クソイケメンな吟遊詩人にはじめてを奪われて無職になったので、全力で追いかけて責任取らせます

ぎんげつ

文字の大きさ
10 / 152
地母神の町

何事も準備が肝心なので

しおりを挟む
 髪を掻き分けたり耳を引っ張ったりしながら、ミーケルはエルヴィラのあちこちを確認した。しまいには、服を剥いてその下まで確認しようとしたので、エルヴィラは必死で抵抗した。

「──不合格」
「え、なんでだ!?」
「髪、適当すぎる。あちこち洗い残しもある。特に耳の後ろ、首の後ろ、背中……お前は本当に女なのか。もう少し気を遣え。
 ……おいまさか、顔も適当なのか?」
「え……ちゃんと洗った……と思う」

 ミーケルが眉間に皺を作ってキリキリと歯を軋ませるのを見て、エルヴィラは「ひっ」と息を飲んだ。
 自分はそんなに悪いことをしたのかと、怯えて後退る。

「ありえない」
「な、何が」
「こんな女がいるとかありえない――お前本当は女装した男だろう。今日び、女冒険者だってもう少しマシだ」
「な、何を言うんだ、私のおっぱい見たくせに!」

 平民で貧乏暮らしをしているならともかく、侯爵家に出仕できるほどの腕と身分と教養があるはずなのに、なんなんだこいつは。

 ミーケルは思わず眩暈を感じずにいられない。
 仮にも女だというなら、もっと身嗜みに気を遣うものではないのか。こんな生き物を女と呼ぶのは女に対する冒涜じゃないのか。

「お前、騎士のくせに、身支度は何もかも侍女に任せきりだったとかか?」
「え? そんなことはないぞ。ちゃんと自分の面倒を自分で見られるようでなくては、騎士は務まらん」

 ではやはりこいつが雑でズボラなだけなのか。

「――洗い方を教えてやる」
「え、いや、それは――」
「うるさい。つべこべ言わず従え。夫が欲しいんだろう?」
「で、でも」
「とっとと、“脱げ”」

 いきなり身体が勝手に服を脱ぎ捨てた。
 なんだこれ。まさか魔法なのか?
 エルヴィラの身が竦む。

「な、な、な……」
「ほら、来い」
「ひっ」

 襟首を掴まれ、引きずられるようにして風呂に連れ込まれた。エルヴィラは涙を潤ませながら抵抗したが、無駄だった。

「まずは髪」

 浴槽の隣にエルヴィラを座らせると、ミーケルは傍らから櫛を取り、髪を丁寧に先から解しつつ、整えていく。

「ただ水被って石鹸使えばいいってもんじゃない。まずは櫛で解せ。先から丁寧にだ。いきなり元から櫛を通したって絡まってぶちぶち切れるだけなんだよ。それに髪が傷む」
「え、ああ」
「解した髪を洗うのは、そっと泡で満遍なく撫でるくらいでいい。だが頭自体はしっかり、けれど爪を立てずに擦るんだ」

 口調と表情とは逆に、じっくりと指の腹で頭を揉むように優しく擦られる。
 何これ気持ちいい。
 あまりの気持ちよさにうっかりうとうと眠りそうになり、エルヴィラはまたミーケルに怒られた。



 それから、顔も洗い布と石鹸で丁寧に擦れとか、身体もきちんと満遍なく洗い布を使ってとか……とくに肘膝足裏は洗った後すぐに香油を擦り込むとか、ものすごく面倒なことまでをいちいち説明されつつ実際にやらされた。
 いつもの三倍以上の時間を風呂に費やしたエルヴィラは、疲労困憊のあまりミーケルに文句を言う気力もない。

 なのに、風呂が終わった後まで顔に擦り込むクリームだとか髪油だとかあれこれをさらに厳しく指導され、エルヴィラは騎士の鍛錬よりも過酷なことがあったんだなと遠い目になっていた。

 夫とかもういいかな、なんてことまで考え始めるほどに。

 うん、剣は使えるんだし、カッコイイ女冒険者とかに転身して、ちょっとイケメンで強い戦士とかクールなインテリの魔術師とかと一緒に冒険していい感じになって、そんで所帯持ったりでもいいんじゃないだろうか。

 間違ってもこのクソ詩人のように、小姑っぽく小煩くて、しかもエロいことディープキスばっかりするチャラいのはダメだ。
 うん。こんなしち面倒臭いことしなきゃいけないくらいなら――

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

新人メイド桃ちゃんのお仕事

さわみりん
恋愛
黒髪ボブのメイドの桃ちゃんが、働き先のお屋敷で、旦那様とその息子との親子丼。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

処理中です...