【完結】優等生の幼なじみは私をねらう異常者でした。

小波0073

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第二章 おもちゃの密室

26.

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 ただ僕を凝視する笑香に、僕は晴れやかに笑って見せた。
 今までたくさんの人間がこの笑顔にだまされてきた。魅力的に見えるよう、完成された僕の笑み。その笑顔で話す言葉は真っ黒に腐り果てていた。

「新保は僕がケガさせられて転校したって言っただろ? ──それは違うよ。僕がやつらに突き落とされたように、階段から落ちて見せたんだ」

 息をのむ笑香の表情。ざまあみろだ。僕なんかの笑顔を信じて、僕のそばにいるからこうなるんだ。

「二階の階段の踊り場が、いつも放課後やつらにからまれる場所だった。何をされても無視する僕がよっぽど気に食わなかったんだろうね。あの日の放課後、僕は校長先生が校内の見回りに来ることを知ってた。いつものように宿題をやれだのって無理を言うやつらを聞き流さずに、僕は初めて反抗した。本当にびっくりしてたよ。それから真っ赤になって怒り出して……。手が出たタイミングをはかって僕は階段から落ちたんだ。ばっちりだったね。落ちた瞬間を校長先生が見てたんだ。──後は大体わかるだろ? 僕は骨折で入院して、担任はその場で休職になって、やつらも僕もまとめて転校だ。さすがに祖母の手にあまった僕は、退院の後父親に交渉して、一人でこの家にもどって来たんだ。……一応、君のおばさんに面倒を見てもらう条件つきでね」

 笑香の表情が大きく引きつる。唇を震わせて笑香は言った。

「だって……だって、そんなこと、手紙には一言も書いてなかった。だから私、毎週史郎君の手紙を来るのを楽しみにしてて──」

 僕があの時、どんな気持ちで手紙を書いていたかわかるまい。
 そしてどんなに君の手紙の楽しげな様子をうらやんで、それでも僕にただ一人優しい君に思いこがれていたか。
 僕のことなど何一つ、疑おうともしなかった。君には決してわかるまい。

 笑香の瞳が僕を見つめた。悲哀と同情がないまぜになった、僕が一番嫌いな表情。

──史郎君、かわいそうね。

 この表情をした人間はみんなそばからいなくなった。僕の周囲にいる人間は、始めから僕を拒否する奴と、僕に同情するふりをしながら遠巻きに見つめる奴だけだ。

「これでもまだ僕のそばにいたいか? ……だったらやらせてくれよ。これから僕の部屋に行って、今度は口でしてくれよ。それなら痛くないからいいだろ?」

 悲鳴のような息をもらして笑香の体が僕から離れる。その目に浮かんだ軽蔑の色に、僕はあざけりの言葉で返した。

「ほら、できないだろ。だったらとっとと家に帰れよ。二度と顔を見せないでくれ」

 僕はくるりときびすを返し、一度も笑香を振り返らずに自分の家の門をくぐった。
 涙は一粒も出なかった。
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