蛮族嫁婚姻譚その2:神官先生と押しかけ見習い

ぎんげつ

文字の大きさ
10 / 14

買い被られている、ような

しおりを挟む
 ノエの舌が、口の中を蹂躙する。
 片手でしっかりと頭の後ろを押さえて逃げられないようにして、“貪る”という表現にふさわしく、ヘルッタを食べている。
 もう片方の手は、ヘルッタの足の間の泉を掻き回し、そのほとりにある小さな膨らみを強くこね回す。

 頭の中が真っ白になるくらい気持ち良くて、その、あまりの気持ちの良さに、これがレンの言ってた“相性がいい”ってことなのかとぼんやり考える。
 けれど、“気持ち良い”はたぶんここで終わりではない。
 まだ見えない先があって、それにはノエの雄が必要なのだ。
 その証拠に、身体の奥の疼きは治(おさま)るどころかますます強くなっている。呑み込んだノエの指をぎゅうぎゅうにしめつけて、もっと寄越せと貪欲に震え、早く早くという焦燥を生み出している。

「ん……んっ、ふ……ノエ」

 はあはあと激しく息を吐きながらヘルッタに呼ばれて、ノエは薄く微笑んだ。伸ばされた腕を首に誘導し、しがみつかせてもう一度キスをする。
 月の光を受けて、細く伸びた銀色の糸がキラリと光って切れた。
 うっとりと自分を見上げるヘルッタの紅潮した頬を包むように撫でて、また何度も何度もキスをする。



 いつもは快活なヘルッタの瞳がノエのことで不安に揺れるのを見て……有り体に言えば、とてもノエはそそられた。
 ノエを頼りきって何もかもを投げ渡そうとしているくせに、“結婚”が絡むとたちまち不安に揺れる。“婚約”したと喜んでいても、ふと不安に駆られてちらりとノエを伺い見る、その目がかわいいと思った。

 ――元婚約者 アイリーンと違って、ヘルッタはどこまでも正直だ。

 自分の前では、あの男の存在を露ほども感じさせなかったアイリーン。
 だから、あの時はまさかと思った。
 まさか、別な男の妻になると言い出すなんて。

 けれど、殊勝げに申し訳なさそうに項垂れるアイリーンを前に、ノエはだからなのかと納得してしまったのだ。
 たぶん、無意識のところでは自分も何かを感じていたのだろう。

 いつからかは知らないが、ノエとあの男のどちらを選ぼうかとじっと天秤にかけていたと知ったのは、あの少し後だった。
 あの男が後継となるほうが早かったから……いや、太陽神教会の高神官より大商家の跡取りの方がいいと考えたから、あっちに決めただけなのだ。
 今となっては、よくもまあ平然と取り繕っていられたものだと感心しきりだ。さすがと褒めるべきだろうか。

 ヘルッタにそんな腹芸は無理だろう。良くも悪くも考えていることが全部顔に出て、そのうえまっすぐ行動に移すのがヘルッタという娘だ。
 敗戦の補償として物のようにやり取りされ、まだ子供と言っていい歳で見知らぬ場所に連れてこられ、不安で仕方なかったはずだ。なのに、前向きに自分の道は自分で切り拓こうという強さも、賞賛に値する。



「ん……あっ、ノエ……っ」
 ヘルッタの内襞が細かく痙攣を始める。
 忙しなく息を吐いて、ぴくん、ぴくんと身体が跳ねる。
 どろどろの蜜に塗れた隘路を、ノエの指に掻き回されて、「ノエ、ノエ」とうわ言のように繰り返す唇をまた塞ぐ。喉の奥でくぐもった声を上げ続けるヘルッタは、もう頂点へと達してしまいそうなのだろう。
「ヘルッタ」
 小さく耳元で囁くと、とたんにびくびくとヘルッタの身体が大きく震えた。きついくらいに指を食い締める隘路が、ヘルッタが達したことを教えた。
「ちゃんと、いけたね」
「ノエ……」
 涙の跡がついた目で、ヘルッタはぼんやりとノエを見つめる。はあはあと荒く息を吐いて、今、自分は“いった”のかと考えて……。
「ノエ、私のこと、ちゃんと、妻にしてね」
 ヘルッタは、首にしがみついてぎゅっと身体を押し付けた。
 まだ、ちゃんと子供ができるやり方でしていない。今のはいつか書物で見た、子供ができないやり方だ。それでは駄目なのだ。

