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5.吸血鬼と私
9.ミカちゃん好き放題のほうだった
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「うー……」
「律子さん、どうしましたか?」
もう用件は終わったとばかりに私を抱いたままのミカちゃんが退出したところで、ようやく息を吐いた。空気を読むことが美徳の日本人に、さっきのトゲトゲした空気はものすごく、ものすごーくキツかったのだ。
「ねえミカちゃん。私たちって、ここに結婚の顔合わせっていうかごあいさつに来たんだよね?」
「ええ、そうですよ」
「なんであんなにギスギスしてるの。なんか会議っていうよりお局の嫌味大会みたいな空気だったよ」
「それは、皆、仲が悪いからですね」
「ええー……」
ミカちゃんににっこり返されて、私はさらにげんなりする。仲が悪いのに会議はちゃんとやるなんて……いや、仲が悪いから会議をするのか。
「吸血鬼ってさ、もっと優雅で余裕たっぷりで、金持ち喧嘩せずって顔して生きてるんだと思ってた」
「喧嘩なんてしませんよ」
ミカちゃんがにっこりと首を傾げる。
なんていうか、強くて長生きしてるんだし、細かいことなんか気にすんなってひとばかりだと思ってたのに。
「すっごくどろどろしてて、昼ドラみたいな空気だったよね」
「そうですか? けれど、表立って喧嘩なんてしては隙を見せることになりますし、足元を掬われてしまいますから。やるならもっと陰に隠れますよ」
「……なお悪いじゃん」
もしかして、私は血縁でもなんでもない吸血鬼相手に嫁姑……あるいは嫁舅戦争でもやることになるんだろうか。
もっとしっかり鉄分を取らないと美味しいお弁当になれませんよ、なんていびられるくらいで済めばいいけど……いや、それもちょっと嫌だな。
「――そういえばミカちゃん」
「はい?」
「アロルドさんがお弁当持参とか言ってたけど、もしかして皆あんなにぞろぞろ連れてるのって、そういう目的もあるの?」
ミカちゃんは目をぱちくりした後、楽しそうに笑い出した。
「それはその者によりますからなんとも。単に、大勢侍らせること自体が好きな者もおりますから。“男爵”のようにね」
「え……趣味なんだ。じゃ、まさかあの美魔女の美形双子も趣味?」
「美魔女……ああ、“夫人”ですか。おそらくそうでしょうね。ここ一世紀程はあのふたりばかりを連れてますよ。相当気に入ってるようですね」
吸血鬼って意外に俗物なんだなあと、少し残念な気持ちになる。
あ、でも考えてみたら、世界一有名な小説の吸血鬼もたしか女で身を持ち崩してたし、そういうものなのかな。
「んー……ミカちゃんは、ああいうの連れてないよね」
「そうですね。世話が面倒ですし、あまり持ちたいとも思いませんね」
「ペットみたいな言い草だ。あんまりよくないよ、そういうの。だって、あの人たちって人間なんだよね?
それに、すごくラブラブしてるみたいだったじゃない」
「ラブラブでしたか?」
そう聞き返されると困る。正直言えば、とても微妙だとも思えるから。けれど、あまり深く考えると人権がどうとかこうとかになりそうだし、見た目幸せそうなら放っておこうと、やっと気持ちを落ち着かせたところなのだ。
たぶん、ここに天使がいたら“吸血鬼に魅入られた者を救うべき”だのと言い出すんだろう。
だけど、金も力も無いただの人間にそんなのは無理だ。
「それに、彼らの関係と私と律子さんの関係は、かなり違うと思いますが」
「えーと、そこはあんまり突っ込んじゃいけないと思うんだ」
大真面目な顔で返すと、ミカちゃんは「律子さんは賢いですね」と笑った。
それ、笑いどころじゃない。
「何はともあれ、これで顔合わせはおしまいです。明日からはたくさん観光しましょうね。律子さんの行きたいところに行きますよ」
「わ、ほんと!? 実はこっちのほうが楽しみだったんだあ」
私はスーツケースにしまいっぱなしだったガイドブックを引っ張り出した。付箋を貼っておいたページを広げ、行きたい場所をあれやこれやと並べ立て、ミカちゃんに観光ドライブコースを作ってもらう。
「やっと海外来たって気持ちになれるね!」
「そうですか?」
「だって、ここまでろくに周りも見ないでミカちゃんとエッチばっかりだったじゃない? ホテルもそうだし、ここもそうだしでさ」
「嫌でしたか?」
「え?」
