狂える女神と死神憑きの王子

ぎんげつ

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05.死にたくない

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「ナディアル」

 今夜もレギナが現れた。
 小さな町の小さな宿の、狭くて粗末な部屋だ。ベッドは一台。どうせ共寝になるのだから、二台もいらない。

 レギナはくすくすと笑って身体を擦り寄せた。魔導ゴーレムを破壊できる腕は、今はナディアルの身体を軽く抱き締めている。
 ナディアルにのし掛かり、唇を塞ぎ、ねっとりと舌を絡めて、レギナが熱い吐息を漏らす。まるでただの人間の女のように振る舞うレギナはいったい何なのかと考えながら、ナディアルはそれに応える。
 そろりそろりと下ろした手は、ナディアルの敏感な部分を掠めながら下へ下へと向かった。ナディアルの頭の中は冷えきっているのに、レギナの手が辿り着いた身体のそこだけは、熱く猛っていた。
 固く反り返ったそれをレギナの手が握り、軽く指を滑らせ、とろりと欲情を宿した笑みを浮かべる。
 手を添えて自分の濡れそぼった場所にあてがい、腰を下ろして沈めた。

「ん、あ……」

 はあ、と深く息を吐きながら、ことさらにゆっくり、味わうように腰を揺らすレギナを、ナディアルはぼんやりと眺める。
 人間じゃないくせに、呼吸はするのかと考えながら。

「あ、ああ……ナディアル、すてき。気持ちいい、わ」
「人間じゃないくせに、淫乱なんだな」
 悶えるレギナを下から突き上げつつ、ナディアルはつまらなそうに呟いた。
「気持ちいいのは、好きよ。人間だってそうでしょう? ナディアルは?」
「ああ、気持ちいい」
 問われて、わずかに眉を寄せて頷いた。
 けれど、嘘だ。本当は気持ち悪い。
 なのに、蠢く襞に扱かれてぞくぞくと絶え間無い快感が背を上っていく。
 あ、あ、と喘ぐ声が次第に大きくなり、レギナの痙攣も大きくなっていく。ああ、終わりが近いのかと、ナディアルが腰の動きを大きく強くする。
「う、あ、ああ、ナディアル」
 はくはくと喘ぎ、ナディアルの動きに合わせて腰をゆすり、きゅうきゅうと締め上げる。熱は大きくなっていき、もうすぐだ、と感じる。
 息を切らし、汗を垂らしながらナディアルは攻め立てる。
「ああ……い、いい、あ、いいの……いく、っあ、いくぅっ!」
 とうとう、レギナが大きく震えた。ナディアルを強く絞り上げ、頂点に達したのに合わせてギリと歯を食いしばり、溜まった熱を放つ。
 どくどくと迸るナディアルの熱を感じてか、レギナはぶるりと身体を揺すり、うっとりと目を細める。
「はあ……すてき」
 レギナは満足そうに笑った。
 く、と小さく声を漏らして荒く息を吐くナディアルに、身体を寄せて何度もキスをする。とろとろに蕩けきった表情で、ナディアルが愛しくてしかたないというそぶりで……けれど、ナディアルにはそのすべてが嘘臭く感じられてしかたがなかった。
 好きだと繰り返される言葉も、ただただ嘘臭い。
 ただ、いつものように、レギナがそう求めているから、抱き締め返す。
「また、明日の夜に来るわね。愛しいナディアル」
 その言葉と一緒にもう一度だけキスをして、レギナは消えた。

 これもいつものことだ。

 後には、ナディアルに跨ったまま、呆けたように表情の抜け落ちたエルストが残される。そのまま、今度はナディアルが貪る番となる。

 身体を入れ替え、組み敷いたエルストから仮面を剥ぎ取り、ナディアルは思うさま腰を叩きつけた。
 無表情な中で瞳だけを揺らし、顔を紅潮させたエルストが、あ、あ、と声を漏らす。どことなく怯えたように、戸惑うように与えられる快楽に翻弄されるさまを見て、少しだけナディアルの溜飲が下がる。

