【完結】優等生の幼なじみは私をねらう異常者でした。

小波0073

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第五章 夢の終わり

28.

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 その後起こった出来事を、僕はほとんど覚えていない。
 錯乱しきった僕の体を看護師達が取り押さえ、腕に針を刺したことは知っている。だがその光景はぼんやりしていて夢だったのかもわからない。
 僕が覚えていることは、スーツ姿の誰かの腕が僕を抱きしめていたことだ。暴れる僕の体を押さえ、再び折れてしまった骨がひどくなるのを防いでいた。声をからして泣き叫んでいる僕の乱れた惨状に、誰かはずっと僕を支えて、僕のすぐそばにいてくれた。

 僕が一時的に意識を取りもどした場所は、見慣れてしまったベッドの上だった。見覚えのある白い天井と、僕を見つめる優しいまなざし。

「……湯浅さん」

 僕はほとんど声が出なかった。
 柔和な表情をした湯浅さんは、僕に微笑んでつぶやいた。

「安心しなさい、史郎君。笑香ちゃんは無事だ。今は集中治療室にいるけど、きっとすぐに会えるようになる」
「──うそだ」

 僕は言った。

「嘘だ、そんなこと。……誰が信じるか。僕は見たんだ、笑香が僕の目の前で──」
「史郎君」

 厳しい顔つきで湯浅さんは言った。

「僕が君に嘘をついたことがあるか? 笑香ちゃんはちゃんと生きてる。君が動けるようになったらすぐに会わせてあげるから」
「……うそだ」

 僕はそれだけ言い捨てて、再び自分のまぶたを閉じた。黒い渦の中に巻き込まれるかのように意識が遠のいて行く。
 僕がすべてを知ったのは、あの惨劇が起こった日から一週間たった後だった。

     *

 あの事件の直後に起こった嵐のような出来事に、情けなかった僕に対して気丈だったのはおばさんだった。
 自分の夫が起こした罪を真正面から受け止めて、怒涛のようなマスコミと対峙し、自分と子供の身の振り方を弁護士と相談したらしい。手際よく身の回りの整理をし、湯浅さんが手配してくれたマンスリーマンションに落ち着いた。……まるで、いつの日かこうなることがあらかじめわかっていたように。

 帰って来ない笑香や僕をうちに見に来てくれたのも、おばさんだったと後で聞いた。僕は少しだけほっとした。小学生の勇人にだけは、あの時起こった惨状をその目で見て欲しくなかったからだ。
 僕に脳裏に焼きつけられた、大人が残した犯罪のトラウマ。もう、あの時の僕のような思いは誰にも感じて欲しくない。
 そして、おじさんは──。

 実の娘と彼氏に手をかけ、自らが犯罪の容疑者として職場にもどったおじさんは、取り調べ中に警察のトイレで自殺しているのが発見された。
 監視の厳しい容疑者の立場で、どうやったのかは僕にはわからない。だがきちんと遺書も残して、自分の罪を償うとあった。具体的には笑香と僕への謝罪の言葉や、おばさんに後を託す内容が短くのべられていたらしい。──そして、職場の上司に対する厳しい批判と怨嗟の声。

 その時初めて、僕は笑香のおじさんの上司がパワハラで有名だったのを知った。そして今から八年前、おじさんが母を手にかけた時も、同じ人物がおじさんの上司だったということも。

 その悪名の高い上司は、以前も部下をパワハラで自殺させ、管理職として問題があったと懲戒処分を受けていた。おじさんが起こした事件を受けて、ついに上司は辞職した。だがおじさんの遺書の中身は、僕の母親への犯罪には言及していないようだった。
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