急にミカちゃんの色気が五割増しになった。
まさか今のでミカちゃんのおっさんスイッチが入ったのか。だって、せっかくの旅行なのに、部屋に引きこもってばっかりだったのは本当じゃないか。
ミカちゃんがすうっと目を細めて、また私の唇をぺろりと舐める。
「――昔は、その土地の領主に“初夜権”というものが認められておりまして」
「へ? いや、急に何の話? しょやけん?」
いきなりの話題転換に、頭がついていかない。ミカちゃんは、いったいなんの話をしているんだ。
「ここは今、“長老”が不在だからこそ、律子さんを連れて来れたんですよ」
「へ? へ? どういうこと?」
「花嫁との初夜を、悪戯や好奇心で奪われてしまってはたまりませんから」
ミカちゃんの顔がぐぐっと近付いて、ちゅ、と音を立てて唇を吸った。ミカちゃんの流し目は、正直言って反則だと思う。
「え、だって、しょや? 初夜? だって、初夜って、結婚式もまだなのに、初夜もへったくれも……え、ええええ、まさか、まさか長老ってエロ爺なの? 新婚のお嫁さんを寝取るようなエロ爺?」
「ですから、寝取られる前に寝てしまいましょう」
「えっ、ちょ、ミカちゃん!? ミカちゃん!? それ違くない!? 今日結婚式とかじゃないよね!?」
ひょいと私を抱き上げて、ミカちゃんはガチャリと寝室のドアを開ける。そのまままっすぐベッドに向かい、私をぽすんと下ろすと……こうもみなぎったミカちゃんに、私なんぞが敵うわけなかった。
いつも通りあっという間に蕩かされて気持ちよくされてミカちゃんのやりたい放題で……もしかしてこれ、律子甘やかしじゃなくてミカちゃん好き放題なんじゃないかとようやく思い至った頃には、空が白み始めていたのだった。
* * *
翌朝……朝といってももう昼近くまで寝倒したから、翌日か。
遅い朝食のあと、元神父さんにお暇を申し上げて、私とミカちゃんはさっさとお城を出発した。
他の皆さんはもちろんまだ寝ている時間だ。
基本的に夜行性なんだし、起きるのはきっと日が暮れてからだろう。ミカちゃんとしても、これ以上ここに留まる気はなさそうだった。
「――ねむいでござる」
「寝ていてもいいんですよ」
車の助手席で盛大に欠伸を連発する私に、ミカちゃんが優しく優しく声を掛けてくるが……。
「もったいないから寝ないもん。
だいたい、ミカちゃんがエキサイトし過ぎなんだよ。やりたい盛りの青少年みたいにさ。昨晩だって、やっと寝たのは夜明け近くだし」
「そうですか? 律子さんが可愛いから仕方ないですね。それに、今は夏ですし、夜明けも日本よりずっと早いですよ」
「もー! すぐそうやってふざける!」
剥れる私に、ミカちゃんは笑って「ふざけてませんよ」と返す。
「律子さんが可愛いって、いつも言ってることじゃないですか」
「そうやってすぐごまかすんじゃない」
「ごまかしてなんかいません。それから、オスロに着くのは夕方ですから、寝ていても大丈夫ですよ」
「でも、寝たらもったいないし」
「この辺りの景色はあまり変わりばえしませんけどね。休憩の時にはちゃんと起こしますから、寝てください」
「むー」
顔を顰める私に、ミカちゃんは笑い通しだった。
結局、ミカちゃんの言うとおり、山道と時折通る小さな町の風景は、慣れてくるとあまり変わりばえのしないものだった。
途中で、軽い昼食をとレストランに立ち寄った後は、ちょっと景色のいいところに車を停めて、ミカちゃんと記念写真を撮ったりしながらのんびりと進んだ。
「海外でもバカップル写真撮れるとは思わなかったなあ」
「そうですか?」
ミカちゃんのツーショット自撮りテクは健在なままだった。いつの間にか自撮り棒まで用意してあるし、ミカちゃんは本当にこういうの好きだなと思う。
「うん。でもね……へへ、こういうの、なんか幸せだね」
ミカちゃんは確かに普通じゃないけど、それでもこうやって普通に楽しく一緒に過ごせるのはいいことじゃないだろうか。
にへにへと笑う私に、ミカちゃんも相好を崩す。どことなくとろりとした笑みになって、「律子さん」と私を引き寄せる。
「律子さんは可愛いですね」
――昨晩で私は学習した。
これは律子甘やかしではなくミカちゃん好き放題のほうだ。
「ちょ、ミカちゃん? あの、ここ外だから、ね」
「けれど、これくらいならいいでしょう?」
くいっと顎を持ち上げて、ミカちゃんの唇がしっかりと合わさる。たしかに人の往来はあまりないけど、それでもちょっとこれは……。
と、あわあわしてたら、カシャっと音がした。
