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09.叶うならば
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「僕の命令を撤回できるのは、エルストを作った者だけということか」
「そのとおりだ」
「主人のところに着いたら、そいつに会えるのか?」
「いや。私の作成者はいない。もう、存在しない」
「――そうか」
なら、今、エルストに対する最上位の命令権を持つのはナディアルだけということだ。エルストの返答に、その言葉は呑み込んで薄らと笑った。
* * *
「レギナ、君はどこからここに現れるんだ。本当に、幽霊なのか?」
優しく問うナディアルに、レギナはうっとりと微笑んだ。
「わたしの本体は“緩衝地帯”の地中なの。わたしはそこから……そう、言うなれば、精神だけを飛ばしてここへ来ているのよ」
啄むようにキスをしながら、ナディアルはゆっくりと身体に触れる。触れながら、ナディアルは少しずつ質問を繰り返す。
「精神だけ? それじゃ、やっぱり君は魔術師なんじゃないのか」
「いいえ。そうね、科学……魔術とは対極にあるものの力でここにいるのよ」
「科学?」
軽く目を瞠って、ナディアルは首を傾げる。
科学というものは知っているが、せいぜいが、物質がどうのと錬金術に毛が生えた程度のものだ。
それでレギナの出現が説明できるなんて、とても思えない。
「そうよ。ナディアルには、魔法に寄らない魔導技術と言ったらイメージしやすいかしら。歯車や蒸気機関よりもずっと高度な、魔法に寄らない力なの」
ナディアルは、たぶん、科学には自分の知らない何かがまだまだ隠されているのだろうと考えることにした。
レギナは、その秘密を知っているから、今ここにいるのだと。
ナディアルは小さく笑う。
「レギナはすごいな。僕の導きなんて……レギナには、やっぱり僕なんていらないんじゃないかと思ってしまう」
「まあ」
レギナはきゅうっとナディアルを抱き締めて、ねだるようにキスをする。
「わたしにはナディアルが必要なの。ナディアルの導きが必要なのよ。ねえ、愛してるわ、ナディアル」
縋るように顔を引き寄せて、「愛してるの」と繰り返すレギナに、ナディアルはしかたないなと苦笑を返した。
「僕も愛してるよ、レギナ」
小さく囁いてキスをして、けれど、すぐにナディアルは顔を曇らせる。
「でも……不安なんだ。僕は何の力も身分もないし、成人もまだ遠い。それに、レギナみたいに知識が豊富なわけでもない。
いったいどうしたら僕がレギナを導けるのか、さっぱりわからないんだ」
レギナの胸に顔を埋めて、レギナの身体をしっかりと抱き寄せて、ナディアルは小さく溜息を吐いた。眉間にわずかな皺が寄る。
「いつか……レギナは、僕がレギナの王子様なんかじゃなかったと気付いて、僕を捨ててしまうんじゃないかって、不安なんだ」
「ナディアル……」
眉尻を下げ、レギナは困ったようにナディアルの頭をゆっくりと撫でた。ゆっくり、ゆっくり何度も撫でて、「ナディアル」と呟く。
「大丈夫。ナディアルは間違いなくわたしの王子様よ。
でも、ナディアルが不安になってしまうのなら、ちゃんと安心できるように何か考えましょう。だって、わたしが愛してるのはナディアルなんだもの」
「ありがとう、レギナ。僕のお姫様」
レギナは、その言葉に心の底から湧き上がる喜びのまま、微笑んだ。
やはり、自分の欠けたものを満たすのはナディアルだ。ナディアルこそが自分の王子様なのだ、と。
「ナディアル……」
「ああ、レギナ、ごめん。つまらない話ばかりしてしまったね」
「いいのよ、ナディアル。ナディアルがわたしを知りたいと思っているってことだもの。うれしいわ」
とろりと蕩けた表情で待つレギナに、今度こそ深く口付けた。膝を割り、しっとりと濡れたそこへ手を置いて、確かめるように、数度、指を抜き差しする。十分に柔らかいことを確認し、固く猛ったものを押し付け、ゆっくりと呑み込ませる。
「あ……」
「レギナ」
声とともに吐息を漏らしながら身悶えるレギナの腰をしっかりと掴み、ナディアルは抽送を始めた。
どこをどう擦れば感じるかは、既に十分以上に知っている。は、は、と息を吐きながら大きく小さく動いて、レギナを高みへと昇らせる。
「あ、あっ……ん、あ……愛してるわ、ナディアル……っ」
顔を赤らめたレギナの肌は、しっとりと汗ばんでいる。
はあはあと忙しない吐息も、涙で潤んだ瞳も、切なげに顰められる眉も、目の前の女が、まさに人間以外の何者でもないという証左であるかのようだ。
