺、お前と同じ東部幼稚園だったんだ」
僕は一瞬、めまいがした。
「あの頃、俺んちはまだ親が離婚する前で、母ちゃんは幼稚園で働いてたんだ。それで俺も一緒に通ってた。結城和子っての、覚えてる?」
僕の額ににじんだ汗は決して満腹のせいではなかった。腹の底から吐き気を感じ、その場にうずくまりそうになる。
「たしかお前は途中でいなくなって、俺も小学生の時に親が離婚してこっちに来たんだ。でも長野にいとこがいて……そいつがちょっと教えてくれた。お前、小学生まで長野にいただろ。五年生くらい……いつこっちに来たんだ?」
まさたか。結城正孝。
たしかに僕も覚えている。体格がよく、そのわりに運動よりも絵本が好きで、当時は引っ込み思案だった僕とよく図書室の中で遊んだ。
その頃、僕は精神が一番不安定な時期で、母親が僕を迎えに来るとすぐに本棚の影にかくれた。母親をさける僕の姿に、見つけに来た結城先生はいつもこまった顔をしていた。
僕の過去。
僕が一番ふれられたくない、僕を作り上げる前の過去。
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