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5-2.ヒロインちゃんとの……
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ロズリーヌは、迫り来る未来の恐ろしい想像に、思わず自分の身体をぎゅっと抱きしめる。
ここまでどうにか邪魔して来たのに、これまでの努力が水の泡となってしまうのだろうか。
「だめよ。殿下が真性の同性愛に目覚めるなんて、許されないわ」
「お嬢様、大丈夫です」
「ジレット、手遅れになってしまったら、わたくしどうしましょう」
ふたりを避けているとはいえ、学内でロズリーヌはずっと気を配っていた。
王太子とミシェルが接触をとろうとする時も、ふたりきりになりそうな時も、見逃さずに邪魔をしてやったのだ。
最近はふたりが接触することは少なくなっていたし、だからようやく諦めてくれたのかと安心していたのに。
* * *
「――私の貞操?」
「はい。モンティリエ嬢は、俺が殿下の貞操を狙っていると言ってました」
「貞操などとは……お前は狙っているのか?」
「まっ、まさか! 俺は女性のほうが好きですから!」
胡乱な目で見つめられて、ミシェルは思い切り首を振る。
「では、何故ロズリーヌはそんな世迷言を信じている? お前には男色の噂でもあるのか?」
「そんなの、わかりません!」
ミシェルは頭を抱え込んだ。自分にどこからそんな噂が出てきたのか、心当たりなんてまったく――
「もしかして、俺の顔のせいでしょうか」
「たしかにお前の顔は夫人によく似ているようだが」
首を捻る王太子に、ミシェルはやや肩を落とす。
「辺境騎士団でもよく言われたんです。お嬢ちゃんみたいな顔だと。
もちろん、男色の事実なんて絶対にありませんけど、誤解されるとしたらそのくらいしか……」
肩を落とすミシェルに、王太子は少しだけ哀れむような表情を浮かべる。
きれいといえばきれいな顔立ちだが、ミシェルの顔は、どちらかといえば“男らしい”からはほど遠い女顔の優男だ。
「そもそもの話、お前は何故ロズリーヌに近づいたのだ?」
「え? いえ、そんなつもりはまったく」
「だが、気付けばロズリーヌは必ずお前といただろう」
あ、そういえば、とミシェルもようやくその事実に思い至った。他に気を取られていたせいで、まったく考えていなかった。
「ロズリーヌは私の婚約者で、未来の王太子妃だとわかってのことなのか」
「それは、もちろん……けれど殿下、俺はまったくそんなつもりはなくて、ただ、モンティリエ嬢のほうから来るのをいいことにしていたというか」
「何? 貴様やはりか!」
王太子が剣呑な表情に変わる。侍従ふたりにも囲まれて、ミシェルは慌ててぶんぶんと首を振る。
「違います! 誤解です殿下! 俺はモンティリエ嬢じゃなくて、むしろジレット嬢に近づけたらと考えていただけで――!」
「ジレット?」
王太子は思い切り顔を顰めた。
「はい」
「ジレット・マレストロワか。ロズリーヌの侍女でグレーズ子爵の娘の」
「そのジレット嬢です。
あの、忠義に厚くて冷静で気が強そうなところが好みというか……けれど、やはり主人であるモンティリエ嬢に認めていただいてから、とも考えていただけなんです。
まあ、よくわからない理由で失敗しましたが」
肩を竦めるミシェルに、王太子の眉が寄る。
このみっともない茶番は、すべてが単なる勘違いのせいだということか。
「――では、何故、ロズリーヌがお前に関わろうとするのだ。お前が何か余計なことでも吹き込んだからではないのか?」
「それは……やはり俺が殿下の貞操を狙っているという考えからではないかと」
「そこに戻るのか」
ミシェルは嘘を言っているようには見えなかった。少なくとも、何かを隠しているようにも、だ。