中身は化け物のくせにどこまで人間そっくりなのか。
いっそ、感動すら覚えるほどに。
もしかして、本当は人間でないかと疑問を抱かせることこそが、本人たちの言う、人間よりも人間らしく作られているということの意味なのか。
悶えて嬌声を上げるレギナに、啄むようにキスをする。頭を抱えて耳元に口を寄せて「僕も愛してるよ」と囁くと、レギナの身体がびくりと跳ねた。
内部が収縮し、ナディアルの楔を締め付ける。
自嘲めいた笑みを浮かべながら、ナディアルはもう一度「レギナ、愛してる」と囁いて、腰を叩きつける。
「――気持ち悪い」
レギナが消えると、ナディアルはカロルをさっさとベッドから蹴り出した。
すぐにシーツに包まって背を向けるナディアルを、カロルはどことなく物言いたげな顔でじっと見つめ、だが、結局何も言わず、部屋の隅にうずくまる。
代わりに、今度はエルストが抱きしめるように背後に横たわった。
小さく小さく、微かに息を吐いたナディアルは、後ろ手でエルストの抉れた脇腹を思い切り掴む。へこんだ場所の肉を力いっぱいに握って「化け物め」とわずかな声で呟く。
「腹の肉をこんなに持っていかれて、そこを掴まれて痛がりもせず問題もないなんて、お前はゴーレムなんかよりもずっと得体の知れない化け物だ」
エルストは何も言わない。
ナディアルはもう一度息を吐き、目を閉じる。
* * *
「見張られているわ」
二日後には“緩衝地帯”に入れるという小さな町で、カロルがふうっと溜息を吐いた。
西へ向かっていることはずいぶんと前に知られていたのだろう。これまでほぼ一直線に西を目指してきたのだ。西の国境は見張られていて当然だった。
「どうやって越えるつもりだ?」
ナディアルの問いにカロルがじっと考え込む。
「国境に接した町には軍が駐留しているし、“緩衝地帯”へ抜ける街道も見張られてるの。だから、街道は……いえ、私が撹乱しましょう。ナディアル様は一番目の案内で国境を越えてください」
「撹乱なんてできるのか?」
「はい。そうですね……この世界風に言うなら、“神より与えられし力”を使います。ご心配なさらず」
「神?」
「ええ、“神”です」
胡乱な目を向けるナディアルに、カロルは何でもないことだというように、にっこりと微笑んだ。
「“三番目三番目”、だが、近距離でなければ私はお前の“声”を受信できないが」
「中継を置くわ。タイミングは私が指示するから、あなたは合図があったらナディアル様を連れてひと息に国境を越えて。ナディアル様の安全に注意しつつ、けれど全速で国境を離れなさい。
“緩衝地帯”へ入って一日も進めば、距離の問題もなくなるわ。今のあなたでも主人の“声”を受け取れるようになるはずよ」
「中継?」
「“声”を確実に届けるための、伝令のようなものですよ。本来なら必要ないのですが、“一番目”は仮面を壊してしまいましたから」
「あの仮面に、そんな役目があったのか」
素顔を晒したままのエルストをちらりと見る。
あの仮面を通して、レギナはエルストに憑いていたということか。
だから、レギナはエルストではなくカロルに憑くようになったのか。
「なので、明日からしばらく、主人はナディアル様に会いに来られなくなります。ですから、今夜は少し早めに来るそうです」
「そうか……少し寂しいが、今夜は楽しみだな」
どことなく訝しむようなカロルに、ナディアルは笑ってみせた。
* * *
「ナディアル、少しだけ、少しだけ辛抱してね。“緩衝地帯”に入ったら、またすぐにこうやって会いに来るわ」
「わかってるよ、レギナ」
夜、予告どおりいつもより少し早い時間に現れ、甘えるように身体を擦り寄せるレギナを抱き締めた。
「でも、会いに来るってどうやって?」
キスをしながら尋ねられて、レギナはふふっと笑う。
「わたしの身体が完成するの。人間並の機能しかないけど、あなたにふさわしい身体に仕上がったし、あなたと愛し合うには十分よ。これで、いつもあなたといられるようになるわ」
「いつもいられるのはうれしいね。でも、それは、今、レギナがいる場所とその新しい身体と、ふたりのレギナに別れるってことになるのか?」
「大丈夫よ」
くすくすと笑って、レギナはねだるように身体を押し付けた。
「わたしという意識を身体のほうに移して、もともとのほうには当初の機能だけを残しておくだけにするから」
当初の機能? と首を傾げるナディアルの唇に啄むようなキスをする。
「だから、わたしはひとりだけ。ナディアルは変わらずわたしひとりのもの」
「レギナ、僕にわかるように説明してくれないか。僕は、その身体だけをレギナとして接すればいいのか?
