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第一夫人と押しかけ嫁志望
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翌日の昼を少し過ぎた頃、アイニは町の中心近くにある家を訪ねていた。
戦神教会騎士隊の騎士長、ニクラスの自宅だ。
ニクラス本人はとうの昔に教会に出仕しているが、今日はニクラス本人ではなく、その妻、つまり、第一夫人マルタに用があるのだから問題ない。
アイニはさっそく玄関扉のノッカーを打ち鳴らす。
程なくして「どなた?」という声とともに扉が開き、初老に入ったくらいの恰幅のいい夫人が顔を出した。
「ここ、ニクラス様のおうちだよね。あなたがマルタ様?」
「ええ、そうだけど。あなたは?」
「私アイニ。ニクラス様の第二夫人になりに来たの」
「はい? 第二夫人?」
マルタはぱちくりと目を瞬かす。
目の前の、子供よりも孫と言った方がしっくり来そうな少女は、いったい何を言い出しているのか。
「ニクラス様は町で一番強い戦士でしょう? 一番の戦士なら妻が何人いてもおかしくないのにまだひとりだけだって聞いたし、マルタ様が認めてくれれば私が第二夫人になっても大丈夫よね」
「あのね、お嬢ちゃん」
「だから、第一夫人のマルタ様から、ちゃんとこの家のしきたりとか町のしきたりを教えてもらおうと思ったの。
私がちゃんと女の仕事をできれば、マルタ様も認めてくれるでしょう? 私、ちゃんと母さんに教わったから、女の仕事は一通りできるわ。谷の料理ならできるし、裁縫も羊の毛刈りも得意よ。町の料理も、これからちゃんと覚える。それに、マルタ様のことも第一夫人として立てるし、言いつけもちゃんと守るわ」
アイニはわくわくと期待に満ちた眼差しでマルタを見上げている。
マルタが断るなんて、想像もしていない表情だ。
「あ、それに、マルタ様はもう跡継ぎの息子も産んでるし、私が息子を産んでも怒らないよね?」
「――は? 息子!? ニクラスの!?」
「ええ、私も息子を産みたいもの。ねえ、マルタ様、いいでしょう?」
ぽかんと呆気に取られた顔で、マルタはアイニを見返す。
夫のニクラスはそろそろ五十に届こうとしている。未だ騎士長として現役ではあるが、さすがに最近は衰えて来たからと引退を考え始めてもいる。
そんな歳なのに子供なんて……と考えて、マルタはハッと目を見開いた。まさか、そういう事実があるから、この娘はそんなことを言い出したのか、と。
「お……お嬢ちゃん」
「私、アイニよ」
「あ、アイニちゃんは、いくつなの」
「もう十五。ちゃんと月の物もあるから大人よ。子作りも、旦那様を悦ばせることもできるわ」
「こづく……いや、その、どうして、うちの亭主なんかと……」
「だって、ニクラス様はこの町で一番強い男なんでしょう? 私、強い男の妻になりたいの! だから、ニクラス様の第二夫人がいい!」
「第二、って」
「マルタ様さえ良ければ、私が第二夫人でもきっと問題ないもの」
笑顔で元気よく答えるアイニに、マルタは魚のようにぱくぱく口を開閉するばかりで言葉が出てこない。
ニクラスが……まさか、いい歳してこんな子供に手を出した、なんてことは、あり得るのだろうか。
いやいや、まさか。
「アイニちゃん、あなたまだ子供でしょう。なんだって、よりによって既婚の、父親以上の歳のおじさんの第二夫人だなんて考えたの」
「領主様が好きな人と結婚していいって言ったのよ。私、強い男と結婚したいから、ニクラス様がいいの」
「イェルハルド様が?」
マルタは思わず目を眇めてアイニを見つめ返す。
あの優男の魔術師領主は、こんな子供にいったい何を教えたのか。
「私、たくさん考えたのよ。
強い男なら妻を何人も養えるし、妻のひとりが実家に贈り物をしても怒らないものよ。ニクラス様はこんな大きな町の中で一番の戦士で、妻はまだマルタ様だけでしょう? なら、私がふたりめの妻になって、ニクラス様の分け前から母さんのお土産に少しだけ持って行っても、ニクラス様もマルタ様も怒らないよね?」
アイニの言ってることがわからない。
分け前? 強いから養える?