紐を解いてみればとても簡単で拗れる余地などないように思えるのに、なぜこんなことになっているのか。
ふたりは、共にこれ以上ないほど盛大な溜息を吐いた。
ここまでどうにか邪魔して来たのに、これまでの努力が水の泡となってしまうのだろうか。
「だめよ。殿下が真性の同性愛に目覚めるなんて、許されないわ」
「お嬢様、大丈夫です」
「ジレット、手遅れになってしまったら、わたくしどうしましょう」
ふたりを避けているとはいえ、学内でロズリーヌはずっと気を配っていた。
王太子とミシェルが接触をとろうとする時も、ふたりきりになりそうな時も、見逃さずに邪魔をしてやったのだ。
最近はふたりが接触することは少なくなっていたし、だからようやく諦めてくれたのかと安心していたのに。
* * *
「――私の貞操?」
「はい。モンティリエ嬢は、俺が殿下の貞操を狙っていると言ってました」
「貞操などとは……お前は狙っているのか?」
「まっ、まさか! 俺は女性のほうが好きですから!」
胡乱な目で見つめられて、ミシェルは思い切り首を振る。
「では、何故ロズリーヌはそんな世迷言を信じている? お前には男色の噂でもあるのか?」
「そんなの、わかりません!」
ミシェルは頭を抱え込んだ。自分にどこからそんな噂が出てきたのか、心当たりなんてまったく――
「もしかして、俺の顔のせいでしょうか」
「たしかにお前の顔は夫人によく似ているようだが」
首を捻る王太子に、ミシェルはやや肩を落とす。
「辺境騎士団でもよく言われたんです。お嬢ちゃんみたいな顔だと。
もちろん、男色の事実なんて絶対にありませんけど、誤解されるとしたらそのくらいしか……」
肩を落とすミシェルに、王太子は少しだけ哀れむような表情を浮かべる。
きれいといえばきれいな顔立ちだが、ミシェルの顔は、どちらかといえば“男らしい”からはほど遠い女顔の優男だ。
「そもそもの話、お前は何故ロズリーヌに近づいたのだ?」
「え? いえ、そんなつもりはまったく」
「だが、気付けばロズリーヌは必ずお前といただろう」
あ、そういえば、とミシェルもようやくその事実に思い至った。他に気を取られていたせいで、まったく考えていなかった。
「ロズリーヌは私の婚約者で、未来の王太子妃だとわかってのことなのか」
「それは、もちろん……けれど殿下、俺はまったくそんなつもりはなくて、ただ、モンティリエ嬢のほうから来るのをいいことにしていたというか」
「何? 貴様やはりか!」
王太子が剣呑な表情に変わる。侍従ふたりにも囲まれて、ミシェルは慌ててぶんぶんと首を振る。
「違います! 誤解です殿下! 俺はモンティリエ嬢じゃなくて、むしろジレット嬢に近づけたらと考えていただけで――!」
「ジレット?」
王太子は思い切り顔を顰めた。
「はい」
「ジレット・マレストロワか。ロズリーヌの侍女でグレーズ子爵の娘の」
「そのジレット嬢です。
あの、忠義に厚くて冷静で気が強そうなところが好みというか……けれど、やはり主人であるモンティリエ嬢に認めていただいてから、とも考えていただけなんです。
まあ、よくわからない理由で失敗しましたが」
肩を竦めるミシェルに、王太子の眉が寄る。
このみっともない茶番は、すべてが単なる勘違いのせいだということか。
「――では、何故、ロズリーヌがお前に関わろうとするのだ。お前が何か余計なことでも吹き込んだからではないのか?」
「それは……やはり俺が殿下の貞操を狙っているという考えからではないかと」
「そこに戻るのか」
ミシェルは嘘を言っているようには見えなかった。少なくとも、何かを隠しているようにも、だ。
紐を解いてみればとても簡単で拗れる余地などないように思えるのに、なぜこんなことになっているのか。
ふたりは、共にこれ以上ないほど盛大な溜息を吐いた。
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