レギナの……もともとのレギナ自身はどうなるんだ?」
するりと頰を撫でられて、レギナは擽ったそうに目を細めた。
まるで、人間のように。
「ナディアル……今の本体には、もともとあった機能だけを残すことにするの。そこにわたしはいないわ」
「いない?」
「わたしは常にひとりよ。だから、ナディアルが心配するようなことにはならない。たとえ自分でも、ナディアルを誰かと分け合うなんて、わたしは嫌」
ナディアルは少し考えこむように宙を睨む。
では、今、憑依している何かから離れて、その新しい身体とやらに憑依し直すということなんだろうか。
「――少しだけ心配なんだ。まんがいち、レギナの身体を損なうようなことになったらって。もしそんなことになったら、レギナはどうなる?」
「ナディアル……わたしを心配してくれるなんて」
レギナはうっとりと愛しげにナディアルを見つめた。
こうして心配げに自分を案じるナディアルに、また、身体の中から何かが湧き上がるのを感じる。
これが愛されているということなのかと感嘆の吐息を漏らす。
「大丈夫よ。もし、身体に何かがあれば、即座に今の本体に戻れるようになっているの。だから、身体にまんがいちがあってもわたしは大丈夫」
「そうか、なら、心配はないね。よかった」
――なら、その人間並だという新しい身体にレギナを縛り付け、どこかに監禁してしまうことは可能だろうか?
もし、それが叶えば……。
「そのとおりだ」
「主人のところに着いたら、そいつに会えるのか?」
「いや。私の作成者はいない。もう、存在しない」
「――そうか」
なら、今、エルストに対する最上位の命令権を持つのはナディアルだけということだ。エルストの返答に、その言葉は呑み込んで薄らと笑った。
* * *
「レギナ、君はどこからここに現れるんだ。本当に、幽霊なのか?」
優しく問うナディアルに、レギナはうっとりと微笑んだ。
「わたしの本体は“緩衝地帯”の地中なの。わたしはそこから……そう、言うなれば、精神だけを飛ばしてここへ来ているのよ」
啄むようにキスをしながら、ナディアルはゆっくりと身体に触れる。触れながら、ナディアルは少しずつ質問を繰り返す。
「精神だけ? それじゃ、やっぱり君は魔術師なんじゃないのか」
「いいえ。そうね、科学……魔術とは対極にあるものの力でここにいるのよ」
「科学?」
軽く目を瞠って、ナディアルは首を傾げる。
科学というものは知っているが、せいぜいが、物質がどうのと錬金術に毛が生えた程度のものだ。
それでレギナの出現が説明できるなんて、とても思えない。
「そうよ。ナディアルには、魔法に寄らない魔導技術と言ったらイメージしやすいかしら。歯車や蒸気機関よりもずっと高度な、魔法に寄らない力なの」
ナディアルは、たぶん、科学には自分の知らない何かがまだまだ隠されているのだろうと考えることにした。
レギナは、その秘密を知っているから、今ここにいるのだと。
ナディアルは小さく笑う。
「レギナはすごいな。僕の導きなんて……レギナには、やっぱり僕なんていらないんじゃないかと思ってしまう」
「まあ」
レギナはきゅうっとナディアルを抱き締めて、ねだるようにキスをする。
「わたしにはナディアルが必要なの。ナディアルの導きが必要なのよ。ねえ、愛してるわ、ナディアル」
縋るように顔を引き寄せて、「愛してるの」と繰り返すレギナに、ナディアルはしかたないなと苦笑を返した。
「僕も愛してるよ、レギナ」
小さく囁いてキスをして、けれど、すぐにナディアルは顔を曇らせる。
「でも……不安なんだ。僕は何の力も身分もないし、成人もまだ遠い。それに、レギナみたいに知識が豊富なわけでもない。
いったいどうしたら僕がレギナを導けるのか、さっぱりわからないんだ」
レギナの胸に顔を埋めて、レギナの身体をしっかりと抱き寄せて、ナディアルは小さく溜息を吐いた。眉間にわずかな皺が寄る。
