つがいではありませんが

ぎんげつ

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【閑話】デートといきましょうか/前篇

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 暇だ。
 暇過ぎて死にそうだ。

 地上管理局地上分室は、現代の地上においては治安維持と司法を担っている。いわば、警察と裁判所を兼ねた捜査司法機関のようなものだ。

 以前のジィアは巡回監視員――つまり町のおまわりさんとして忙しく働いていた。だが、今は朱灯の補佐官として、毎日朱灯のお守りをするのがジィアの仕事である。
 その朱灯の仕事は、この地上分室の監査だ。
 地上分室の取り締まりやら裁定やらに不正や行き過ぎはないか、適切な手続きが行われているか。
 そういう諸々をチェックする、意外に重要な部門のはず……なのだが。



「ジィア、このベッド、おもしろいと思いませんか。
 スプリングの代わりに粘体を詰めてあるのだそうです。たぷたぷのやわやわで素晴らしい寝心地だとも書いてあります」

 またどこからか取り寄せたカタログを広げて、朱灯が目を輝かせている。

「……監査官、いつになったら仕事するんですか」
「朱灯です。仕事ならしていますよ。毎日きちんと地上を見守っているでしょう?」
「あなたの仕事はここの監査でしょうが」
「ですから、私の見守りは地上分室が中心です。地上は今日も平和ですし、ここも問題は起きていませんね」

 鼻歌交じりにカタログをめくる朱灯に、ジィアは溜息を吐く。ジィアから見て、朱灯はまったく仕事をしていないとしか思えないのだ。

 いったいなんなのか。

 まさか、これが龍人の標準的な勤務態度だと言うのか。もうひとりの龍人、碧祥管理官の仕事っぷりはどうだったろうか。
 だいたい、龍人とは神龍より地上を導けと仰せつかった尊い種族のはずだ。それなのに、なぜ毎日だらだらと遊んでいるだけなのだろう。
 カタログを眺めながら今度は端末をいじり始めた朱灯に、ジィアはもう一度溜息を吐く。

「監査官、あのですね――」
「朱灯です。では、外に出ましょうか? いわば町の査察ですね」
「え?」
「考えてみたら、私、“地上堕ち”してからまともに外を見ていませんし。現状を知る意味でも、一度外を歩くのがよいかもしれません。
 あ、でも“お忍び”でですよ。“お忍び”、一度やってみたかったんです」

 朱灯はガタッと音を立てて立ち上がる。

「ジィア、私服に着替えてください。地上分室のロビーで集合です」
「ちょ、ちょっと、監査官」
「朱灯です。では、ジィアの私服姿を楽しみにしていますね。私も着替えてきますから、ロビーで見せっこしましょう」

 朱灯はいつもどおりだ。
 ろくにジィアの言葉を聞かず、さっさと部屋を出てしまった。
 ジィアは、はあ、と、ここへ配属になってから何度目になるのかわからない大きな溜息を吐いた。
 とはいえ、物見遊山気分でも査察は査察か。
 ジィアは気を取り直し、着替えるために一旦宿舎へと戻った。


 * * *


「えーと、監査官。ここは……」
「朱灯です。ここは、全室にあのベッドが置いてあるホテルです」
「ホテルって、ここ、ホテルはホテルでも」
「はい、連れ込み宿とかラブホテルとか呼ぶらしいですね。そういうところにも興味があったので、一石二鳥というものです」

 表側ではなく、わざと裏通りに面した入口の前で、朱灯が「早く入りましょう」とジィアを促す。

 ――なんのことはない、部屋に入ってみれば、朱灯が先ほどまでカタログで熱心に眺めていたベッドがあったのだ。この実物を見たかったから、ジィアを引っ張って、一目散にここを目指していたらしい。

 おかしいと思ったのだ。地上は初めてだという割に、どこか目的があるかのようにぐいぐいジィアの腕を引いて歩き出すし、査察とかいう割に、ろくに町の様子も見てはいないし、何より、服装が妙に浮かれている。
 私服でと指示はされたが、ジィアは査察なのだからと地味なスーツでロビーへ向かった。なのに、現れた朱灯は、身体にぴったりと沿ったラインの、妙に煽情的な、変わった形のワンピースに身を包んでいたのだ。
 体格も体型も相変わらずなので、どこか少年が女装しているような風情でもある。
 おまけに、生地の紋様といい色合いといい、少し派手ではないだろうか。

「いいんですよ。このほうが楽しいですし」
「ですが監査官、査察に行くのにふさわしい服装があると思います」
「朱灯です。私が良いのだから良いんです。ほら行きましょう!」

 そうやって連れて来られたのがここだ。
 “休憩”とか“宿泊”とか称していかがわしい目的でいかがわしい行いをするためのホテルで――朱灯は、まさかジィアといかがわしいことがしたくて査察などと言い出したのか。

「監査官、勤務中にこういう場所の利用は……」
「朱灯です。査察だからいいんですよ。私、こういうところに来るのは初めてなので、少しワクワクしています。さ、行きましょう!」
「ちょっ、監査官!」
「朱灯ですってば」