この娘は、何か決定的な勘違いをしているんじゃないだろうか。
なら、こんな玄関先でうだうだ話していても埒があかない。
「あっ、それから、パルヴィが言ってたの。
私の家の長は領主様だから、私たちが結婚するときは領主様がちゃんと準備もしてくれるって。だから、ちゃんと羊と布を用意してもらえるようにお願いするから、持参金も大丈夫だと思うの」
「――あのね、アイニちゃん。中に入って、ゆっくり話をしましょうか」
「はい!」
マルタはアイニを招き入れて、ぱたりと扉を閉めた。
居間の長椅子にアイニを座らせると、マルタはキッチンへ戻ってしまった。
すぐにカタカタとあちこちを開けたり閉めたりする音が聞こえてきて、アイニは軽く首を傾げてしまう。なんとなく、考えていたのと違うものが待っているような気がして落ち着かない。
町一番の戦士で妻はひとり。すでに跡取りの息子もいる。 なら、アイニが第二夫人となったところで、第一夫人たるマルタの地位は今更揺るぎないはずだし、ニクラスが持ち帰る分け前だって十分なはずだ。
アイニのもらえる分がたとえ三割に満たなくても、“谷”の母に十分送れるくらいはあるだろう。
それに、よほどのケチでもなければ、マルタが断る理由だってないはずだ。
ことりと目の前にカップを置かれて、アイニは顔を上げた。カップにはいい香りのお茶が満たされている。
勧められるままにアイニはひと口お茶を飲んで、マルタの言葉を待った。
「アイニちゃん、まずはそうね、どうしてニクラスの妻になんて考えたのか、聞かせてくれないかしら」
「それは、もちろん町で一番強い戦士だからよ」
「強いって……どうして?」
「だって、強い戦士なら妻を何人も養えるもの」
そんなことかと、アイニはにこにこと笑顔で話し始める。
「ニクラス様は一番強いのにまだ妻はひとりだけって聞いたし、だったら私が妻になっても大丈夫だと思ったの。それに、跡取りの息子ももういるなら、私が息子を産んでも第一夫人は怒らないでしょう?」
「その、分け前とか、お母さんへのお土産とかって……」
「狩りの分け前よ!」
「狩り?」
「ええ。一番強いなら、手柄だって立てられて、獲物の一番いいところをたくさん持って帰れるでしょう? それなら私がもらえる分から母さんに少し渡しても大丈夫だし、ニクラス様もマルタ様も怒らないと思ったの。
――もしかして、だめなの?」
もしや町のルールは違うのだろうか。
アイニはふと不安になって伺うように見ると、マルタは何やら眉を寄せて、じっと考え込んでいるようだ。
「あ、あの……」
「アイニちゃん、あのね、ニクラスは狩りに行かないし、あの人の仕事はこの町の警備なの。狩りの分け前なんてもらえないし、教会と町からお給料をもらって、私たちが暮らしているのよ」
「分け前、ないの? お給料?」
「それに、町はひとりの夫にひとりの妻だけというのが普通で、何人も妻を持つ夫はいないものなのよ。
イェルハルド様も、パルヴィさんとだけ結婚したでしょう?」
アイニはぽかんと口を開けたまま、マルタを見返した。
領主は魔術師で少し変わってる。だから、妻はひとりでいいなんて、変なことを言っているのだとばかり考えていたのだ。
「でも、でも」
「だから、うちでアイニちゃんを第二夫人になんて、迎えられないのよ。うちだけじゃなくて、この町の既婚の男なら、皆そう答えるはずよ。
逆に言うと、もしそんなことを言う男がいたら、そいつはクズだから絶対に近づいちゃだめってことなの」
「――そんなあ」
アイニの眉尻がみるみる下がる。
いい方法だと思ったのだ。
安定した強い男なら、妻をふたり抱えても問題ないだろうし、跡取りを育て終わった第一夫人なら、アイニをいびったりすることもないだろう。
そう、見込んだからこそだったのに、アテが外れてしまった。
