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三日目 ー2
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「“深淵の都”っていうのは、今も昔も大陸で一番の大都市なの」
街道を歩きながら、イリヴァーラがのんびりと説明をしてくれる。
昨日のようにナイアラは少し前を行っていて、あれは彼女が斥候役を担当してて、昨日みたいな待ち伏せや魔物がいないかどうかを探りつつ進むためなのだそうだ。
逆に言えば、街道だというのにそんなことをしなければならないほど、この辺りが危険だということでもある。
「その都も、“大災害”のせいで昔よりはひとが減ったって言うけど、それでもいろいろな種族が何万……いえ、何十万も暮らしているわ」
この世界に何十万人も暮らすような大都市があるなんて、と驚きに目を瞠る。
「あまり見ない種族も見られるわよ。
カイルみたいな天人はともかく、精霊混じり、悪魔混じり、神混じりみたいな混血の種族も多いし……ただ、あまり良くない種族も多く入り込んでるから、気をつけないといけないけど」
良くない種族、と聞いて首を傾げると、イリヴァーラは考えるように指を顎に当てる。
「そうね……一番の代表は魔人かしら。
天人とは逆。下方世界の住人と人間の合いの子よ」
かほうせかい? と呟くと、カイルが頷いた。
「下方世界っていうのは、九層地獄界のような、悪しき神々の支配する世界をひっくるめた呼び方だよ」
「そう。つまり平たく言えば魔人ていうのは悪魔と人間のハーフで、悪魔の性質を濃く受け継いでいるの。
他にも……そうね、私のような黒妖精には近づかないほうがいいわ」
肩を竦めてイリヴァーラが言う。
何故? とまた私が首を傾げると、イリヴァーラはちょっと眉尻を下げて笑った。
「黒妖精はね、もともと悪なる神の一柱である魔女王の下僕として作られた種族なの。だから、黒妖精の大部分は今でも魔女王に忠実に仕えているわ。
私みたいな捻くれ者は稀だから、黒妖精をみたら悪いやつだって考えて間違いないわね」
――ああ、だからイリヴァーラは、町ではフードを深くかぶったままだったんだ、と腑に落ちる。
宿に着いてから、ナイアラと違ってあまり外を歩かないのも、そのせいだったのか。
「悪魔混じりも、気をつけたほうがいいわ。
遠い祖先に悪魔の血が混じっている種族で悪魔の性質は薄まってるけど、それでも、悪なる神の信徒だったり悪なることに手を染めてたりっていうことが多いの。
彼らは立派な角と長い尾を持ってるから、見ればすぐにわかるわ」
それから、この世界にいるという、様々な種族のことを聞きながら歩いた。時々ヘスカンの注釈も入り、ふたりは本当にいろいろなことを知っているんだなと感心する。
休憩の時、ナイアラが「なんだかすごく楽しそうなおしゃべりが聞こえてくるの、いいなあ」と口を尖らせていたけれど、都に着いたら存分に話をすればいいじゃないとイリヴァーラに言われて「絶対だからねえ」と私の手をぎゅうっと握った。
今日はこのまま都まで何事もなく行けるんじゃないか。
そう思った途端――また、襲撃を受けた。
昨日のように待ち伏せていたことは、たぶん、間違い無いんだろう。けれど、昨日のようにナイアラが察知できるような待ち伏せではなくて――
「ま、ほうだ」
横を歩いていたカイルが、それだけをどうにか呟いて、いきなり頽れた。
「カイル!?」
「襲撃よ! 魔法に警戒して! ヘスカン、カイルを頼むわ。麻痺よ」
私がカイルを助け起こそうとするよりも早く、イリヴァーラがナイアラに叫んで私の腕を掴み、街道の端にある茂みの方へと引っ張った。
ナイアラがとっさに街道の横の茂みへと走りこむと、間一髪の差でナイアラがいた場所に魔法の爆発が起こる。
「カイルは大丈夫。すぐにヘスカンが治すから。少し周りを気をつけてて」
爆音にくらくらしている私にそう言って、イリヴァーラはまた魔法を唱える。
複雑な指の動きに、昨日よりも長い詠唱なのは、少し難しい魔術を使おうとしているからなのだろうか。
突然、横の茂みががさがさと揺れて、小さな剣をもった人間が襲いかかってきた。
悲鳴をあげそうになって、慌てて手を口に押し当てる。
イリヴァーラの集中を壊しちゃいけない。
けれどすぐに狙いがイリヴァーラだとわかり、思わず立ち塞がろうとした……ら、くぐもった呻き声を上げて、そいつはばたりと倒れていた。
「こっちの警戒は、あたしががんばるねえ」
茂みからひょこっと顔を出したのはナイアラだった。
私は安堵の息を吐いて、へたりこみそうになる。
「あいつら、ルカちゃん狙ってきてるんだあ。
ルカちゃんは生捕りって考えてるみたいだから、火球みたいな魔法は飛ばしてこないと思うのお。
だから、イリヴァーラと一緒にいてあげてねえ?」
こくこくと頷くと、ナイアラがにいっと笑った。
「ルカちゃん、頼りにしてるから、お願いねえ」
それだけを言って、また茂みの中に隠れてしまう。
ナイアラの言葉で、襲撃者のやり方がまどろっこしい理由がわかった気がした。
彼らは、私を巻き込まずに、綺麗な状態で手に入れたいのか。だから、カイルたちを個別にやらざるを得ないんだ。