「わかった」

 ヘルッタの脚を抱えて、ノエが腰を割り入れる。キスをしながらゆっくりとあてがい、ぐっと力を込めて押し進んでいく。

 指よりずっと大きなものが入ってきたことに、ヘルッタは思わず息を詰める。けれど、蜜酒のおかげか、充分に解されたおかげか……痛みらしい傷みはまったく感じない。むしろ欲しかったものが与えられた充足感と、中をしっかり擦られてぞくぞくする快感ばかりが立ち昇る。
 緊張で強張っていた身体は、与えられる快感ですぐに解れていく。
「ん、ん、ノエ……ノエ……」
 ノエが、大きく息を吐く。
 心なしか、その吐息には熱がこもっているようだ。
 ノエも興奮しているのかと考えて、ヘルッタは嬉しくなる。
 またキスをされて、抱き着いた腕に力を込めた。今、ヘルッタの中はノエがいっぱいで、それが嬉しくて嬉しくて、自然に笑みが浮かんでしまう。

 ノエが動き始めて、嬉しさはますます大きくなっていった。
 しがみついたまま頬擦りするように顔を押し付けるヘルッタを抱き込んで、ノエの動きも強くなっていく。さっきいったばかりの身体は、少しの刺激で痺れるようだ。ヘルッタの頭の中にも霞みがかかり、ノエのことしか考えられない。
 は、は、と、ノエの呼吸も荒くなっていく。
 拓かれたばかりの隘路はそもそもがきついのに、うねるように締め上げてノエを追い込んでいく。
 しっかりとしがみ付いてぴったりと合わせたヘルッタの身体は、ずっと小さく痙攣し続けていた。うわ言のように名前を呼び続ける唇をまた塞いで舌を絡めながら奥を抉ると、喉の奥でくぐもった嬌声を上げる。
「は、あっ、ノエっ、ノエ……っ」
「くっ、ヘルッタ……っ」
 どん、と強く叩きつけるような抽送を始める。ヘルッタの隘路の襞がうねり、絡み付き、ぎゅうっと締め付ける。
 まるで、ノエを搾り取ろうとしているように。
「――あ、あ、あああ……っ!」
 とうとうヘルッタが背を反らした。大きくびくんびくんと痙攣するヘルッタに断続的に締め上げられて、ノエの背にも快楽が走る。
 切羽詰まった何かに追われて大きく数度腰を叩きつけて、もう一度「ヘルッタ」と呼ぶ。短く喘ぎながらほんのり微笑むヘルッタを抱え込んで、思い切り奥に押し付けてノエは爆ぜた。

 ゆっくりと数度抜き挿しをして息を吐くと、ノエはヘルッタをそっと抱き締め直した。昇り詰めた後の気怠さと、ノエの身体に押し付けられる苦しさがやっぱり嬉しくて、ヘルッタは幸せそうに笑う。
「私、ノエの妻になれた?」
「――なれたよ」
 とたんにふにゃふにゃ笑って「嬉しい」と、ヘルッタは頬ずりをする。
 背に回した腕に力を込めて、身体をしっかりと押し付けて、旦那様、と呟いて……ふと顔を上げたヘルッタは、「もう旦那様って呼んでもいい?」と期待に目を輝かせた。喜びと事後の余韻にほんのりと赤く上気した顔で。
 少し幼い表情なのにどことなく艶めいているのは、ひとつ大人になったということなのか。そんなことを考えて、ノエは頭にキスを落とす。
「それは、ちゃんと婚儀が終わるまで待ったほうがいい」
「そうなの?」
「ああ」
 頭に額にと何度も軽く啄ばまれて、ヘルッタはくすぐったさに首を竦める。
「“契りの夜”を済ませてしまったことも、あまり人には言わないほうがいい」
「そうなの? じゃあ、いつになったら言っていい?」
「婚儀を済ませてからかな」
 そうかあと少し不満げに眉を寄せて、けれどすぐに思い直したように、またにんまりと笑う。
「わかった。でも、これからノエと一緒に寝てもいいよね? もう夫婦なんだし、私、ノエと一緒がいい」
「ああ、いいよ」
 ノエがゆっくりと頬を撫でながら、祈りの聖句を呟いた。立て続けに二回、ほんのりと暖かい力を感じてヘルッタは不思議そうに目を細める。少しだけ残っていた蜜酒の火照りと、強くなり始めていたひりひりする痛みが消えていた。
 ヘルッタが顔を上げると、ノエがくすりと笑って、またキスをする。
「蜜酒を使うのは、もう無しだよ」
「ん……」
「縛るのも無しだ。羊じゃないんだからね」
「うん」
「いい子だ」
 何度も何度もキスをされることが嬉しくて、ヘルッタは甘えるように顔を伏せる。ノエの体温と低く響く声が心地いい。
 満たされた気持ちで、ふんわりと目を閉じる。