「あ、あ、ミカちゃん、もしかしてちゅー写真まで!?」
「はい」
「ちょ、人に見せられない写真!」
「私が大切に保管しますから、大丈夫ですよ」
「そ、そういう……んー!」
またぶちゅっと塞がれて、念入りにキスをされて……暴走ミカちゃんになったらどうしよう、というところでようやくキスは終わって車に戻った。
「早くホテルに行きましょうね」
「え」
エンジンをかけながら、ミカちゃんが笑顔でそんなことを言う。どう考えてもミカちゃん好き放題のためだよね、という笑顔で。
「ミカちゃんて、おっさんていうより、男子高校生だったね。それともおっさんと男子高校生のハイブリッド?」
ん? とこっちを向くミカちゃんに、私は思いっきり顔を顰めてみせる。
「なんていうか、AVみたいなこと好きなのはおっさんみたいだけど、そうやって何かと盛る感じがエッチなこと覚えた男子高校生みたいだなって」
ああ、とミカちゃんがくすくす笑いだす。
「それは、律子さんが可愛いからですよ。それに、男というものは、皆そんなものでしょうに」
「ええー? でもさ、ミカちゃんは前から色気たっぷりだったけど、例えばあの天使とかそんな感じしないじゃない」
「それは仕方ありませんね。律子さんが可愛いんですから。それと、あの聖なるものはただの“むっつり”だと思いますよ」
「え」
むっつり……あの純情一直線な天使が、ただのむっつり……と考えて、ぶはっと噴き出してしまった。
「ちょ……むっつり、むっつりってミカちゃん酷い! でもなんかわかる!」
お腹が痛くなるくらい大笑いする私にもう一度キスをして、ミカちゃんは車を走らせ始めた。
※初夜権については、実際にはそんなもんなかったという説が有力とかなんとからしいと、ウィキペディア先生が言ってた気もします。
「律子さん、どうしましたか?」
もう用件は終わったとばかりに私を抱いたままのミカちゃんが退出したところで、ようやく息を吐いた。空気を読むことが美徳の日本人に、さっきのトゲトゲした空気はものすごく、ものすごーくキツかったのだ。
「ねえミカちゃん。私たちって、ここに結婚の顔合わせっていうかごあいさつに来たんだよね?」
「ええ、そうですよ」
「なんであんなにギスギスしてるの。なんか会議っていうよりお局の嫌味大会みたいな空気だったよ」
「それは、皆、仲が悪いからですね」
「ええー……」
ミカちゃんににっこり返されて、私はさらにげんなりする。仲が悪いのに会議はちゃんとやるなんて……いや、仲が悪いから会議をするのか。
「吸血鬼ってさ、もっと優雅で余裕たっぷりで、金持ち喧嘩せずって顔して生きてるんだと思ってた」
「喧嘩なんてしませんよ」
ミカちゃんがにっこりと首を傾げる。
なんていうか、強くて長生きしてるんだし、細かいことなんか気にすんなってひとばかりだと思ってたのに。
「すっごくどろどろしてて、昼ドラみたいな空気だったよね」
「そうですか? けれど、表立って喧嘩なんてしては隙を見せることになりますし、足元を掬われてしまいますから。やるならもっと陰に隠れますよ」
「……なお悪いじゃん」
もしかして、私は血縁でもなんでもない吸血鬼相手に嫁姑……あるいは嫁舅戦争でもやることになるんだろうか。
もっとしっかり鉄分を取らないと美味しいお弁当になれませんよ、なんていびられるくらいで済めばいいけど……いや、それもちょっと嫌だな。
「――そういえばミカちゃん」
「はい?」
「アロルドさんがお弁当持参とか言ってたけど、もしかして皆あんなにぞろぞろ連れてるのって、そういう目的もあるの?」
ミカちゃんは目をぱちくりした後、楽しそうに笑い出した。
「それはその者によりますからなんとも。単に、大勢侍らせること自体が好きな者もおりますから。“男爵”のようにね」
「え……趣味なんだ。じゃ、まさかあの美魔女の美形双子も趣味?」
「美魔女……ああ、“夫人”ですか。おそらくそうでしょうね。ここ一世紀程はあのふたりばかりを連れてますよ。相当気に入ってるようですね」
吸血鬼って意外に俗物なんだなあと、少し残念な気持ちになる。
あ、でも考えてみたら、世界一有名な小説の吸血鬼もたしか女で身を持ち崩してたし、そういうものなのかな。
「んー……ミカちゃんは、ああいうの連れてないよね」
「そうですね。世話が面倒ですし、あまり持ちたいとも思いませんね」
「ペットみたいな言い草だ。あんまりよくないよ、そういうの。だって、あの人たちって人間なんだよね?
