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第三章 夜の道で、僕を呼び出した君は。
16.
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僕はどさりと椅子にすわるとだまって飲み物を口にした。やや投げやりに言い放つ。
「いくら理解があるからって、いつまでもそれに甘えるのはまずいだろ。──それで? 話って何?」
笑香は床に視線を落とした。その深刻な表情に僕は唇を引き締めた。
「もしかして、おじさんの事故のこと?」
そうたずねると、笑香ははじかれたように僕を見た。
「史郎君、知ってたの? お父さんの事故の話」
責めるような目つきで問われ、僕は笑香を見つめ返した。ゆっくりと首を横に振り、誤解をとくために口を開く。
「違うよ。今日図書館で調べ物をしてた時に、たまたま新聞の記事を見つけたんだ。捜査中の刑事が、窃盗犯の追跡中に逃げた犯人を追いかけて……」
「そうか。新聞に載ってたもんね。そう、その話」
笑香はうなだれた。
「ごめん、誤解しちゃった。その話、史郎君には何の関係もないのにね」
それは違う。
僕は忸怩たる思いにかられた。
いつその事故の話を笑香が知ったのかまでは知らないが、その頃の笑香は僕とのことで手いっぱいだったはずだ。その上家族の問題まで持ち上がり、ずいぶんと心細かったことだろう。
「お父さん、部下の刑事さんと一緒に現場にいた時に、犯人に気づかれたんだって。部下の人が追いかけて、やめろってお父さんは言ったらしいんだけど、そのまま犯人が飛び出して……。部下の人はそれが原因で辞めちゃって。お父さんは今、上の人の指示を仰いでるところらしいんだけど」
「事故があったのは八月の終わり?」
僕の問いかけに一つため息をついてうなずく。
「お父さんが自宅待機で家にいて、変だと思ってたらお母さんが教えてくれた。一応仕事には復帰したけど……今日は調査で帰ってこないの」
ペットボトルをテーブルに置いて、僕は腕組みをした。
「処分が出るのはいつ頃か……。もうひと月たったよな。同じような案件を調べればわかるかもしれないけど」
「うん。──それでね、これからどうなるかわからないし、私と勇人のこともあるから、お母さん、また働こうかって話してるの。私はかまわないし、もし何なら私も塾をやめて、アルバイトしようかって言ったんだけど」
僕はけわしい顔を作った。止めはしないが、少し考えが安易じゃないか?
しかしすぐに笑香が続ける。
「お母さん、それはちょっと待ってって。たしかに成績のこともあるから、そんなことして授業についていけなくなったら大変だし。でも塾はやめようと思って。それで──」
「僕ならかまわないよ。いつでも勉強を教えてやるし、ほかにも僕にできることがあれば協力する」
僕がきっぱりと答えると、笑香はほっとした顔で胸を押さえた。だが。
僕は再び眉をよせた。笑香の面持ちからまだ緊張感が抜けない。
この上、一体何があるんだ?
「それでね」
笑香は再びうつむいた。言いかけて、唇を閉じる。だが顔を上げ、笑香は決然と口を開いた。
「実は、お父さんに、自首してもらおうと思ってるの」
「いくら理解があるからって、いつまでもそれに甘えるのはまずいだろ。──それで? 話って何?」
笑香は床に視線を落とした。その深刻な表情に僕は唇を引き締めた。
「もしかして、おじさんの事故のこと?」
そうたずねると、笑香ははじかれたように僕を見た。
「史郎君、知ってたの? お父さんの事故の話」
責めるような目つきで問われ、僕は笑香を見つめ返した。ゆっくりと首を横に振り、誤解をとくために口を開く。
「違うよ。今日図書館で調べ物をしてた時に、たまたま新聞の記事を見つけたんだ。捜査中の刑事が、窃盗犯の追跡中に逃げた犯人を追いかけて……」
「そうか。新聞に載ってたもんね。そう、その話」
笑香はうなだれた。
「ごめん、誤解しちゃった。その話、史郎君には何の関係もないのにね」
それは違う。
僕は忸怩たる思いにかられた。
いつその事故の話を笑香が知ったのかまでは知らないが、その頃の笑香は僕とのことで手いっぱいだったはずだ。その上家族の問題まで持ち上がり、ずいぶんと心細かったことだろう。
「お父さん、部下の刑事さんと一緒に現場にいた時に、犯人に気づかれたんだって。部下の人が追いかけて、やめろってお父さんは言ったらしいんだけど、そのまま犯人が飛び出して……。部下の人はそれが原因で辞めちゃって。お父さんは今、上の人の指示を仰いでるところらしいんだけど」
「事故があったのは八月の終わり?」
僕の問いかけに一つため息をついてうなずく。
「お父さんが自宅待機で家にいて、変だと思ってたらお母さんが教えてくれた。一応仕事には復帰したけど……今日は調査で帰ってこないの」
ペットボトルをテーブルに置いて、僕は腕組みをした。
「処分が出るのはいつ頃か……。もうひと月たったよな。同じような案件を調べればわかるかもしれないけど」
「うん。──それでね、これからどうなるかわからないし、私と勇人のこともあるから、お母さん、また働こうかって話してるの。私はかまわないし、もし何なら私も塾をやめて、アルバイトしようかって言ったんだけど」
僕はけわしい顔を作った。止めはしないが、少し考えが安易じゃないか?
しかしすぐに笑香が続ける。
「お母さん、それはちょっと待ってって。たしかに成績のこともあるから、そんなことして授業についていけなくなったら大変だし。でも塾はやめようと思って。それで──」
「僕ならかまわないよ。いつでも勉強を教えてやるし、ほかにも僕にできることがあれば協力する」
僕がきっぱりと答えると、笑香はほっとした顔で胸を押さえた。だが。
僕は再び眉をよせた。笑香の面持ちからまだ緊張感が抜けない。
この上、一体何があるんだ?
「それでね」
笑香は再びうつむいた。言いかけて、唇を閉じる。だが顔を上げ、笑香は決然と口を開いた。
「実は、お父さんに、自首してもらおうと思ってるの」
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