「いつか……レギナは、僕がレギナの王子様なんかじゃなかったと気付いて、僕を捨ててしまうんじゃないかって、不安なんだ」
「ナディアル……」
眉尻を下げ、レギナは困ったようにナディアルの頭をゆっくりと撫でた。ゆっくり、ゆっくり何度も撫でて、「ナディアル」と呟く。
「大丈夫。ナディアルは間違いなくわたしの王子様よ。
でも、ナディアルが不安になってしまうのなら、ちゃんと安心できるように何か考えましょう。だって、わたしが愛してるのはナディアルなんだもの」
「ありがとう、レギナ。僕のお姫様」
レギナは、その言葉に心の底から湧き上がる喜びのまま、微笑んだ。
やはり、自分の欠けたものを満たすのはナディアルだ。ナディアルこそが自分の王子様なのだ、と。
「ナディアル……」
「ああ、レギナ、ごめん。つまらない話ばかりしてしまったね」
「いいのよ、ナディアル。ナディアルがわたしを知りたいと思っているってことだもの。うれしいわ」
とろりと蕩けた表情で待つレギナに、今度こそ深く口付けた。膝を割り、しっとりと濡れたそこへ手を置いて、確かめるように、数度、指を抜き差しする。十分に柔らかいことを確認し、固く猛ったものを押し付け、ゆっくりと呑み込ませる。
「あ……」
「レギナ」
声とともに吐息を漏らしながら身悶えるレギナの腰をしっかりと掴み、ナディアルは抽送を始めた。
どこをどう擦れば感じるかは、既に十分以上に知っている。は、は、と息を吐きながら大きく小さく動いて、レギナを高みへと昇らせる。
「あ、あっ……ん、あ……愛してるわ、ナディアル……っ」
顔を赤らめたレギナの肌は、しっとりと汗ばんでいる。
はあはあと忙しない吐息も、涙で潤んだ瞳も、切なげに顰められる眉も、目の前の女が、まさに人間以外の何者でもないという証左であるかのようだ。
中身は化け物のくせにどこまで人間そっくりなのか。
いっそ、感動すら覚えるほどに。
もしかして、本当は人間でないかと疑問を抱かせることこそが、本人たちの言う、人間よりも人間らしく作られているということの意味なのか。
悶えて嬌声を上げるレギナに、啄むようにキスをする。頭を抱えて耳元に口を寄せて「僕も愛してるよ」と囁くと、レギナの身体がびくりと跳ねた。
内部が収縮し、ナディアルの楔を締め付ける。
自嘲めいた笑みを浮かべながら、ナディアルはもう一度「レギナ、愛してる」と囁いて、腰を叩きつける。
「――気持ち悪い」
レギナが消えると、ナディアルはカロルをさっさとベッドから蹴り出した。
すぐにシーツに包まって背を向けるナディアルを、カロルはどことなく物言いたげな顔でじっと見つめ、だが、結局何も言わず、部屋の隅にうずくまる。
代わりに、今度はエルストが抱きしめるように背後に横たわった。
小さく小さく、微かに息を吐いたナディアルは、後ろ手でエルストの抉れた脇腹を思い切り掴む。へこんだ場所の肉を力いっぱいに握って「化け物め」とわずかな声で呟く。
「腹の肉をこんなに持っていかれて、そこを掴まれて痛がりもせず問題もないなんて、お前はゴーレムなんかよりもずっと得体の知れない化け物だ」
エルストは何も言わない。
ナディアルはもう一度息を吐き、目を閉じる。
* * *
「見張られているわ」
二日後には“緩衝地帯”に入れるという小さな町で、カロルがふうっと溜息を吐いた。
西へ向かっていることはずいぶんと前に知られていたのだろう。これまでほぼ一直線に西を目指してきたのだ。西の国境は見張られていて当然だった。
「どうやって越えるつもりだ?」
ナディアルの問いにカロルがじっと考え込む。
「国境に接した町には軍が駐留しているし、“緩衝地帯”へ抜ける街道も見張られてるの。だから、街道は……いえ、私が撹乱しましょう。ナディアル様は一番目の案内で国境を越えてください」
「撹乱なんてできるのか?」
「はい。そうですね……この世界風に言うなら、“神より与えられし力”を使います。ご心配なさらず」