「人間じゃないのだから、人間のふりなんかするな、気持ち悪い」
「ふ、り……あっ、ああっ」
「そうだ。やたらと喋って表情を作ってよがってみせて、おまけに好きだなんて妄言まで囁いて……どうせ、全部偽物なんだろう?
 なら、お前のほうが、よほどマシだ」
 擦り合わせるように腰を回し、奥を小さく小突くと、エルストがぴくぴくと震えて強く締め付けた。

「――本当は、呼吸だって必要じゃないくせに」

 首を掴み、締め付ける。ぐいぐいと喉を潰すように締め上げても、エルストのようすは変わらない。
「必要ないのに、なぜ呼吸なんかするんだ。人間に紛れるためか。
 その心臓だって、偽物のくせに。撃たれて血を流すふりまでして、あれだってお前には不要なもののはずだ」
 どん、と胸を叩き、豊満な乳房を鷲掴みにする。
「そ、の……とお……あうっ」
「やっぱり化け物だ。人間そっくりに擬態して、男を欲しがって、雌犬みたいに腰を振ってよがり狂って、淫乱な化け物だ」
 粘液をぐちゅぐちゅと掻き混ぜながら“感じる場所”を強く擦ると、エルストの腰が跳ね上がった。
「ふ、あ……ああ、あ、んっ」
「あの、レギナとかいう奴のところに着いたら、僕はどうなる。情夫として飼い殺されるのか。あの化け物が飽きるまで」
「それ、話……す権限、は、私にな……ああっ」
 お前の言葉なんか不要だと呟いて、ナディアルの動きが激しくなる。
 荒く息を吐きながら、腰を叩きつけ、最奥を突き上げ、抉るように腰を回す。ナディアルの下で、エルストは大きく目を見開き悶えながら嬌声を上げる。
「は、あ、あ……っ」
「う……っく」
 ガツガツと肌をぶつけながら、ナディアルは覆い被さるように身体を伏せる。エルストの唇の隙間からちらちらと覗く舌を絡め取り、思い切り吸い込んだ。前歯に挟み、やわやわと甘噛みしながら迫り上がるものに任せ、ひと際大きく奥を穿って思い切り爆ぜた。
 唇を離し、そのままエルストに抱きつき、腰を押し付ける。
「あ……くっ、ふ、う……」
 滴り落ちたナディアルの汗が、エルストの身体を伝う。

 脱力したナディアルは上に倒れ込む。目を瞑り、激しく息を吐きながら、下になったエルストがびくびくと痙攣しつつ小さく喘ぐのを感じる。
 力を無くしたナディアルが入ったままの洞では、未練たらしく名残惜しむようにやわやわと襞が蠢き続けていた。
「まだ、足りないっていうのか。どれだけ淫乱なんだ」
「足りな……? あっ」
「そうやって、僕が死ぬまで搾り取るつもりなんだな。お前の主人共々」
「う、あ、ナディ……あっ」
 掻き混ぜるうちに、ナディアルはじわじわと勢いを取り戻す。エルストの内が痙攣し、ぴくりぴくりと小さく腰が跳ねる。
「僕は、誰に殺されるかしか選べないのか」
「あ……っ、私が、命じられた……は、無事に、ナディアル、を……っ」
「あれが殺せって言ったら殺す程度に無事で、ってことだろう? 自分の意思も持たない化け物のくせに、適当なことを言うな」
「あ、あっ……意思……私、は……っ」
「うるさい」
 口を塞ぎ、また中を突き上げる。
 ガツガツ乱暴に穿つと、エルストはまたすぐにびくびくと魚のように跳ねて痙攣した。ぎゅうと締め付けられてうねるように扱かれて、ナディアルもすぐに白濁を放つ。
 ぜいぜいと息を切らしながら身体を離すと、背を向けてシーツに包まった。