怖いけれど、いるだけで役に立てるなら……。
街道を歩きながら、イリヴァーラがのんびりと説明をしてくれる。
昨日のようにナイアラは少し前を行っていて、あれは彼女が斥候役を担当してて、昨日みたいな待ち伏せや魔物がいないかどうかを探りつつ進むためなのだそうだ。
逆に言えば、街道だというのにそんなことをしなければならないほど、この辺りが危険だということでもある。
「その都も、“大災害”のせいで昔よりはひとが減ったって言うけど、それでもいろいろな種族が何万……いえ、何十万も暮らしているわ」
この世界に何十万人も暮らすような大都市があるなんて、と驚きに目を瞠る。
「あまり見ない種族も見られるわよ。
カイルみたいな天人はともかく、精霊混じり、悪魔混じり、神混じりみたいな混血の種族も多いし……ただ、あまり良くない種族も多く入り込んでるから、気をつけないといけないけど」
良くない種族、と聞いて首を傾げると、イリヴァーラは考えるように指を顎に当てる。
「そうね……一番の代表は魔人かしら。
天人とは逆。下方世界の住人と人間の合いの子よ」
かほうせかい? と呟くと、カイルが頷いた。
「下方世界っていうのは、九層地獄界のような、悪しき神々の支配する世界をひっくるめた呼び方だよ」
「そう。つまり平たく言えば魔人ていうのは悪魔と人間のハーフで、悪魔の性質を濃く受け継いでいるの。
他にも……そうね、私のような黒妖精には近づかないほうがいいわ」
肩を竦めてイリヴァーラが言う。
何故? とまた私が首を傾げると、イリヴァーラはちょっと眉尻を下げて笑った。
「黒妖精はね、もともと悪なる神の一柱である魔女王の下僕として作られた種族なの。だから、黒妖精の大部分は今でも魔女王に忠実に仕えているわ。
私みたいな捻くれ者は稀だから、黒妖精をみたら悪いやつだって考えて間違いないわね」
――ああ、だからイリヴァーラは、町ではフードを深くかぶったままだったんだ、と腑に落ちる。
宿に着いてから、ナイアラと違ってあまり外を歩かないのも、そのせいだったのか。
「悪魔混じりも、気をつけたほうがいいわ。
遠い祖先に悪魔の血が混じっている種族で悪魔の性質は薄まってるけど、それでも、悪なる神の信徒だったり悪なることに手を染めてたりっていうことが多いの。
彼らは立派な角と長い尾を持ってるから、見ればすぐにわかるわ」
それから、この世界にいるという、様々な種族のことを聞きながら歩いた。時々ヘスカンの注釈も入り、ふたりは本当にいろいろなことを知っているんだなと感心する。
休憩の時、ナイアラが「なんだかすごく楽しそうなおしゃべりが聞こえてくるの、いいなあ」と口を尖らせていたけれど、都に着いたら存分に話をすればいいじゃないとイリヴァーラに言われて「絶対だからねえ」と私の手をぎゅうっと握った。
今日はこのまま都まで何事もなく行けるんじゃないか。
そう思った途端――また、襲撃を受けた。
昨日のように待ち伏せていたことは、たぶん、間違い無いんだろう。けれど、昨日のようにナイアラが察知できるような待ち伏せではなくて――
「ま、ほうだ」
横を歩いていたカイルが、それだけをどうにか呟いて、いきなり頽れた。
「カイル!?」
「襲撃よ! 魔法に警戒して! ヘスカン、カイルを頼むわ。麻痺よ」
私がカイルを助け起こそうとするよりも早く、イリヴァーラがナイアラに叫んで私の腕を掴み、街道の端にある茂みの方へと引っ張った。
ナイアラがとっさに街道の横の茂みへと走りこむと、間一髪の差でナイアラがいた場所に魔法の爆発が起こる。
「カイルは大丈夫。すぐにヘスカンが治すから。少し周りを気をつけてて」
爆音にくらくらしている私にそう言って、イリヴァーラはまた魔法を唱える。
複雑な指の動きに、昨日よりも長い詠唱なのは、少し難しい魔術を使おうとしているからなのだろうか。
突然、横の茂みががさがさと揺れて、小さな剣をもった人間が襲いかかってきた。
悲鳴をあげそうになって、慌てて手を口に押し当てる。
イリヴァーラの集中を壊しちゃいけない。
けれどすぐに狙いがイリヴァーラだとわかり、思わず立ち塞がろうとした……ら、くぐもった呻き声を上げて、そいつはばたりと倒れていた。
「こっちの警戒は、あたしががんばるねえ」
茂みからひょこっと顔を出したのはナイアラだった。
私は安堵の息を吐いて、へたりこみそうになる。
「あいつら、ルカちゃん狙ってきてるんだあ。
ルカちゃんは生捕りって考えてるみたいだから、火球みたいな魔法は飛ばしてこないと思うのお。
だから、イリヴァーラと一緒にいてあげてねえ?」
こくこくと頷くと、ナイアラがにいっと笑った。
「ルカちゃん、頼りにしてるから、お願いねえ」
それだけを言って、また茂みの中に隠れてしまう。
ナイアラの言葉で、襲撃者のやり方がまどろっこしい理由がわかった気がした。
彼らは、私を巻き込まずに、綺麗な状態で手に入れたいのか。だから、カイルたちを個別にやらざるを得ないんだ。
怖いけれど、いるだけで役に立てるなら……。
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