「マルタ! とんでもない言伝てが来たんだが!」
バタン、と乱暴に扉を開けて、いかつい男が息を切らせて入ってきた。
腕でぐいと汗を拭い、肩を竦めるマルタと、その正面にちょこんと座って今にも泣き出しそうな顔のアイニを、交互に見比べる。
すぐに、うっ、と喉を詰まらせるアイニの目から、ぽろりと雫がこぼれ落ちた。ぽろぽろぽろぽろ、次から次へと溢れて止まらなくなってしまう。
「あっ、すまん、驚かせたかお嬢ちゃん! マルタ、マルタ、いったい何がどうなっているんだ。なんでこの子は泣いてる!」
「もう、無闇に騒がないでちょうだい。ほら、地母神教会の子よ。ちょっとした行き違いでうちに来ただけなの」
「だが、マルタ、泣いてるぞ」
しくしくと泣き出すアイニに、ニクラスは困り切った顔のまま、どうしたものかとおろおろする。慰めるにしたって状況もわからず、うかつに触っていいのかどうかすらも判断できないのではどうしようもない。
「女の子には泣きたい時があるものなのよ。
アイニちゃん、さっき言ったこと、わかってもらえたかしら?」
「それじゃ、私、強い男の妻になれないの? 母さんに、お土産が送れないの?」
「妻? お土産?」
黙れ、とニクラスに視線で示して、マルタはアイニの横へと移った。しくしくと泣き続けるアイニを慰めるように肩を抱いて、優しく呼びかける。
「そもそも、結婚っていうのはね、アイニちゃん」
そこに、またバタンガタンと騒々しい音が響く。
乱暴に玄関を開けて、何かをひっくり返したのか……ドタドタとやかましい足音の主が、今度は、バン、と居間の扉を開け放った。
「かっ、母さん! 母さん! 父さんが年端もいかない女の子を手篭めにしたって聞いたんだけど、本当なの!? マジで!?」
部屋に飛び込んで来たのは、戦神教会のお仕着せを着た、どことなくニクラスに似た若い男だった。
戦神教会騎士隊の騎士長、ニクラスの自宅だ。
ニクラス本人はとうの昔に教会に出仕しているが、今日はニクラス本人ではなく、その妻、つまり、第一夫人マルタに用があるのだから問題ない。
アイニはさっそく玄関扉のノッカーを打ち鳴らす。
程なくして「どなた?」という声とともに扉が開き、初老に入ったくらいの恰幅のいい夫人が顔を出した。
「ここ、ニクラス様のおうちだよね。あなたがマルタ様?」
「ええ、そうだけど。あなたは?」
「私アイニ。ニクラス様の第二夫人になりに来たの」
「はい? 第二夫人?」
マルタはぱちくりと目を瞬かす。
目の前の、子供よりも孫と言った方がしっくり来そうな少女は、いったい何を言い出しているのか。
「ニクラス様は町で一番強い戦士でしょう? 一番の戦士なら妻が何人いてもおかしくないのにまだひとりだけだって聞いたし、マルタ様が認めてくれれば私が第二夫人になっても大丈夫よね」
「あのね、お嬢ちゃん」
「だから、第一夫人のマルタ様から、ちゃんとこの家のしきたりとか町のしきたりを教えてもらおうと思ったの。
私がちゃんと女の仕事をできれば、マルタ様も認めてくれるでしょう? 私、ちゃんと母さんに教わったから、女の仕事は一通りできるわ。谷の料理ならできるし、裁縫も羊の毛刈りも得意よ。町の料理も、これからちゃんと覚える。それに、マルタ様のことも第一夫人として立てるし、言いつけもちゃんと守るわ」
アイニはわくわくと期待に満ちた眼差しでマルタを見上げている。
マルタが断るなんて、想像もしていない表情だ。
「あ、それに、マルタ様はもう跡継ぎの息子も産んでるし、私が息子を産んでも怒らないよね?」
「――は? 息子!? ニクラスの!?」
「ええ、私も息子を産みたいもの。ねえ、マルタ様、いいでしょう?」
ぽかんと呆気に取られた顔で、マルタはアイニを見返す。