「神?」
「ええ、“神”です」
胡乱な目を向けるナディアルに、カロルは何でもないことだというように、にっこりと微笑んだ。
「“三番目三番目”、だが、近距離でなければ私はお前の“声”を受信できないが」
「中継を置くわ。タイミングは私が指示するから、あなたは合図があったらナディアル様を連れてひと息に国境を越えて。ナディアル様の安全に注意しつつ、けれど全速で国境を離れなさい。
“緩衝地帯”へ入って一日も進めば、距離の問題もなくなるわ。今のあなたでも主人の“声”を受け取れるようになるはずよ」
「中継?」
「“声”を確実に届けるための、伝令のようなものですよ。本来なら必要ないのですが、“一番目”は仮面を壊してしまいましたから」
「あの仮面に、そんな役目があったのか」
素顔を晒したままのエルストをちらりと見る。
あの仮面を通して、レギナはエルストに憑いていたということか。
だから、レギナはエルストではなくカロルに憑くようになったのか。
「なので、明日からしばらく、主人はナディアル様に会いに来られなくなります。ですから、今夜は少し早めに来るそうです」
「そうか……少し寂しいが、今夜は楽しみだな」
どことなく訝しむようなカロルに、ナディアルは笑ってみせた。
* * *
「ナディアル、少しだけ、少しだけ辛抱してね。“緩衝地帯”に入ったら、またすぐにこうやって会いに来るわ」
「わかってるよ、レギナ」
夜、予告どおりいつもより少し早い時間に現れ、甘えるように身体を擦り寄せるレギナを抱き締めた。
「でも、会いに来るってどうやって?」
キスをしながら尋ねられて、レギナはふふっと笑う。
「わたしの身体が完成するの。人間並の機能しかないけど、あなたにふさわしい身体に仕上がったし、あなたと愛し合うには十分よ。これで、いつもあなたといられるようになるわ」
「いつもいられるのはうれしいね。でも、それは、今、レギナがいる場所とその新しい身体と、ふたりのレギナに別れるってことになるのか?」
「大丈夫よ」
くすくすと笑って、レギナはねだるように身体を押し付けた。
「わたしという意識を身体のほうに移して、もともとのほうには当初の機能だけを残しておくだけにするから」
当初の機能? と首を傾げるナディアルの唇に啄むようなキスをする。
「だから、わたしはひとりだけ。ナディアルは変わらずわたしひとりのもの」
「レギナ、僕にわかるように説明してくれないか。僕は、その身体だけをレギナとして接すればいいのか?
レギナの……もともとのレギナ自身はどうなるんだ?」
するりと頰を撫でられて、レギナは擽ったそうに目を細めた。
まるで、人間のように。
「ナディアル……今の本体には、もともとあった機能だけを残すことにするの。そこにわたしはいないわ」
「いない?」
「わたしは常にひとりよ。だから、ナディアルが心配するようなことにはならない。たとえ自分でも、ナディアルを誰かと分け合うなんて、わたしは嫌」
ナディアルは少し考えこむように宙を睨む。
では、今、憑依している何かから離れて、その新しい身体とやらに憑依し直すということなんだろうか。
「――少しだけ心配なんだ。まんがいち、レギナの身体を損なうようなことになったらって。もしそんなことになったら、レギナはどうなる?」
「ナディアル……わたしを心配してくれるなんて」
レギナはうっとりと愛しげにナディアルを見つめた。
こうして心配げに自分を案じるナディアルに、また、身体の中から何かが湧き上がるのを感じる。
これが愛されているということなのかと感嘆の吐息を漏らす。
「大丈夫よ。もし、身体に何かがあれば、即座に今の本体に戻れるようになっているの。だから、身体にまんがいちがあってもわたしは大丈夫」
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