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第五章 夢の終わり
13.
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笑香が明らかに動転して言った。
「あの、あれは……体育祭の最後のリレーで、史郎君が一組のアンカーで走った時に……。史郎君、写真嫌いだからいつも撮らせてくれないし。美優が一緒に見ててくれたの。今がチャンスだって、教えてくれて」
笑香のつぶやきが耳朶を打つ。
「あの写真ではかっこいいのに」
僕は笑った。
「どういうことだよ。本物より写真がいいって。──君の写真もくれるんだろ?」
笑香はばつの悪そうな顔をして、もじもじとうつむいたまま告げた。
「嫌だな。史郎君、何だか別のことに使いそうだし」
「……」
図星だったので、僕は何も言えなくなった。笑香が僕の胸に頬をよせる。
「私と一緒に撮ってくれるなら。そうしたら、私もその画像をもらうから」
笑みを含んだ提案を僕はしぶしぶ承知した。
「一つだけ聞いてもいい?」
不意に笑香が僕を見上げて、真剣なまなざしで聞いて来た。
「史郎君、もうここにはいなくなるの?」
僕は微笑んだ。
「ちがうよ。僕はここにいて、平日はむこうから学校に通うんだ。週末になったらもどって来るよ。長い休みはここですごすし、単身赴任だと思えばいい」
「でも。だって……」
笑香が口ごもる。
「学校が変わったら新しい友達ができるでしょ?」
暗に僕の心変わりを示す。思わず僕は破顔した。
「多分むこうで通うのは、私立の男子校なんだ。編入が認められればだけどね。……少しは安心した?」
「そんなの、できるわけないじゃない。今だって他の学校の子に告白されてるのに」
笑香が唇をとがらせる。僕は笑香の柔らかい頬をそっと右の手のひらで包んだ。
「だったら君も見に来れば? 僕が浮気できないように、君も時々見張りに来てくれ。僕に内緒でもいいし、僕が迎えに行ってもいいよ」
笑香は幾分甘えた口調で、僕の手のひらに頬を預けた。
「史郎君が私にバレるようなこと、するわけがないでしょう」
「本当に信用がないな」
僕は苦笑し、顔をよせた。
「──もう一度、キスしてもいい?」
僕があらためてたずねると、笑香ははにかんで答えた。
「うん」
僕達は再び唇を重ねようとした。
その時。
「お兄ちゃん、お父さんが」
勇人の大声とともに玄関のドアが開かれる。僕達はあわてて体を離した。
そうぞうしい足音を立ててリビングに入って来た勇人は、僕と笑香の様子を見るとぽりぽりと頭をかいて言った。
「あ、ごめん。……後にしようか?」
「いいから。何だ、勇人?」
「お父さん、サッカー続けてもいいって。でも……」
見る見るうちにそのまなじりをつり上げる。
「お兄ちゃんの嘘つき! お兄ちゃん、引っ越すんだって? またサッカーの練習につきあってくれるって言っただろ!」
僕は笑って勇人に答えた。
「嘘じゃないよ。毎週金曜日の夜には来るから。長野なんて新幹線ですぐだし」
それくらいの交通費だったら父親を脅して手に入れてやる。僕が一緒に住むと話せばきっと喜んで出すだろう。
僕は皮肉っぽく続けて言った。
「同じ家に住んでたはずのおじさんだって、今まで一週間に一回くらいしか会えなかっただろ?」
勇人が目を丸くした。
「そうか。……そうだね。じゃあ今度一緒に練習する時は、ゴール前でボールをカットする時のコツを教えてよ」
「僕の怪我が治る前に、かけ算九九を全部覚えたらな」
僕の返事に勇人は露骨に嫌な顔をした。その勇人の顔を見て、笑香は声を上げて笑った。
「あの、あれは……体育祭の最後のリレーで、史郎君が一組のアンカーで走った時に……。史郎君、写真嫌いだからいつも撮らせてくれないし。美優が一緒に見ててくれたの。今がチャンスだって、教えてくれて」
笑香のつぶやきが耳朶を打つ。
「あの写真ではかっこいいのに」
僕は笑った。
「どういうことだよ。本物より写真がいいって。──君の写真もくれるんだろ?」
笑香はばつの悪そうな顔をして、もじもじとうつむいたまま告げた。
「嫌だな。史郎君、何だか別のことに使いそうだし」
「……」
図星だったので、僕は何も言えなくなった。笑香が僕の胸に頬をよせる。
「私と一緒に撮ってくれるなら。そうしたら、私もその画像をもらうから」
笑みを含んだ提案を僕はしぶしぶ承知した。
「一つだけ聞いてもいい?」
不意に笑香が僕を見上げて、真剣なまなざしで聞いて来た。
「史郎君、もうここにはいなくなるの?」
僕は微笑んだ。
「ちがうよ。僕はここにいて、平日はむこうから学校に通うんだ。週末になったらもどって来るよ。長い休みはここですごすし、単身赴任だと思えばいい」
「でも。だって……」
笑香が口ごもる。
「学校が変わったら新しい友達ができるでしょ?」
暗に僕の心変わりを示す。思わず僕は破顔した。
「多分むこうで通うのは、私立の男子校なんだ。編入が認められればだけどね。……少しは安心した?」
「そんなの、できるわけないじゃない。今だって他の学校の子に告白されてるのに」
笑香が唇をとがらせる。僕は笑香の柔らかい頬をそっと右の手のひらで包んだ。
「だったら君も見に来れば? 僕が浮気できないように、君も時々見張りに来てくれ。僕に内緒でもいいし、僕が迎えに行ってもいいよ」
笑香は幾分甘えた口調で、僕の手のひらに頬を預けた。
「史郎君が私にバレるようなこと、するわけがないでしょう」
「本当に信用がないな」
僕は苦笑し、顔をよせた。
「──もう一度、キスしてもいい?」
僕があらためてたずねると、笑香ははにかんで答えた。
「うん」
僕達は再び唇を重ねようとした。
その時。
「お兄ちゃん、お父さんが」
勇人の大声とともに玄関のドアが開かれる。僕達はあわてて体を離した。
そうぞうしい足音を立ててリビングに入って来た勇人は、僕と笑香の様子を見るとぽりぽりと頭をかいて言った。
「あ、ごめん。……後にしようか?」
「いいから。何だ、勇人?」
「お父さん、サッカー続けてもいいって。でも……」
見る見るうちにそのまなじりをつり上げる。
「お兄ちゃんの嘘つき! お兄ちゃん、引っ越すんだって? またサッカーの練習につきあってくれるって言っただろ!」
僕は笑って勇人に答えた。
「嘘じゃないよ。毎週金曜日の夜には来るから。長野なんて新幹線ですぐだし」
それくらいの交通費だったら父親を脅して手に入れてやる。僕が一緒に住むと話せばきっと喜んで出すだろう。
僕は皮肉っぽく続けて言った。
「同じ家に住んでたはずのおじさんだって、今まで一週間に一回くらいしか会えなかっただろ?」
勇人が目を丸くした。
「そうか。……そうだね。じゃあ今度一緒に練習する時は、ゴール前でボールをカットする時のコツを教えてよ」
「僕の怪我が治る前に、かけ算九九を全部覚えたらな」
僕の返事に勇人は露骨に嫌な顔をした。その勇人の顔を見て、笑香は声を上げて笑った。
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