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二日目 ー3
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昨日からわけがわからないまま、ただ引っ張られるままについて来たけれど、私はそろそろ限界だったようだ。
あの襲撃で、私は本当に、どこか知らない異世界に来てしまったんだと、思い知らされていた。
次の町に到着して。ようやく宿屋に落ち着いた途端、ベッドに倒れこんでしまう。
私を降ろしたカイルが「大丈夫? 疲れた?」と心配そうに声を掛けてくるけれど、とても返事をする気になれず、私はただ首を振るだけだった。
「ごめん、少し考えたいから、一人にして欲しいの。なんだかやっといろいろ実感してきてるっていうか……」
「ルカ……」
「ごめんね」
俯く私を、カイルが不意に抱え込むように抱きしめた。彼の白い翼までが、私を覆うように回される。
「ルカ、心配ごとや不安があるなら、僕に言って欲しいんだ。僕が君の力になる。君を守るのは、僕の役目なんだ」
でも、カイルがそうやって私を大切に守るのは、神様がカイルに任せると言ったから、なんでしょう?
言葉を飲み込んで、「ありがとう」とだけ口に出した。
そのまま眠ってしまっていたのか、ふと目を覚ますと部屋の中は真っ暗で……もぞもぞと自分を包んだままだったマントから顔を出すと、目の前にはナイアラの顔があった。
「あー、ルカちゃん起きたあ?」
うふふと笑うナイアラに呆然としてしまう。
「ナイアラ、どうして……言葉も……」
「寝る前にねえ、イリヴァーラに魔法かけといてもらったのお。そんで、ルカちゃん抱っこして寝たら、暖かいかなあって」
思ったとおりだったよと、ナイアラがぎゅうっと私を抱きしめた。
尻尾がぺたぺたと、落ち着かせるようなリズムで私の身体を叩く。
「明日、カイルに自慢しちゃおうっと。ルカちゃんの抱き心地最高って。いい匂いまでするしい」
くすくす笑いながら私に頬ずりするナイアラに、なんだかほっとして――
「ナイアラ、耳、触ってもいい?」
ん? と顔を上げて彼女はにいっと目を細めて笑った。
「ルカちゃんならいいよお。特別に、触らせてあげるねえ」
手を伸ばしてそっと触ると、ナイアラの耳も髪の毛も、とても柔らかくて、ふかふかで、さらさらと触り心地が良くて。
「ルカちゃん、たいへんだったねえ」
いつの間にかぼろぼろ涙が溢れてた私を、またナイアラがぎゅうと抱きしめて、よしよしと頭を撫でた。
「ルカちゃんすごく頑張ったよお。
あたしたちみたいな冒険者でもないのに、ちゃんとあそこに留まれたもんねえ。
怖かったのに、えらかったねえ」
まるで小さい子供みたいにナイアラに撫でられて、うんうんと頷く。
「……すごく、怖かったの。殺すのも、殺されるのも、すごく怖かったの」
ぽつぽつと話す私に、ナイアラはただ抱きしめて黙って頷いて、頭を撫で続ける。
「全然知らない場所に、私ひとりだけなの。
神とか悪魔とか知らない。なんで私が関係あるの?
神託なんて知らない。なんで私はここにいるの?」
「神様のことはわかんないけどお……そうだなあ、あたし、ルカちゃんいてくれて楽しいよお?
みんなもルカちゃんのこと気に入ってるのは間違いないもん。
まだ2日だけだけど、ルカちゃんのおかげでカイルもちょっと丸くなったし、ヘスカンも喋るようになったし、イリヴァーラもなんだか余裕ができたし、あたしルカちゃん来てくれてよかったなあ」
頭を撫でながらそう言ってくれるナイアラは、すごく優しく笑っていた。
「それにしてもお」
ナイアラが急にぷくっと頬を膨らませて、何かを思い出すような顔になる。
「カイルは前からおバカだなあって思ってたけど、ほんとにおバカだったんだねえ」
「え?」
「もうねえ、よりによって不安に苛まれてる女の子に、“神に任されたから”って、ほんっとーにおバカよねえ。
神抜きでもっと気の利いたこと言えないのかっていうのよお」
「え? え?」
目を丸くする私に、ナイアラはひとりうんうんと頷く。
「そこじゃない、っていうの。
あーもう、カイル、バカだけど、愛想尽かさないでねえ?