夫のニクラスはそろそろ五十に届こうとしている。未だ騎士長として現役ではあるが、さすがに最近は衰えて来たからと引退を考え始めてもいる。
そんな歳なのに子供なんて……と考えて、マルタはハッと目を見開いた。まさか、そういう事実があるから、この娘はそんなことを言い出したのか、と。
「お……お嬢ちゃん」
「私、アイニよ」
「あ、アイニちゃんは、いくつなの」
「もう十五。ちゃんと月の物もあるから大人よ。子作りも、旦那様を悦ばせることもできるわ」
「こづく……いや、その、どうして、うちの亭主なんかと……」
「だって、ニクラス様はこの町で一番強い男なんでしょう? 私、強い男の妻になりたいの! だから、ニクラス様の第二夫人がいい!」
「第二、って」
「マルタ様さえ良ければ、私が第二夫人でもきっと問題ないもの」
笑顔で元気よく答えるアイニに、マルタは魚のようにぱくぱく口を開閉するばかりで言葉が出てこない。
ニクラスが……まさか、いい歳してこんな子供に手を出した、なんてことは、あり得るのだろうか。
いやいや、まさか。
「アイニちゃん、あなたまだ子供でしょう。なんだって、よりによって既婚の、父親以上の歳のおじさんの第二夫人だなんて考えたの」
「領主様が好きな人と結婚していいって言ったのよ。私、強い男と結婚したいから、ニクラス様がいいの」
「イェルハルド様が?」
マルタは思わず目を眇めてアイニを見つめ返す。
あの優男の魔術師領主は、こんな子供にいったい何を教えたのか。
「私、たくさん考えたのよ。
強い男なら妻を何人も養えるし、妻のひとりが実家に贈り物をしても怒らないものよ。ニクラス様はこんな大きな町の中で一番の戦士で、妻はまだマルタ様だけでしょう? なら、私がふたりめの妻になって、ニクラス様の分け前から母さんのお土産に少しだけ持って行っても、ニクラス様もマルタ様も怒らないよね?」
アイニの言ってることがわからない。
分け前? 強いから養える?
この娘は、何か決定的な勘違いをしているんじゃないだろうか。
なら、こんな玄関先でうだうだ話していても埒があかない。
「あっ、それから、パルヴィが言ってたの。
私の家の長は領主様だから、私たちが結婚するときは領主様がちゃんと準備もしてくれるって。だから、ちゃんと羊と布を用意してもらえるようにお願いするから、持参金も大丈夫だと思うの」
「――あのね、アイニちゃん。中に入って、ゆっくり話をしましょうか」
「はい!」
マルタはアイニを招き入れて、ぱたりと扉を閉めた。
居間の長椅子にアイニを座らせると、マルタはキッチンへ戻ってしまった。
すぐにカタカタとあちこちを開けたり閉めたりする音が聞こえてきて、アイニは軽く首を傾げてしまう。なんとなく、考えていたのと違うものが待っているような気がして落ち着かない。
町一番の戦士で妻はひとり。すでに跡取りの息子もいる。 なら、アイニが第二夫人となったところで、第一夫人たるマルタの地位は今更揺るぎないはずだし、ニクラスが持ち帰る分け前だって十分なはずだ。
アイニのもらえる分がたとえ三割に満たなくても、“谷”の母に十分送れるくらいはあるだろう。
それに、よほどのケチでもなければ、マルタが断る理由だってないはずだ。
ことりと目の前にカップを置かれて、アイニは顔を上げた。カップにはいい香りのお茶が満たされている。
勧められるままにアイニはひと口お茶を飲んで、マルタの言葉を待った。
「アイニちゃん、まずはそうね、どうしてニクラスの妻になんて考えたのか、聞かせてくれないかしら」
「それは、もちろん町で一番強い戦士だからよ」
「強いって……どうして?」
「だって、強い戦士なら妻を何人も養えるもの」
そんなことかと、アイニはにこにこと笑顔で話し始める。
