神託の乙女になりました

ぎんげつ

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五日目 ー3

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 私は首をすくめて、ふたりの言葉を待つ。

「──ちょっとルカ! 何を言い出すのこの子は!」
「もしかして、君、純潔なんだ?」

 けれど、ふたりの言葉は、私が予想していたものと少し違っていた。

「だ、だって、“乙女”って、“乙女”って、カルトでも教会でも、皆、そう言うし、それに、そういう意味、なんでしょう?」
「いやまあ、確かに資格の要件のひとつにはなり得ることだけどね」

 ジャスパーがお腹を抱えてひいひい笑いながら言う。
 私は全身真っ赤になって、泣きたくなってしまう。

「どっ、どうせっ、い、いい歳して、とか、思ってる、でしょ」
「なんで? 君未婚でしょ? なら別にいいんじゃない? それとも私がもらってあげようか?」
「もう、ルカは何を気にしてるのよ! ジャスパーもさりげなく変なこと言うのやめて!」

 下を向いて思わず涙ぐむ私をジャスパーが覗き込む。イリヴァーラは、その彼を突き飛ばすように押し退けて、私を抱え込む。

「もう、そんなの全然気にするところじゃないわよ、この子は!」
「とは言ってもね、正直なところ、何が資格なのかはわからないんだよ。
 神が君の何を気に入って目をつけたのか、そこはおそらく神自身にしかわからない。君が持ってる何かが神の目に止まったことは間違いないんだけどね」
「それじゃ……」

 眉尻を下げる私に、ジャスパーは肩を竦める。

「“乙女”を辞めても辞めなくても、あまり結果は変わらないだろうね。
 君自身がどうしても気になってしかたないなら、君の聖騎士にでも貰ってもらったらいいと思うよ。それなら後悔も少ないんじゃないかな?
 ――いや、むしろいい結果になるかもしれない」
「え、だって、そんなの」
「だから! そうやってこの子をけしかけるのはやめて!」

 イリヴァーラがまたぎゅうと私を抱き寄せて、ジャスパーから隠そうとする。
 彼は「はいはい」と笑って、魔書をつまみ上げた。

「ま、私はもう少しこの本を読み解いてみることにするよ。危険のない範囲でだけどね。“乙女”の身体を張った頑張りに免じて、何かわかったら必ず知らせよう」



 ジャスパーのところを辞して、塔の階段を下りながら、イリヴァーラが深く息を吐く。

「もう、何を言い出すかと思えば、なんてことを考えてるのよ、あなたは」
「……だって」

 呆れた声で言われて首を竦めてしまうと、イリヴァーラはこちらを見てもう一度溜息を吐く。

「変なこと気にするの、やめてちょうだい。
 そもそも、純潔だけが理由なら、わざわざ他の次元からあなたを呼ぶ必要はないわ。ルカじゃなきゃいけない理由があって、あなたが今ここにいるのよ」
「そうなの?」
「そうよ。だって、他次元から誰かを呼ぶって、結構面倒なのよ。それも他の現物質界からだなんて、どれだけの労力が掛かってるか考えるだけでぞっとするわ」

 だから、もうくれぐれも変なことは考えるなと、もう一度念を押される。こくりと頷いたところで塔の入り口を出ると、外の光がとても眩しい。
 ここへ入った時と変わらず、門の前に立ち続けているカイルが見えて、ようやく肩の力が抜けた。日の光を受けて髪がきらきらと輝いている。
 ジャスパーもきれいだったけれど、カイルのほうが何倍もきれいだなと思う。

「おかえり。何もなかったかい?」

 そう言って手を差し出されて、ジャスパーとのやり取りをつい思い出してしまう。手を取ろうとしてぴきんと固まってしまった私を凝視してから、カイルはイリヴァーラに視線を移す。

「イリヴァーラ、何があったんだ」
「ああ……なんと言えばいいのかしら。たぶん、いちばん的を射ている言い方は、“ルカが盛大に自爆した”ってところかしらね」
「自爆?」 
「そう。あんまり深く追求しちゃだめよ」
「あ、ああ――」
「ほら、ルカはカイルのとこに行って」

 背中をどんと押されてよろけるように前に進み出る。慌てて私を抱きとめながら、カイルはどうも腑に落ちないのか、眉根を寄せて首を捻っていた。

「それじゃ、私はこのまま図書館へ行くことにするから。カイル、あとは任せたわ」
「わかった」

 今度こそ、カイルはまたしっかりと私の手を握り、「昼を食べてから戻ろう」と歩き始めた。
 頷いてちょこちょことついてくるだけの私に、カイルはもう一度首を傾げて、「何かあった?」と聞いてくる。

「な、何も、ないから。大丈夫」
「本当に?」
「うん」
「ならいいけど……何かあったなら、僕にすぐ知らせてくれ」

 こくこくとひたすら頷く私に、カイルはひとつ息を吐いて、無理やり納得することにしたようだ。



 商業区画に出ている屋台であれこれと見繕いながら歩く。

「蝕って、5日後なんだってね」
「――そうなんだよ」

カイルは驚いたように目を瞠って、それから、繋いだ手にぐっと力を込める。

「皆、今は必要な情報を集めているんだ。あと1日か2日もすればいろいろわかって、根本的な解決を目指して動けるようになるから。それまでの辛抱だ」
「うん、皆が頑張ってくれてるの、わかってる」
「君も頑張ってるよ」

 そんなことはないとかぶりを振る私の背を、カイルが励ますように軽く叩く。
 けれど、私はますます俯いてしまう。

 私にできることと言えば、アートゥやジャスパーのような情報提供者に請われたからと、付いていくくらいだ。
 けれど、その場ですら、話をするのは私ではなくカイルやイリヴァーラで――私自身のことなのに、私自身にはでは何もできない。
 しかも、皆、私が“神託の乙女”だからという理由だけで助けてくれる。

「ルカ」

 不意にカイルが屈み込み、私の顔を覗き込んだ。つい目を逸らす私の頬に口付けて、「不安にならないで。大丈夫、ちゃんと護るから」と囁く。
 私はこくりと頷いて、だけどなぜだか泣きたくなった。
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