【完結】優等生の幼なじみは私をねらう異常者でした。

小波0073

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第五章 夢の終わり

10.

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「いい加減にして!」

 ばん、と音を立てて引き戸が開かれ、笑香が中に入って来た。
 冷ややかな声でおじさんが言う。

「笑香。出て行きなさい。今は史郎君と話してるんだ」
「そうやって、さっきから思わせぶりなことばっかり言って。結局史郎君が邪魔なんでしょう? 私のことだけじゃなくて。──私も勇人も、お母さんだって史郎君のことを頼りにしてる。だって、史郎君は今までずっと私達のそばにいてくれたもの。お父さんがいない時、いつも史郎君が助けてくれた。お父さんなんてずっと仕事で、全然家にいなかったじゃない‼」

 悲鳴のような笑香の訴えに、赤く充血したおじさんの目が鋭い光を放ち始める。
 僕は唇を噛みしめた。
 だめだ、笑香。
 これ以上おじさんを追いつめたらだめだ。
 しかしおじさんはぐっと衝動をこらえるように顎を引き、笑香によく似た口元を結んだ。

「笑香。その話はまた後で聞こう。……今は史郎君のことだ」

 笑香はリビングの真ん中に立って、まるで全身から怒りの炎を噴き上げるように言い切った。

「私、絶対に史郎君と別れないから。何があったって絶対に別れたりしないから‼」

 笑香。
 まさか笑香がこの僕に、そんなことを言ってくれるなんて。
 僕への誓いとも呼べる叫びに心が芯から揺さぶられた。誰にも受け入れてもらえずに、自分の中の情動にのたうち回って苦しんでいた、あの日の僕が嘘のようだ。
 僕は静かに微笑んだ。信じられないくらい幸せな今の自分を思い知る。
 笑香。──本当にありがとう。
 重く冷たい腹の底から熱い感情が込み上げる。
 今の僕なら、笑香のために、どんなことだってして見せるよ。
 僕はまっすぐに背筋を伸ばし、あらためておじさんへ向き直った。

「一つ、おじさんにお聞きしたいことがあります」

 僕は冷静な口調で切り出した。二人の視線が僕に集まる。

「おじさんはご病気のようですが、もう病院には行かれましたか?」

 さらりとした僕の問いかけに、おじさんは明らかに鼻白んだ。僕はゆっくりと言葉を重ねた。

「僕の父方の伯父も多分、おじさんと同じ病気でした。そのために父と色々あって、結局僕がこちらの家にご迷惑をおかけすることになったのですが……。だからこそあの病気であれば、きちんと病院に行った方がいいと思います」

 おじさんは面食らっていた。こんな子供に身の上話を聞かされて、さらにその上、自分の弱みを追及されるとは思わなかったのだろう。

「そうよ。だから言ったでしょう? 私もお母さんも……」

 一矢報いた僕にわき立つ笑香の声を目でとどめ、僕は再び口を開いた。

「おじさんにお願いがあります。もしもおじさんが医者に相談して、治療を受けてくれるなら。……そして、勇人が好きなサッカーをこれからも続けさせてくれるなら」

 笑香の黒い双眸が、これ以上ないほど見開かれる。

「僕は長野に帰ります」

 僕はきっぱりと言い切った。
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