【完結】優等生の幼なじみは私をねらう異常者でした。

小波0073

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第五章 夢の終わり

1.

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 退院の日、僕は迎えに来てくれたおばさんに連れられて、二週間ぶりに家に帰った。

 平日の午前中だったせいもあり、笑香は顔を見せなかった。本人からもあらかじめそのことを伝えられていたために、僕はあきらめとともに受け入れた。
 以前よりさらにやつれた雰囲気のおばさんが教えてくれたことには、笑香は今週から本格的に部活を始めたようだった。

「環境が変われば、あの子も少しは落ち着くんじゃないかしら」

 疲れた笑顔でおばさんがつぶやく。
 その表情に心労の深さを垣間見て、僕は申し訳ない気分になった。ただでさえ気苦労の多いおばさんに、僕のことでさらにその手をわずらわせてしまった。
 僕の退院の手続きも父親が来ると言ったのだが、僕が強硬に断ったのだ。多分そのことで柿崎家と多少揉めたのだろう。いつもは引け目がちな父親が、めずらしく僕に釘を刺した。

『自分が言えた立場じゃないが、柿崎さんにあまり迷惑をかけないようにな』

 重々理解はしているが、どうしても自分の父親が絡むと反感の気持ちがわき上がる。
「荷物の整理を手伝う」というおばさんの好意を丁重に断り、僕は久しぶりに家の鍵を開けた。玄関先に荷物を下ろして家の空気を入れ替える。
 全ての窓を開放すると、適度に冷たく乾いた風が心地良く中に吹き抜けた。だが、主の僕がいない間に、出しっぱなしにしたカップなどの父親の痕跡を残されて、僕はあらためて不愉快になった。

 ベッドの上で寝起きする楽な生活にならされてしまい、日常のこまごまとした用事がひどくおっくうに感じる。医者から重いものを持つなと注意を受けていたために、僕は片付けもそこそこに遅い昼食をとり始めた。コンビニのサンドイッチを口に運びながら、スマホの画面に目を落とす。

 笑香は今頃午後の授業の最中だろうか。ぼんやり思いを巡らせていると、不意にあいていたリビングの窓が外から乱暴に叩かれた。
 僕は顔を上げ、目を見開いた。背中にランドセルを背負ったまま、勇人が僕をにらみつけている。

「お兄ちゃんの嘘つき!」

 鋭く言った勇人の言葉が僕の心をしめつける。
 それは、僕が勇人の誕生日に約束していた、サッカーの試合観戦に行けなくなったことへの抗議だった。

「ごめん、勇人」

 僕は沈んだ声で答えた。決して忘れていたわけではないが、許されることではないだろう。

「お兄ちゃんなんか大っ嫌いだ‼」

 勇人はそれだけ言い捨てて庭から出て行ってしまった。
 僕は重い気持ちを抱え、サンドイッチをテーブルに置いた。食欲はきれいに消え失せていた。
 結局姉の笑香の代わりに勇人が顔を出しただけで、その日は一日、僕は一人で家にいた。
 笑香は、やはり僕の部屋には来なかった。
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