【完結】優等生の幼なじみは私をねらう異常者でした。

小波0073

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番外編1 柳沢笑香の完璧な恋人

56.懐古八景 16

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 広い公園を抜けた後、善光寺の裏手側にある細い路地へと向かいながら、笑香は地元民である二人の会話を聞いていた。部活の話題や学内の様子など、史郎の男子高校生らしい生活の一部が知れてうれしくなる。

 だが授業の進み具合はさすがに進学校らしく、笑香にはついて行けないほどハイレベルなものだった。どうやら史郎の学校は、基本的な高校で教える指導要領の内容については、二年生の二学期中に全て終わらせてしまうらしい。それ以降の時間を使って受験の準備をすることを悟り、笑香は頭が痛くなった。

──史郎君は私にも同じことをさせるつもりかな?

 多分そうなのだろう。史郎の部屋の本棚でちらりと眺めた参考書は、笑香の家に置いてあるものと大体同じものだった。
 一度笑香の家に忘れてから、同じ間違いは二度と犯さない史郎らしく、笑香に教える際に使用する数々の参考書の類は、全て笑香の家に置いてあった。つまり史郎は同じ参考書をそれぞれ二冊ずつ買ったのだ。

──頭のいい人が考えることはわからない。

 笑香が内心ため息をついていると、不意に桜田が振り返って笑香の方にたずねて来た。

「昨日、こっちに来たの?」
「あ、ええ。そうです」

 笑香はあわててうなずいた。桜田は横の史郎を見上げ、不満そうな口ぶりで続けた。

「お前、蕎麦屋の件は言い訳で、本当は俺に彼女を見せびらかしたかったんだろ?」
「まあな」

 史郎がにっこりと微笑んで例の笑顔を桜田に向ける。
 桜田はくやしそうに唇をとがらせた。

「くっそ、覚えてろよ。今日の試合でボールを全部泥まみれにして、後でお前に拭かせてやる。誰にも手伝わせないからな」

 史郎が心底嫌そうに答えた。

「それは嫌だな。結構手が荒れるんだよ。これ以上水仕事を増やしたくない」

 主婦のような史郎の言葉を再び笑香は耳にして、思わずくすくすと笑った。
 そんな笑香の様子を見ながら、桜田が目元にくしゃっと笑いのしわをよせた。

「──本当にかわいいな。東京の女の子って皆こんなんなのか?」

 感心したような声色に笑香は頬を赤らめた。史郎がにやっと笑って答える。

「だから言っただろ。俺の彼女はかわいいって」
「あれだけ写真を見せろって言ったのに、素直に見せないからだ。あるんだろ、写真くらい」
「もったいなくて見せられるか」

 史郎が気心の知れた友人と話す他愛ないその掛け合いに、自然と口角が上がってしまうのを笑香は抑えられなかった。彼が充実した高校生活を送っていることを理解して、何だかうれしさが込み上げて来る。

「そういえば、ちゃんと腹は減ってるんだろうな? あそこんちのそば、量が多くて有名だぞ。間違っても大盛なんか頼むなよ。たかがそばだって馬鹿にすると結構痛い目に合うぜ」

 ふと桜田が漏らした言葉に、笑香は史郎と顔を見合わせた。そらみろ、と言いたげな史郎の表情にくやしくなって口を開く。

「おやきって、お土産で買えますか?」
「近所の和菓子屋で買えるけど、スーパーにだって売ってるよ。まあ、お土産用なら冷凍かな。その場でできたやつを食べるのが、多分一番うまいんだろうけど。俺も最近食べてないからわからないな」

 桜田の答えを聞いて笑香は心中で決意した。

──絶対に、史郎君に山ほどお土産用のおやきを買わせてやるんだから。
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