「ニクラス様は一番強いのにまだ妻はひとりだけって聞いたし、だったら私が妻になっても大丈夫だと思ったの。それに、跡取りの息子ももういるなら、私が息子を産んでも第一夫人は怒らないでしょう?」
「その、分け前とか、お母さんへのお土産とかって……」
「狩りの分け前よ!」
「狩り?」
「ええ。一番強いなら、手柄だって立てられて、獲物の一番いいところをたくさん持って帰れるでしょう? それなら私がもらえる分から母さんに少し渡しても大丈夫だし、ニクラス様もマルタ様も怒らないと思ったの。
――もしかして、だめなの?」
もしや町のルールは違うのだろうか。
アイニはふと不安になって伺うように見ると、マルタは何やら眉を寄せて、じっと考え込んでいるようだ。
「あ、あの……」
「アイニちゃん、あのね、ニクラスは狩りに行かないし、あの人の仕事はこの町の警備なの。狩りの分け前なんてもらえないし、教会と町からお給料をもらって、私たちが暮らしているのよ」
「分け前、ないの? お給料?」
「それに、町はひとりの夫にひとりの妻だけというのが普通で、何人も妻を持つ夫はいないものなのよ。
イェルハルド様も、パルヴィさんとだけ結婚したでしょう?」
アイニはぽかんと口を開けたまま、マルタを見返した。
領主は魔術師で少し変わってる。だから、妻はひとりでいいなんて、変なことを言っているのだとばかり考えていたのだ。
「でも、でも」
「だから、うちでアイニちゃんを第二夫人になんて、迎えられないのよ。うちだけじゃなくて、この町の既婚の男なら、皆そう答えるはずよ。
逆に言うと、もしそんなことを言う男がいたら、そいつはクズだから絶対に近づいちゃだめってことなの」
「――そんなあ」
アイニの眉尻がみるみる下がる。
いい方法だと思ったのだ。
安定した強い男なら、妻をふたり抱えても問題ないだろうし、跡取りを育て終わった第一夫人なら、アイニをいびったりすることもないだろう。
そう、見込んだからこそだったのに、アテが外れてしまった。
「マルタ! とんでもない言伝てが来たんだが!」
バタン、と乱暴に扉を開けて、いかつい男が息を切らせて入ってきた。
腕でぐいと汗を拭い、肩を竦めるマルタと、その正面にちょこんと座って今にも泣き出しそうな顔のアイニを、交互に見比べる。
すぐに、うっ、と喉を詰まらせるアイニの目から、ぽろりと雫がこぼれ落ちた。ぽろぽろぽろぽろ、次から次へと溢れて止まらなくなってしまう。
「あっ、すまん、驚かせたかお嬢ちゃん! マルタ、マルタ、いったい何がどうなっているんだ。なんでこの子は泣いてる!」
「もう、無闇に騒がないでちょうだい。ほら、地母神教会の子よ。ちょっとした行き違いでうちに来ただけなの」
「だが、マルタ、泣いてるぞ」
しくしくと泣き出すアイニに、ニクラスは困り切った顔のまま、どうしたものかとおろおろする。慰めるにしたって状況もわからず、うかつに触っていいのかどうかすらも判断できないのではどうしようもない。
「女の子には泣きたい時があるものなのよ。
アイニちゃん、さっき言ったこと、わかってもらえたかしら?」
「それじゃ、私、強い男の妻になれないの? 母さんに、お土産が送れないの?」
「妻? お土産?」
黙れ、とニクラスに視線で示して、マルタはアイニの横へと移った。しくしくと泣き続けるアイニを慰めるように肩を抱いて、優しく呼びかける。
「そもそも、結婚っていうのはね、アイニちゃん」
そこに、またバタンガタンと騒々しい音が響く。
乱暴に玄関を開けて、何かをひっくり返したのか……ドタドタとやかましい足音の主が、今度は、バン、と居間の扉を開け放った。
「かっ、母さん! 母さん! 父さんが年端もいかない女の子を手篭めにしたって聞いたんだけど、本当なの!? マジで!?」
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