神託の乙女になりました

ぎんげつ

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十日目 -3

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 魔人は禍々しい、邪悪なる神に捧げるに相応しい言葉を紡ぎ始めた。
 それに合わせるように、私の内にいるものの気配がどんどん強くなっていく。“魔女の舞踏場”の内側に籠る嫌な気配までが、どんどんと濃くなっていく。

 私の手がカイルの喉に伸ばされ、その喉を締め上げる。
 私の体の自由は再び奪われて――震える腕をカイルが抑えた。

「カイル、私の中に何かいるの。このままじゃ私、カイルに……カイルが危ないの」

 どうにかそれだけを告げる私に、カイルはただ優しく笑む。

「大丈夫、僕は聖騎士だ。
 神は常に僕とともにあり、僕は神の代理としてその力を振るう。神は僕に加護を与え、僕は神の名においてこの邪なるものたちを打ち倒す。
 それは僕が聖騎士である限り、普遍の事実なんだ。君は心配しなくていい。必ず、君を救うから」

 がくがくと震える私をカイルはしっかりと抱き竦める。自由を得ようと身体は勝手にもがくけれど、カイルの腕はビクともしない。

「ルカ、大丈夫だ。僕を信じて。
 ──“邪なるものに命ず、直ちにルカの内より離れよ”」

 私の中に巣食うものが苦しみに身をよじる。カイルから流れ込む力が、内にいるものを追い詰める。

「“神よ、これなる者に、御身の加護を。邪なるものからの護りを”」

 内のものの気配が消えて、震えが止まる。
 パキリと割れた石が、額から落ちた。
 私をしっかりと抱え直して、カイルが剣を構える。

「しっかり掴まっていて」

 祈りの言葉を唱え、揺らめく壁に突進し鋭く斬り付けた。何度も何度も。その間にも魔人の詠唱は続き、だんだんと気配は増して息苦しくなり、頭も朦朧としてくる。

「もうすこしだ、がんばって、ルカ」

 カイルの声に励まされてどうにか意識を保ち、ようやく破れた壁の外には、清浄な空気があった。

 けれど。

「一歩、及びませんでしたか」

 あまり悔しそうには感じられない魔人の声に振り返ると、“魔女の舞踏場”にはぽっかりと穴が開き、炎が吹き出していた。
 まるで、カイルがかつて語った、神託の光景のように。

「“九層地獄界インフェルノ”――まさか、ここと繋げたのか」
「蝕という“時”、これまで何度も儀式に用いられ穢され続けてきた“場”、そしてあなたが流した大量の血という“贄”……これほどの条件は、なかなか揃えることはできません。
 惜しむらくは、あなたを堕とせなかったことですが……あなたの気配に誘われて、すぐにでも“悪魔大公プリンス”のどなたかがおいでになるでしょうから、別に構いません」

 くつくつと、その魔人はやはり笑っていた。

「カイル、ルカ、無事でしたか。けど、これは」

 追いついてきたヘスカンが、地獄へと通じる大穴を見て絶句する。

「ヘスカン、イリヴァーラとナイアラは?」
「あちらがもう少しかかるということで、私は一足先にこちらへ……先に来て、良かった」

 ヘスカンはすぐに腰に下げた袋に手を入れて、巻物を幾つか取り出した。

「“門”の巻物なら用意があったはずです。なんとかできないか、試してみましょう」

 目当ての巻物を見つけ、それを広げようとする。
「そうはさせませんよ」

 哄笑とともに、ヘスカンがいきなり“氷嵐”に襲われた。

「ヘスカン!」

 彼は慌てて避けたけれど一歩間に合わず、冷気と氷の塊の直撃を受けてしまう。
 かなりの怪我を負ったのではないかと震えあがる私に、ヘスカンは大丈夫だと手を振った。

「氷には少し耐性があるんですよ。私は銀竜の系統ですから。これくらいなんでもありません」

 そう言ってヘスカンがカイルに目をやると、彼はわかっているとでも言うかのように、頷いた。

「あれの相手は僕がやろう。ヘスカンはこの穴を頼むよ」

 カイルはそう言って私を下ろした。

「ルカは安全な場所にいてくれ。もう少しで終わるから、もう少しだけ、待っていてくれ」
 こくりと頷く私の頬を撫で、一度だけぎゅっと抱きしめてから、カイルは白い翼をはためかせ、空へと舞い上がった。

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