あれで結構どころじゃなくルカちゃんにめろめろだし、将来も有望な聖騎士なんだあ。
だから、ナイアラ一生のお願いねえ!」
拝むように両手を合わされて、私はちょっと慌ててしまった。
「そ、それよりも、私が呆れられちゃうんじゃないかって……何にもできないし……お荷物だし……」
「それは大丈夫よお。
カイルがルカちゃんに呆れるなんてありえないんだから、心配しちゃだめー」
あっけらかんと言われて、ほんとにそうなのかな、と思う。
でも、ナイアラのおかげで、少しだけ気持ちが軽くなったのは確かだった。
あの襲撃で、私は本当に、どこか知らない異世界に来てしまったんだと、思い知らされていた。
次の町に到着して。ようやく宿屋に落ち着いた途端、ベッドに倒れこんでしまう。
私を降ろしたカイルが「大丈夫? 疲れた?」と心配そうに声を掛けてくるけれど、とても返事をする気になれず、私はただ首を振るだけだった。
「ごめん、少し考えたいから、一人にして欲しいの。なんだかやっといろいろ実感してきてるっていうか……」
「ルカ……」
「ごめんね」
俯く私を、カイルが不意に抱え込むように抱きしめた。彼の白い翼までが、私を覆うように回される。
「ルカ、心配ごとや不安があるなら、僕に言って欲しいんだ。僕が君の力になる。君を守るのは、僕の役目なんだ」
でも、カイルがそうやって私を大切に守るのは、神様がカイルに任せると言ったから、なんでしょう?
言葉を飲み込んで、「ありがとう」とだけ口に出した。
そのまま眠ってしまっていたのか、ふと目を覚ますと部屋の中は真っ暗で……もぞもぞと自分を包んだままだったマントから顔を出すと、目の前にはナイアラの顔があった。
「あー、ルカちゃん起きたあ?」
うふふと笑うナイアラに呆然としてしまう。
「ナイアラ、どうして……言葉も……」
「寝る前にねえ、イリヴァーラに魔法かけといてもらったのお。そんで、ルカちゃん抱っこして寝たら、暖かいかなあって」
思ったとおりだったよと、ナイアラがぎゅうっと私を抱きしめた。
尻尾がぺたぺたと、落ち着かせるようなリズムで私の身体を叩く。
「明日、カイルに自慢しちゃおうっと。ルカちゃんの抱き心地最高って。いい匂いまでするしい」
くすくす笑いながら私に頬ずりするナイアラに、なんだかほっとして――
「ナイアラ、耳、触ってもいい?」
ん? と顔を上げて彼女はにいっと目を細めて笑った。
「ルカちゃんならいいよお。特別に、触らせてあげるねえ」
手を伸ばしてそっと触ると、ナイアラの耳も髪の毛も、とても柔らかくて、ふかふかで、さらさらと触り心地が良くて。
「ルカちゃん、たいへんだったねえ」
いつの間にかぼろぼろ涙が溢れてた私を、またナイアラがぎゅうと抱きしめて、よしよしと頭を撫でた。
「ルカちゃんすごく頑張ったよお。
あたしたちみたいな冒険者でもないのに、ちゃんとあそこに留まれたもんねえ。
怖かったのに、えらかったねえ」
まるで小さい子供みたいにナイアラに撫でられて、うんうんと頷く。
「……すごく、怖かったの。殺すのも、殺されるのも、すごく怖かったの」
ぽつぽつと話す私に、ナイアラはただ抱きしめて黙って頷いて、頭を撫で続ける。
「全然知らない場所に、私ひとりだけなの。
神とか悪魔とか知らない。なんで私が関係あるの?
神託なんて知らない。なんで私はここにいるの?」
「神様のことはわかんないけどお……そうだなあ、あたし、ルカちゃんいてくれて楽しいよお?
みんなもルカちゃんのこと気に入ってるのは間違いないもん。
まだ2日だけだけど、ルカちゃんのおかげでカイルもちょっと丸くなったし、ヘスカンも喋るようになったし、イリヴァーラもなんだか余裕ができたし、あたしルカちゃん来てくれてよかったなあ」
頭を撫でながらそう言ってくれるナイアラは、すごく優しく笑っていた。
「それにしてもお」
ナイアラが急にぷくっと頬を膨らませて、何かを思い出すような顔になる。
「カイルは前からおバカだなあって思ってたけど、ほんとにおバカだったんだねえ」
「え?」
「もうねえ、よりによって不安に苛まれてる女の子に、“神に任されたから”って、ほんっとーにおバカよねえ。
神抜きでもっと気の利いたこと言えないのかっていうのよお」
「え? え?」
目を丸くする私に、ナイアラはひとりうんうんと頷く。
「そこじゃない、っていうの。
あーもう、カイル、バカだけど、愛想尽かさないでねえ?
あれで結構どころじゃなくルカちゃんにめろめろだし、将来も有望な聖騎士なんだあ。
だから、ナイアラ一生のお願いねえ!」
拝むように両手を合わされて、私はちょっと慌ててしまった。
「そ、それよりも、私が呆れられちゃうんじゃないかって……何にもできないし……お荷物だし……」
「それは大丈夫よお。
カイルがルカちゃんに呆れるなんてありえないんだから、心配しちゃだめー」
あっけらかんと言われて、ほんとにそうなのかな、と思う。
でも、ナイアラのおかげで、少しだけ気持ちが軽くなったのは確かだった。
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