それに、すごくラブラブしてるみたいだったじゃない」
「ラブラブでしたか?」
そう聞き返されると困る。正直言えば、とても微妙だとも思えるから。けれど、あまり深く考えると人権がどうとかこうとかになりそうだし、見た目幸せそうなら放っておこうと、やっと気持ちを落ち着かせたところなのだ。
たぶん、ここに天使がいたら“吸血鬼に魅入られた者を救うべき”だのと言い出すんだろう。
だけど、金も力も無いただの人間にそんなのは無理だ。
「それに、彼らの関係と私と律子さんの関係は、かなり違うと思いますが」
「えーと、そこはあんまり突っ込んじゃいけないと思うんだ」
大真面目な顔で返すと、ミカちゃんは「律子さんは賢いですね」と笑った。
それ、笑いどころじゃない。
「何はともあれ、これで顔合わせはおしまいです。明日からはたくさん観光しましょうね。律子さんの行きたいところに行きますよ」
「わ、ほんと!? 実はこっちのほうが楽しみだったんだあ」
私はスーツケースにしまいっぱなしだったガイドブックを引っ張り出した。付箋を貼っておいたページを広げ、行きたい場所をあれやこれやと並べ立て、ミカちゃんに観光ドライブコースを作ってもらう。
「やっと海外来たって気持ちになれるね!」
「そうですか?」
「だって、ここまでろくに周りも見ないでミカちゃんとエッチばっかりだったじゃない? ホテルもそうだし、ここもそうだしでさ」
「嫌でしたか?」
「え?」
急にミカちゃんの色気が五割増しになった。
まさか今のでミカちゃんのおっさんスイッチが入ったのか。だって、せっかくの旅行なのに、部屋に引きこもってばっかりだったのは本当じゃないか。
ミカちゃんがすうっと目を細めて、また私の唇をぺろりと舐める。
「――昔は、その土地の領主に“初夜権”というものが認められておりまして」
「へ? いや、急に何の話? しょやけん?」
いきなりの話題転換に、頭がついていかない。ミカちゃんは、いったいなんの話をしているんだ。
「ここは今、“長老”が不在だからこそ、律子さんを連れて来れたんですよ」
「へ? へ? どういうこと?」
「花嫁との初夜を、悪戯や好奇心で奪われてしまってはたまりませんから」
ミカちゃんの顔がぐぐっと近付いて、ちゅ、と音を立てて唇を吸った。ミカちゃんの流し目は、正直言って反則だと思う。
「え、だって、しょや? 初夜? だって、初夜って、結婚式もまだなのに、初夜もへったくれも……え、ええええ、まさか、まさか長老ってエロ爺なの? 新婚のお嫁さんを寝取るようなエロ爺?」
「ですから、寝取られる前に寝てしまいましょう」
「えっ、ちょ、ミカちゃん!? ミカちゃん!? それ違くない!? 今日結婚式とかじゃないよね!?」
ひょいと私を抱き上げて、ミカちゃんはガチャリと寝室のドアを開ける。そのまままっすぐベッドに向かい、私をぽすんと下ろすと……こうもみなぎったミカちゃんに、私なんぞが敵うわけなかった。
いつも通りあっという間に蕩かされて気持ちよくされてミカちゃんのやりたい放題で……もしかしてこれ、律子甘やかしじゃなくてミカちゃん好き放題なんじゃないかとようやく思い至った頃には、空が白み始めていたのだった。
* * *
翌朝……朝といってももう昼近くまで寝倒したから、翌日か。
遅い朝食のあと、元神父さんにお暇を申し上げて、私とミカちゃんはさっさとお城を出発した。
他の皆さんはもちろんまだ寝ている時間だ。
基本的に夜行性なんだし、起きるのはきっと日が暮れてからだろう。ミカちゃんとしても、これ以上ここに留まる気はなさそうだった。
「――ねむいでござる」
「寝ていてもいいんですよ」
車の助手席で盛大に欠伸を連発する私に、ミカちゃんが優しく優しく声を掛けてくるが……。
「もったいないから寝ないもん。
だいたい、ミカちゃんがエキサイトし過ぎなんだよ。やりたい盛りの青少年みたいにさ。昨晩だって、やっと寝たのは夜明け近くだし」
