【完結】優等生の幼なじみは私をねらう異常者でした。

小波0073

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第四章 文化祭

1.

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 世界が変わって見えるのは、きっとこんな瞬間なんだろう。

 僕は菊の花束を抱えて母親の墓を見つめていた。
 あれから、今日で八年か。
 さわやかな秋空が広がる休日。手入れの行きとどいた霊園内には、いくつもの家族連れが見受けられた。家族の団欒を表すような目におだやかな風景だ。どこからかキンモクセイの甘い香りが流れて来る。

 八年前の葬式の際、母の遺骨は父の菩提寺に納めることを許されなかった。行き場をなくした遺骨のために、八方手を尽くしてこの霊園を探し出してくれたのは、他でもない笑香のおじさんだった。
 今、母の墓前には僕一人だけが立っていた。笑香にも、笑香のおばさんにも一緒に行くと言われたが、あえて僕が断ったのだ。
 桶からひしゃくで水をすくってゆっくり墓石へかけていく。それから丁寧に花を生け、線香を供えて立ち上がった。

 正直に言えば、まだ手を合わせる気にはなれない。だがしかし、心おだやかに墓の前に立てるようになった。世間に対する見せかけではなく、僕自身の心から。
 あの日、僕の人生が変わった。あなたの呪縛から解放された。──長い間、僕はそう思っていた。
 でも、それは間違っていた。
 僕はあなたの言動を盾に自分の生き方を狭めていた。自らあなたの呪いにかかり、それを周囲に振りまいていた。やっと僕はそれに気がついた。笑香がそれに気づかせてくれた。
 今、僕は無防備な自分を笑香の前にさらけ出し、自身の拘束から解き放たれたことを全身の器官で感じていた。
 今日こそ僕が本当に、今までの世界を変える日だ。

 僕は母親の墓に一礼した。
 もう僕は影をまとわない。あなたが残した呪いではなく、僕は笑香の言葉を信じる。僕を受け止めてくれた笑香の。
 僕の目の前の視界が開けた。
 さあ、僕達の家に帰ろう。今日は勇人の誕生日だ。笑香が家で待っている。
 僕は晴れやかな思いを胸に、母の命日の弔いを終えた。

     *

「お父さん、明日から新しい職場に異動するの」

 僕がテーブルの前にすわると、反対側にすわった笑香が笑顔で僕にそう言った。
 僕達は笑香の部屋にいた。今の僕にはさすがにベッドに腰かけることは難しく、小さな折りたたみテーブルをはさんでおとなしく距離を置いたのだ。
 笑香の部屋はいつもと同じ笑香の落ち着くにおいがして、淡い下心を抱いた僕でもさほどそわそわせずにいられた。

「先週処分の結果が出て。内部処分ってことだけど、まわりもすごく同情的で雰囲気は悪くないみたい。今日は明日の準備で出てって、多分、帰るのは遅いんじゃないかな」
「そうか。とりあえず落ち着いたならよかった」

 僕は顎に手を当てた。身内に甘い警察のわりにけっこう厳しい処分だと思うが、部下の管理に問題があるとみられたか。

「それから、ありがとう。勇人の誕生日プレゼント、高かったんじゃない?」

 すまなそうな笑香の言葉に、僕は笑って首を振った。

「大丈夫だよ。ふだん無駄遣いしないから、わりと財布に余裕があるんだ。僕も行くのが楽しみだし」

 僕が勇人にあげたのは、ずっと勇人が行きたがっていたアジア予選のチケットだった。僕がリビングで手渡したプレゼントに、勇人は目を輝かせて言った。

「本当に? お兄ちゃんと一緒に行くの⁉」
「もちろん。笑香の分もあるよ」
「えー、男同士で行こうよ。お姉ちゃんうるさいんだもん」

 唇をとがらせた勇人の言葉に笑香が目をつり上げる。
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