神託の乙女になりました

ぎんげつ

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五日目 ー1

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 翌日、朝起きるとなんだか頭が重くて、ぼうっとしているような気がした。寝過ぎてしまったのだろうか。

「どうしたのお?」

 頭をぐるぐる回していたら、起き出したナイアラが不思議そうに尋ねる。

「すっきりしなくって。変な姿勢で寝ちゃったのかな? 肩が凝ってる気もするし」
「ふうん? 肩揉んであげようかあ?」

 猫の肩揉み! という誘惑に抗えなかった私は、少しだけお願いすることにした。
 結論、ナイアラは肩揉みがうまい。



 今日は、私とイリヴァーラのふたりで、ジャスパーという魔術師の住まいを訪ねることになっている。どうしても心配だというカイルは外で待つからと、やっぱり付いてくるのだそうだ。
 それでは、まるで、本当に犬みたいなんじゃないだろうか。
 歩く間は、都についてから常にそうしているように手を繋いだままで、いつの間にか、この状態にも慣れてしまったなと思う。

「ここね」

 教えて貰ったジャスパーの住まいは、商業区の西側の、主に住宅が並ぶ区画の北の外れにある塔だった。ここへ来るときに見た城壁より高い塔だ。たぶん、普通の建物の2、3階層分くらいは高いのではないだろうか。

「じゃあ、カイル。ここでおとなしく待っていてね」

 カイルがどうにも離し難いような面持ちで手を離し、「気をつけて」と頭にぽんと手を乗せる。
 ただでさえカイルの背は私の頭ひとつ分以上高いのに、そんなことをされては年齢が逆転したかのように感じてしまう。

「行ってくるね」

 それだけを言い残して、私はイリヴァーラの後に続いた。



 まるで待たれていたかのように……いや、実際待っていたのだろう。門が開き、塔の扉が開き……自動ドアのように次々と入り口の扉が開き、まるで誘い込まれるように私たちは塔の中へと入る。

 塔の中でも、私たちはまるで案内されるかのように、ぽつぽつと順番に灯る明かりにしたがって進む。
 途中には、人間よりも大きい、変わった甲冑のような鉄の像がいくつか置かれていた。

「ゴーレムかしらね? それにしては、初めて見る形だけど」

 イリヴァーラが小さく呟きながら、しげしげと見つめながら進む。
 たぶん、外壁に沿って作られているんだろう階段を、ひたすら案内に従ってぐるぐると昇りきると、ようやく扉が見えた。
 結構な高さを昇り切って、切れ切れになった息を深呼吸で整えてから、ノックをしようと拳を上げた途端……また扉が開く。

「どうぞ、待ってたよ」

 中から柔らかい男性の声が響いた。

 待っていたのは、輝く金の髪に星をはめ込んだような銀の目の、ものすごくきれいな男性だった。男性に“きれい”はおかしいかもしれないが、きれいとしか形容しようがないのだ。
 神々しさではカイルに一歩譲るかも知れないけれど、顔面偏差値はいい勝負ではないだろうか。
 彼が立ち上がると、呆気に取られる私をよそにイリヴァーラが一歩進み、妖精らしい優雅なお辞儀をする。

「ジャスパー殿、今日はお会いいただくことができて、光栄です」
「私のほうこそ、善き黒妖精の魔術師イリヴァーラ・エダーグレンに会えるとは光栄だ」

 ふたりとも、にっこりと微笑んで握手まで交わしているのに……なんだろう、言葉に表しにくいこの雰囲気は。

 緊張のあまり手に汗をかきながら伺ってしまう。
 彼はふっと笑って「お茶を出すから、そこに座って」と私たちに長椅子を勧め、魔法でお茶の準備をする。
 種族補正なのか見た目補正なのか。
 ひらひらと指をひらめかし、いったいどうやってなのかさっぱりわからない方法でカップに茶を注ぎ、私とイリヴァーラの前にカップを置く。
 その手つきまでもがとても優雅で綺麗で、私はつい見惚れながら自分との差を考えてしまう。

 見た目がいいだけで、こうも違うなんて。
 私はしみじみと考えながら、ふうふうと息を吹きかけてお茶を一口ごくりと飲んだ。

「お茶、どう? 口に合ったかな?」

 なぜかにこにこと微笑んで、彼は私が茶を飲む様子をじっと見ている。

「え、ええと、おいしい、です」

 もう一口飲んでそう答えると、彼はますます笑みを深めていた。お茶を飲んだだけなのに、なぜそんなにじっと見ているのだろうか。

「それは良かった。ちなみに、今日出したお茶はね――」

 彼がそう述べるのと同時に、なぜか動悸が激しくなる。
 おまけに顔も熱くなってきて、いったい何が起きているのかと混乱する。

 慌てて彼を見るとさらに顔が熱くなって……首まで真っ赤になっていることが自分にもわかるくらい熱くて、ますます混乱する一方だ。

「え、なに? どうして?」
「私が特別に調合したもので、惚れ薬にも使われる薬草が入っている」
「えっ、ええええ?」
「躊躇なく飲んでくれて嬉しいよ」
「ほっ、惚れ薬!?」

 くつくつと楽しそうに笑うジャスパーと、まさかこれは彼に惚れてしまったせいなのかと慌てる私に、イリヴァーラが溜息を吐いた。
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