「そうですか? 律子さんが可愛いから仕方ないですね。それに、今は夏ですし、夜明けも日本よりずっと早いですよ」
「もー! すぐそうやってふざける!」
剥れる私に、ミカちゃんは笑って「ふざけてませんよ」と返す。
「律子さんが可愛いって、いつも言ってることじゃないですか」
「そうやってすぐごまかすんじゃない」
「ごまかしてなんかいません。それから、オスロに着くのは夕方ですから、寝ていても大丈夫ですよ」
「でも、寝たらもったいないし」
「この辺りの景色はあまり変わりばえしませんけどね。休憩の時にはちゃんと起こしますから、寝てください」
「むー」
顔を顰める私に、ミカちゃんは笑い通しだった。
結局、ミカちゃんの言うとおり、山道と時折通る小さな町の風景は、慣れてくるとあまり変わりばえのしないものだった。
途中で、軽い昼食をとレストランに立ち寄った後は、ちょっと景色のいいところに車を停めて、ミカちゃんと記念写真を撮ったりしながらのんびりと進んだ。
「海外でもバカップル写真撮れるとは思わなかったなあ」
「そうですか?」
ミカちゃんのツーショット自撮りテクは健在なままだった。いつの間にか自撮り棒まで用意してあるし、ミカちゃんは本当にこういうの好きだなと思う。
「うん。でもね……へへ、こういうの、なんか幸せだね」
ミカちゃんは確かに普通じゃないけど、それでもこうやって普通に楽しく一緒に過ごせるのはいいことじゃないだろうか。
にへにへと笑う私に、ミカちゃんも相好を崩す。どことなくとろりとした笑みになって、「律子さん」と私を引き寄せる。
「律子さんは可愛いですね」
――昨晩で私は学習した。
これは律子甘やかしではなくミカちゃん好き放題のほうだ。
「ちょ、ミカちゃん? あの、ここ外だから、ね」
「けれど、これくらいならいいでしょう?」
くいっと顎を持ち上げて、ミカちゃんの唇がしっかりと合わさる。たしかに人の往来はあまりないけど、それでもちょっとこれは……。
と、あわあわしてたら、カシャっと音がした。
「あ、あ、ミカちゃん、もしかしてちゅー写真まで!?」
「はい」
「ちょ、人に見せられない写真!」
「私が大切に保管しますから、大丈夫ですよ」
「そ、そういう……んー!」
またぶちゅっと塞がれて、念入りにキスをされて……暴走ミカちゃんになったらどうしよう、というところでようやくキスは終わって車に戻った。
「早くホテルに行きましょうね」
「え」
エンジンをかけながら、ミカちゃんが笑顔でそんなことを言う。どう考えてもミカちゃん好き放題のためだよね、という笑顔で。
「ミカちゃんて、おっさんていうより、男子高校生だったね。それともおっさんと男子高校生のハイブリッド?」
ん? とこっちを向くミカちゃんに、私は思いっきり顔を顰めてみせる。
「なんていうか、AVみたいなこと好きなのはおっさんみたいだけど、そうやって何かと盛る感じがエッチなこと覚えた男子高校生みたいだなって」
ああ、とミカちゃんがくすくす笑いだす。
「それは、律子さんが可愛いからですよ。それに、男というものは、皆そんなものでしょうに」
「ええー? でもさ、ミカちゃんは前から色気たっぷりだったけど、例えばあの天使とかそんな感じしないじゃない」
「それは仕方ありませんね。律子さんが可愛いんですから。それと、あの聖なるものはただの“むっつり”だと思いますよ」
「え」
むっつり……あの純情一直線な天使が、ただのむっつり……と考えて、ぶはっと噴き出してしまった。
「ちょ……むっつり、むっつりってミカちゃん酷い! でもなんかわかる!」
お腹が痛くなるくらい大笑いする私にもう一度キスをして、ミカちゃんは車を走らせ始めた。
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