 止めようとしても、朱灯は止まらない。
 鼻息荒くジィアを引きずって入口をくぐり、空室リストをじっくり吟味してひとつを選ぶと、どんどん中へと進んでいった。

「わあ、ジィア、本当にやわやわでたぷたぷです。水にでも浮いてるみたいですよ」

 部屋に入るなり、朱灯は目を輝かせてベッドに寝転がった。どこから見てもご満悦といった表情だ。
 うれしそうにごろごろと転がり続ける朱灯の目的は、もしかしたら、単なるベッドの寝心地確認だけで、いかがわしいことではなかったのかもしれない。
 ジィアはほっと胸をなで下ろす。

「監査官、満足したなら出ましょう」
「朱灯です。まだ満足していませんよ」
「ベッドの寝心地なら、それだけ転がってれば十分確認できたでしょう」
「なら、ジィアも触ってみてください。やわやわのたぷたぷですから」
「私は遠慮します」

 にこにこと誘う朱灯を、ジィアはにべもなく切り捨てる。

「どうしてですか。とても柔らかいんですよ」
「ベッドなら間に合ってます。だいたい、こんな高いうえに重たいベッドなんて、宿舎に置けるわけないでしょう」
「宿舎じゃなくて、私たちの新居に置くためのベッドですよ。ジィアの意見も聞きたいです」
「な、新居って何のことですか! まだ諦めてないんですか!」
「諦めるって何をですか。ジィアはそのうちサインをしてくれるのですし、あらかじめ新居を用意しても構わないと思いますが」
「おっ、俺はサインなんてしませんし、結婚する気もありません!」
 
 むう、と朱灯は思い切り顔をしかめる。
 だが、ジィアだってそんな要求をほいほい聞けるわけがない。

「そんな顔したって無駄ですよ」
「ジィアはわがままですね」

 はあ、と朱灯が溜息を吐く。
 いったいなぜ溜息なのか。
 わがままも何も、ジィアはまともなことしか言っていないはずだが。
 転がっていた朱灯が、急にむくりと起き上がった。

「監査官……?」
「朱灯です」

 さっと手を伸ばしてジィアの腕を掴むと、問答無用の力で抱え上げる。

「えっ、あっ、ちょっ、監査官!?」
「朱灯ですよ」

 そのままぽいっとベッドへ投げられて、慌てて身体を起こし――何を、と言いかけたジィアの上に、朱灯が降ってきた。

「すごいですねジィア。私とジィアが飛び込んでも、ビクともしませんよ」
「あ……あなたは子供ですか!」
「そろそろ性分化が終わりますから、子供とは言い難いですね」

 仰向けに転がったジィアにぺったりと張り付いて、すりすりと頬擦りをしながら朱灯は答える。性分化が終われば多少ながら肉付きも変わると言っていたけれど、朱灯の身体は、以前とまったく変わったように感じない、真っ平なものだった。
 ジィアも、負けじと大きな溜息を吐く。

「はあ……子供じゃないなら、もっと大人らしく行動してください」
「この上なく大人らしいではないですか」
「は?」
「子供は交尾をしようなどとは考えませんよ」
「こっ、交尾って……!!」
「セックスですよ」

 すりすりすりすり。頬擦りを続けながら、朱灯はうれしそうだ。

「最近、少々マンネリかもしれないとも感じていたんです。ここならベッドも確認できますし、一石二鳥でしょう?」
「な、な、一石二鳥って、仕事サボって部下連れ出してラブホにしけ込むとか、龍人の職業倫理ってどうなってるんですか!」
「サボってません。査察です」
「馬鹿言うのやめてください!」

 むー、と頬を膨らませて、朱灯はジィアのシャツをはだけさせる。ボタンを外し、ベルトのバックルも外し、それから手を差し込んで……。

「ジィアだってその気ですよ。現にふたつとも、こんなに固くなっているじゃないですか。臨戦態勢というやつです」
「う、やめてください、監査官」
「朱灯ですよ。こうなったらするまでおさまらないのでしょう? だから私と最後までやりましょうね」

 脱がせたシャツで腕を縛り、下着も下ろし……朱灯はくふふと笑う。

「どういう理屈ですか……あ、やめ、やめてください」
「やめません」

 わけのわからない興奮のおかげか、ガチガチに固く立ち上がったジィアは二本とも、朱灯の手に握り込まれた。
 そのまま大きく口を開けた朱灯が、二本まとめてぱくりと咥え込む。

「あ、あーっ!」

 朱灯の細長い舌がまとめて絡め取って扱き上げた。小さそうに見えて意外に顎は大きく開くのか、ぺちゃぺちゃ音を立てながら、ジィアを舐めている。

「や、監査官、やめて……そんな、くっ」

 咥えたまま「朱灯ですよ」とでも返そうとしたのか、口内の粘膜がもごもごと動いてジィアのジィアを揉みくちゃにする。
 ぞくぞくと背中を走る快感に、ジィアの腰がびくびくと震えた。

「う、あ……」

 このままだと出る。出てしまう。
 上官に咥えられて発射とか、まずいだろう。

 は、は、と荒く息を吐いて目を瞑る。どうにか快感をやり過ごしたいのに、出したさが膨れ上がるばかりだ。

 ――と、いきなり刺激が消えて、ジィアはそろそろと目を開けた。
 口を離した朱灯がジィアに跨り、雑に服を脱ごうとしているところだった。


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