 * * *


 翌朝目を覚ますと、ノエはいなかった。
 きちんと夜着を着せられていて、身体も清められているようだ。
 既に夜は明けているから、朝の礼拝に行ったのだろう。

 ヘルッタは昨夜のことを思い出しつつ、ふにゃりと笑う。
 昨夜の“既成事実”で、ノエと夫婦になったのだ。油断するとにやにやと顔が緩んでしまうし、なんだか足元も気持ちもふわふわして覚束ない。どうにもうきうきと心が弾んで、踊り出したくなってしまう。
 自室に戻って着替えて、それから台所へ行くと、もうレンが来ていた。

「おはよう、ヘルッタ」
「おはようございます、レン様」
 あいさつを交わすヘルッタを見て、レンはくすりと小さく笑う。
「それじゃ、ノエ高神官は、やっとどうするか決めたのね」
「え?」
 レンの言葉の意味がわからなくて、ヘルッタはきょとんとレンを見返した。レンは笑いながらポンポンとヘルッタの頭を撫でる。
「ノエ高神官と、既成事実を作ったんでしょう?」
「え、どうしてわかったの? 私、何も言ってないのに」
「そのくらい、見ればわかるわ。私はそういうのが得意なの」
 目を丸くするヘルッタに、レンはやっぱりくすくすと笑っている。
「何にせよ、思いが叶ってよかったわね」
「――うん! あのね、でもね、ちゃんと婚儀が終わるまで皆には内緒なの」
「まあ、確かにわざわざ言い歩くようなものじゃないわね」
 ふむ、と頷くレンを、ヘルッタは「でも」と伺うように見上げた。
「ヨニとパルヴィには話してもいいかな?」
「いいんじゃない? ヨニはもちろん、領主の奥方もあなたの家族みたいなものでしょう? 家族には話しておくべきよ」
「そう? レン様もそう思う?」
「ええ」
 ほっとしたように笑うヘルッタの頭をもう一度ポンと撫でて、レンは「それじゃ、朝食の用意をしちゃいましょう」と言った。



「ノエ高神官、少し眠そうですね」
「あ、いや……」
 礼拝を終えて施療院へと戻りながら、ハイラムがにっこりと笑った。
 考えるまでもなく、昨夜のことなどお見通しなのだろう。いいように乗せられた気がして、少しおもしろくない。
「――ハイラム殿が、あれを許すとは思いませんでしたが」
「そうですか? 僕は単に、人生にはきっかけが必要な時があると思っているだけなんですけど」
 きっかけ? と思わず顔を顰めると、ハイラムが笑いながら頷く。
「きっかけ、ねえ……」
「それに、レンはどうしても女の子に肩入れしたくなるようなので」
 は、と眉尻を下げて、ノエはちらりと空を見上げた。太陽は、もう家々の屋根の上にまで昇っている。
「僕がヘルッタをいいようにもてあそぶとは、考えないのかな」
「それはありませんよ」
 即答されて、ノエはどこか胡乱げにハイラムを見やった。その自信ありげな声は、どうしてなのか。
「ノエ高神官は、その気がない相手であればきっぱりと断る方でしょう。いくらヘルッタがあれこれと言い寄ったところでね」
「――もしかして、君もレンさんも、僕を買い被りすぎてるんじゃないか?」
「そんなことはないと思いますよ。とくにレンは、あれで経験豊富ですから」
 経験豊富、と呟いて、やっぱりノエは顔を顰める。レンの種族のことは聞いている。けれど、それ以外の経歴なんて、せいぜいが“深淵の都”で施療院を手伝っていたことと、看護経験者で頼りになるということを知っているくらいだ。
「レンが、ノエ高神官は何を気にしてるかは知らないけど、背中を押してやれば悪いようにはならないんじゃないか、ってね」
「ああ……」
 やっぱりただ買い被られているだけのような気がして、ノエは顔を顰めたまま太陽を見上げた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

処理中です...