 死にたくない。
 なのに、自分の生死は自分以外の得体の知れないものに握られている。
 やはり、無力は罪だ。力の無いものは貪られる立場に甘んじるしかないのだ。ナディアルに選べるのも、軍国と化け物のどちらに貪られるかだけなのだ。


 * * *


 数日街道を外れたまま移動を続けて、少し大きな町に着いた。
 鉄道が敷かれ、駅がある町だ。

「切符はどうする」
「買う」
「どうやって?」
「金貨がある」
 エルストが取り出したのは、軍国の紋章が刻まれた金貨だった。
 きらきらと陽光を反射して輝く金貨にどれくらいの価値があるのか、ナディアルにはよくわからない。だが、汽車の切符くらいは買えるのだろう。
「そんなもの、どうやって」
「追って来たものが持っていた」
 いつの間に、とナディアルは目を眇める。
 たしかに、軍国の西の端まではまだ相当な距離があるはずで、汽車を使えればかなり楽だ。だが、大丈夫なのか。
「見つからずに乗れるとは思えない」
「着替えを調達してくる。ナディアルはここを離れないでほしい」
「――わかった」

 ナディアルは街道を外れ、人目につかないよう木陰に腰を下ろした。

 ぼんやりと町を囲む石壁を眺めて、少し前ならこの隙に逃げ出そうと考えたのに、と溜息を吐く。
 噂に聞こえた竜のような膂力に、自身の言葉どおりに銃で蜂の巣にされても死なないうえ、瞬く間に治ってしまう身体。しかも、恐ろしく離れた場所にいる軍国の兵まで探し出して仕留める、人間離れした感覚まで持っている、化け物としか言いようのないモノだ。
 あれから逃げられるなんて、思えない。
 いっそ、軍国と化け物が食い合って共倒れしてくれればいいのに。

 ――自分に、あの化け物のような力があればよかったのに。



 それほど長くは待たされず、エルストが戻ってきた。
「服を変えて、汽車に乗る」
 そう言って抱えていた衣服を差し出した。
 広げると、どう見ても女物で……。
「女のふりをしろってことか」
「ナディアルの体格なら、十分女で通すことができる。問題はない」
「女の服の着方なんて知らないぞ」
「私が着せる」
 茂みの中へ入り、エルストは手際よくナディアルを着替えさせた。最後に髪を整え、ひとつにまとめてリボンで飾る。
 それから、エルストも手早く着替えて髪を纏めた。
「仮面はどうするんだ。目立つんじゃないのか」
「大丈夫だ」
 仮面に手を触れると、エルストの顔が変わった。ナディアルは大きく目を瞠り、「魔導具なのか?」と呟く。
「だが、姿を変える幻術は感知されるぞ。禁呪にも指定されてるはずだ」
「魔導具ではないし、魔術でもない。だから、問題はない」
「なら、どうやって」
「魔術ではない方法で。さあ、ナディアル、行こう。私の顔はナディアルに似せてあるはずだ。姉妹で通せるだろう」



 町へ入るのは緊張した。
 鉄道が敷かれている町には、大なり小なり必ず軍が駐留している。駅だって、軍の管轄にあるはずだ。
 窓口で切符を買うことはできた。
 ふたり分の西行きの切符は、金貨一枚で十分に賄えた。少しだけほっとして、教えられたホームに停まっている汽車へと乗り込んだ。
 平民の使う二等車だが、贅沢は言えない。それに、どう見ても平民の格好で一等車になんか乗ってしまったら、相当に目立つのだ。
 適当に空いていた席に座った。窓側がナディアルで、その隣にエルストだ。
 エルストの言ったとおり、エルストの顔は幻術感知に引っかからず、何事もなくここまで来れた。けれど、魔法でないならいったいどうやって顔を変えたというのか。これも化け物の力の一端なのか。

 ジリリリリ、とホームのベルが鳴り響き、ガタンと車体が揺れて、車輪が軋む音が上がった。続いて、ゆっくりと汽車が動き始める。
 少しだけほっとして、ナディアルは外へと目を向けた。


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