クソイケメンな吟遊詩人にはじめてを奪われて無職になったので、全力で追いかけて責任取らせます

ぎんげつ

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地母神の町

我こそが(自称)完璧な淑女だ!

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「よし、準備できた」

 エルヴィラが意識を現実から飛ばしていた間に、ミーケルはエルヴィラの顔と髪を整え終わっていた。

「そしたらこっちに着替えて」
「へっ?」

 着ていた騎士服ではだめなのだろうか――そう考えたことが顔に出たのか、またミーケルは呆れた表情でエルヴィラを見て、鏡を指差した。

「その顔と髪に、あのきったない騎士服でいいと思うの?」

 鏡の中のエルヴィラは、うっすら化粧をされて髪もきちんと結い上げられていた。
 思ってもみなかった自分の姿に、思わず「ふぇっ?」と変な声を漏らしてしまうほど、整っている。
 戦神教会の式典のときだって、ここまで整えたことはなかった。

「あのね、ちゃんとした服を買うにしても、ふさわしい格好があるんだよ。
 あんな小汚い格好で店に行ってみな。いいとこ追い払われるか、足元見られて適当なものを適当に売られて終わりだよ」
「そ、そういうものなのか」

 エルヴィラの知らない世界である。
 姫の側に護衛として侍っていた時に、もうちょっと侍女たちの身形や何やとかをよく見ておくべきだったのかもしれない。
 あんな風に着飾らなくても別に……なんて考えていたのは間違いだったのか。
 だって、“ありのままの自分を好きになってもらう”というのが、ロマンス小説みたいな恋愛のセオリーだと思っていたし……

「ありのままの自分がどうとか考えてるなら、そんな甘えは捨ててね。自分で努力せず、相手にだけ妥協を要求する最悪の考えだから、それ」
「え、えっ……」
「スペックの高い男を捕まえたいなら、自分にもそれなりのスペックが要求されるのだと肝に銘じておくんだよ」
「え……」

 もうやめて。
 エルヴィラの生命は風前の灯火同然なのよ、それ以上追い詰めないで。

 これまで読んだどんなロマンス小説の中のセリフよりも、ミーケルの言葉には実感が伴っているように感じられた。
 しょせん、作り事フィクション作り事フィクションでしかないということなのか。
 立て続けの衝撃に、エルヴィラの視界がぐらぐらと揺れる。

 ――いやまてよ。

 ロマンス小説のヒロインたちは、たしかに“ありのままのあなたが好きだ”と告白されていたが、そもそもヒロイン自体、かなりスペックが高くはなかったか。

 つまりヒロインは、話の裏側でこんな面倒なことをこなしていたということか。
 さすがだなヒロイン!
 ろくに戦えないロマンス小説のヒロインですらああなのだ。なら、戦いまでこなせる自分であれば――

「わかった。わかったぞクソ詩人!
 騎士として有能な上に淑女の嗜みを身につければ私は最強ということか!」

 エルヴィラは高揚する気持ちのままに拳を高く振り上げる。

「ならばやってやろうではないか!
 このエルヴィラ・カーリスの本気を見せてやるぞ!」

 見れば見るほど、鏡の中のエルヴィラは“ヒロイン”と言ってもいいほど、しっかりと磨かれているではないか。

「ふふ、鏡に映った私を見ろ。なんといういっぱしの美女か。これにレディとしての作法が伴えば完璧だ。完璧すぎる淑女の完成だ。世の紳士どもが放っておかぬわ」
「まあ、自信を持つのは悪くないけど、そこまで行くとただの自惚れで過信だし。大言壮語は自分でその顔が再現できるようになってからにしてね。
 あとその言葉遣いも振る舞いも、完璧アウトだから」
「――なんだと!」



 それから、ミーケルに引き回されるままに店を梯子して、下着から何からすべてを注文していった。
 勝負をかけるときのための一張羅とか、女戦士や女騎士御用達の胸を潰さない下着だとか、なんでこいつはこんなに詳しいのかと思うものまで、すべて揃えた。
 注文品だけでは困るからと、出来合いの服も幾つか揃えた。
 さらに生まれて初めて化粧品など買わされて、今日一日だけでエルヴィラの知らない世界がずいぶん減った気がした。

 ああ宣言はしたが、どう考えても、華麗に女冒険者へと転身してイケメンな戦士とか魔術師を捕まえるほうがいいんじゃないだろうか。
 エルヴィラの心はちょっと揺れていた。






*****

地母神の町
名物の白ソーセージは、ミュンヘン名物がベース
傷みやすいので昔は午前中しか食べられなかったらしいが、今は夜でも食べられる。ドニスルが有名。すげーうまい。

しかし日本で「あったー! ヤッター!」と喜び勇んで注文すると、焼いたものが出てくることが多くて油断できない。
ソーセージは焼けばいいってもんじゃねえんだよ! 茹でろ! そしてお湯とともに出せ!

名物の白ビールもミュンヘン名物がベース。
最近知名度上がってる、いわゆるヴァイスビア。濁りがあって白っぽい。
一杯の最低単位が500mlとかであるため、うまいが一杯飲むだけで腹一杯になってしまう。
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