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第三章 夜の道で、僕を呼び出した君は。
14.
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週があけた月曜日の放課後、僕は学校からまっすぐに区立の図書館へ向かった。日曜以前の新聞を調べ、地元での不審者情報が載っていないかたしかめるためだ。
今朝笑香を迎えに行った時、どこで不審者の話を聞いたのかおばさんに直接たずねてみた。しかし言葉をにごしてしまって教えてくれなかったのだ。
僕がはじめに思い当たったのは、土曜日の夜、笑香を助けにコンビニに行った時のことだった。それは僕自身が店員につたえた話だし、その時の不審者情報が地元のうわさになっていたとしても、そう不思議ではないだろう。
だが昨日の朝刊をふくめてこのひと月ほどの間には、柿崎家の取っている新聞や、地元の役所のホームページにも思い当たる記事は見つからなかった。昨夜地元の情報サイトを念のためチェックしてみたのだが、やはり結果は同じだった。
僕は眉間にしわをよせ、区立図書館を後にした。大したことではない気もするがどこか心にひっかかる。
だとしたら、おばさんはどこでその情報を手に入れたんだ? 笑香にも真っ先にたずねたが、不審者の件は先日の話もふくめ、心配をかけたくないと一切話していないとのことだった。
そのかわり、僕はちょっと気になる記事を目にした。
『窃盗犯が逃走中に交通事故で死亡』
盗犯捜査中の刑事が窃盗犯を追いかけたところ、逃走した犯人が道路に飛び出して死亡した、という新聞記事だ。
それはひと月ほど前、夏休みが終わる直前の出来事だった。その頃、僕は日々の感覚がなくなるくらいに欝々としていた。ニュースなんてまったく見ていなかった。
もちろん記事には具体的な名前はのっていなかった。だが警視庁第三課の刑事だとすると、もしかしておじさんにも関係する話だろうか?
『なんかさ。家にいると暗いんだよ、みんな。お母さんもお姉ちゃんもしゃべんないし、お父さんも……まあ珍しく家にいるからかな』
ふと勇人の言葉を思い出す。
それは夏休み明けの話だったか。ひょっとすると、おばさんのあの疲労の影は、笑香の問題だけではなくておじさんのこともあったのか。
ちょうど図書館を出た時に、僕はスマホの着信に気づいた。
笑香だ。
僕は唇を噛みしめた。
『しばらくうちに来ないほうがいい』
通学途中に僕が切り出すと笑香はうつむいて押し黙った。
僕は苦笑交じりに続けた。
「どうしたんだ? 喜ばないのか?」
「喜んでるわよ」
笑香は不機嫌そうだった。
「色々心配しなくてすんで、本当にほっとしてる」
「それはよかった」
少しだけ沈黙が続き、笑香は再び口を開いた。
「実は、史郎君に相談したいことがあって。今まで言えなかったんだけど……」
僕は思わず眉をよせた。口ごもる笑香の様子から、かなり言いづらいことらしい。
どくん、と心臓が大きく鳴った。
「もしかして」
僕はその場に立ち止まった。そっと周囲の様子を探り、唇の形だけでつぶやく。
「……妊娠?」
「違うわよ‼」
真っ赤になって笑香が叫んだ。その声に、逆に視線が集まる。
僕は笑香の手を引いた。脇からどっと冷汗が出る。
「ごめん。てっきり……」
僕は小さくつぶやきながら心の底から安堵した。
自業自得とはいえ、朝から心臓に悪すぎる。一応避妊した記憶はあるのだが、すねに傷を持つ身としては一番衝撃的な言葉だ。
「もう、いい! じゃあね!」
「あ……」
ひどく機嫌をそこねた笑香は僕の右手を振り払い、そのまま行ってしまったのだ。
今朝笑香を迎えに行った時、どこで不審者の話を聞いたのかおばさんに直接たずねてみた。しかし言葉をにごしてしまって教えてくれなかったのだ。
僕がはじめに思い当たったのは、土曜日の夜、笑香を助けにコンビニに行った時のことだった。それは僕自身が店員につたえた話だし、その時の不審者情報が地元のうわさになっていたとしても、そう不思議ではないだろう。
だが昨日の朝刊をふくめてこのひと月ほどの間には、柿崎家の取っている新聞や、地元の役所のホームページにも思い当たる記事は見つからなかった。昨夜地元の情報サイトを念のためチェックしてみたのだが、やはり結果は同じだった。
僕は眉間にしわをよせ、区立図書館を後にした。大したことではない気もするがどこか心にひっかかる。
だとしたら、おばさんはどこでその情報を手に入れたんだ? 笑香にも真っ先にたずねたが、不審者の件は先日の話もふくめ、心配をかけたくないと一切話していないとのことだった。
そのかわり、僕はちょっと気になる記事を目にした。
『窃盗犯が逃走中に交通事故で死亡』
盗犯捜査中の刑事が窃盗犯を追いかけたところ、逃走した犯人が道路に飛び出して死亡した、という新聞記事だ。
それはひと月ほど前、夏休みが終わる直前の出来事だった。その頃、僕は日々の感覚がなくなるくらいに欝々としていた。ニュースなんてまったく見ていなかった。
もちろん記事には具体的な名前はのっていなかった。だが警視庁第三課の刑事だとすると、もしかしておじさんにも関係する話だろうか?
『なんかさ。家にいると暗いんだよ、みんな。お母さんもお姉ちゃんもしゃべんないし、お父さんも……まあ珍しく家にいるからかな』
ふと勇人の言葉を思い出す。
それは夏休み明けの話だったか。ひょっとすると、おばさんのあの疲労の影は、笑香の問題だけではなくておじさんのこともあったのか。
ちょうど図書館を出た時に、僕はスマホの着信に気づいた。
笑香だ。
僕は唇を噛みしめた。
『しばらくうちに来ないほうがいい』
通学途中に僕が切り出すと笑香はうつむいて押し黙った。
僕は苦笑交じりに続けた。
「どうしたんだ? 喜ばないのか?」
「喜んでるわよ」
笑香は不機嫌そうだった。
「色々心配しなくてすんで、本当にほっとしてる」
「それはよかった」
少しだけ沈黙が続き、笑香は再び口を開いた。
「実は、史郎君に相談したいことがあって。今まで言えなかったんだけど……」
僕は思わず眉をよせた。口ごもる笑香の様子から、かなり言いづらいことらしい。
どくん、と心臓が大きく鳴った。
「もしかして」
僕はその場に立ち止まった。そっと周囲の様子を探り、唇の形だけでつぶやく。
「……妊娠?」
「違うわよ‼」
真っ赤になって笑香が叫んだ。その声に、逆に視線が集まる。
僕は笑香の手を引いた。脇からどっと冷汗が出る。
「ごめん。てっきり……」
僕は小さくつぶやきながら心の底から安堵した。
自業自得とはいえ、朝から心臓に悪すぎる。一応避妊した記憶はあるのだが、すねに傷を持つ身としては一番衝撃的な言葉だ。
「もう、いい! じゃあね!」
「あ……」
ひどく機嫌をそこねた笑香は僕の右手を振り払い、そのまま行ってしまったのだ。
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