クソイケメンな吟遊詩人にはじめてを奪われて無職になったので、全力で追いかけて責任取らせます

ぎんげつ

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聖女の町

そんなこと、誰が言ったの?

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 エルヴィラは置いて行かれたときのまま、呆然と転がっていた。服も何もかも乱れたまま、どうしてこんなことになってしまったんだろうと考えていた。

 泣き過ぎて目の周りがひりひりする。喉も渇いてがらがらだ。脚の間もベトベトして気持ちが悪い。
 ゆっくり起き上がって、手近な布を取って身体を拭いた。
 水差しの水で少し湿らせて、ぐいぐいと拭いた。

 昨日まで、きっといろんなことがうまくいくと思ってたのに、どこを間違えてしまったんだろうか。
 わからない。

 とりあえず、このまま部屋には居たくなくて、服を整えて外へ出た。ミーケルの姿もなかったから、彼もどこかへ出てしまったのだろう。
 顔を合わせずに済んで、なんとなくほっとする。

 そのまま町の中へと、エルヴィラはふらふらと歩き出した。



「まあ、お嬢さん、どうしたのかしら?
 あら、あなたもしかして、サイラス殿がデートしてたっていうお嬢さん?」
「え?」

 広場の片隅にぼんやりと座り込んでいると、不意に声を掛けられた。
 顔を上げると、いつの間にか、黄色い神官服の女のひとがにこにこと微笑みながら目の前に立っていた。
 黄色は太陽神の色だ。だから、この人は太陽神教会の神官なんだろう。

「あのサイラス殿が、昨日、綺麗なオレンジ色の赤毛の、とっても可愛らしいお嬢さんとデートをしてたって教会で噂だったの。
 だからあなたがそうなのかと思って」
「その、ん……」
「何かあったのかしら?
 なら、もうすぐ日も暮れるのだし、こんなところに座ってないで私といっしょにいらっしゃいな。一緒にお話ししましょう。気も紛れると思うわよ?
 私は太陽神教会の神官で、アンジェというの。
 今日は旦那も息子も警備隊の遅番でいないから、ちょうどいいわ」
「あの、エルヴィラ、です」

 手を引かれるままに立ち上がり、歩き始める。
 歩く間、アンジェは陽気にあれこれと町のことを話したり、教会での出来事を話したりと、ずっとひっきりなしにしゃべり続けた。



「さあ、着いたわ。どうぞ」

 招き入れられて、ぺこりとひとつお辞儀をしてアンジェの家へと入る。それほど大きくはないけれど、あちこちに花が飾られてとても居心地がよさそうだ。

「ちょっと埃だらけね。まずはお風呂に入りましょうか。すぐに用意するわ。せっかくの綺麗な髪もぼさぼさじゃもったいないものね」

 少しだけ座って待っていてねと言い残し、アンジェはぱたぱたと奥へ消える。エルヴィラは、おずおずとそばにあった長椅子に腰を下ろした。
 ふ、と小さく溜息を吐いて、これからどうすればいいんだろうと考えた。



「私ねえ、エルヴィラちゃんみたいな可愛い娘が欲しかったわ」
「そう、ですか?」
「だって、娘がいたらこうやって背中の流しっことか毎日できたのよ。
 息子はつまらないわあ。小さい頃は可愛かったのに、今はすっかり生意気なの。一人前の顔してね」
「はあ……」

 なぜかアンジェと一緒に風呂に入りながら、そんな話をした。
 泣き腫らして真っ赤になった目は、アンジェが「まあ」とひと言だけ呟いて、すぐに神術で癒してしまった。
 何があったのかも聞かずに、ただ「一緒にお風呂できれいになりましょうか」と微笑んで、エルヴィラの背を押して風呂場に連れて行っただけだった。

「娘ができたらいっぱい可愛くして、一緒にお料理をしたりしてって、いろいろ夢見てたの。けど、今はもう、息子の嫁に期待するしかないのよねえ」

 楽しそうにそんなことを言うアンジェに、自分の母はどうだったかなと考える。
 貴族ではないが、戦神教会の騎士と司祭の家系で使用人もいて、母自身が料理のような家事をすることはなかった。こうして一緒に風呂に入るなんてこともなかった。
 どちらかといえば、カーリス家の娘らしくあれと、尻を叩くばかりだった。

「私の母がアンジェさんのような母だったら、私も、もう少し女らしくできたんだろうか」

 ぽつりと呟くと、アンジェは目を丸くして、「あら」と驚く。

「エルヴィラちゃんは充分女の子らしいわよ。
 ほら、見て。赤毛の子は色が白いっていうけど、本当に真っ白できれいな肌じゃない。目も晴れ渡った青空みたいな青で、身体つきもちゃんと女の子らしくて、とっても可愛いわ」

 アンジェはエルヴィラの腕を取り、ほらほら、と示す。

「でも、いろいろ雑で、乱暴で、女らしくないって」
「その人は見る目がないわ。そんなの些細なことなのに」

 くすくすとアンジェは笑い、エルヴィラの髪をするりと撫でる。

「女の子ってだけで充分なのよ。それだけで、いいの。
 でもそうね……ひとつだけ言うことがあるとしたら、エルヴィラちゃんはこんなに可愛いんだからもっときれいにしないといけないってことね」
「そう……かな?」
「もちろんよ。うんときれいにして、そんな失礼で残念な人を見返してやるといいわ」
「……でも、そいつもきれいなんだ。すごく」
「ま、自分がきれいだからって、女の子を貶していいことにはならないわよ? それに、男が見た目きれいで、だからどうしたっていうの」

 アンジェにかかると、本当にどうでもいいように思えてくる。

「――エルヴィラちゃん、泣いてたでしょう?
 だめよ、女の子を泣かすなんて、それだけで最低なんだから」
「でも……私が馬鹿で悪いから――」

 またエルヴィラが俯くと、アンジェはすぐに頰を両手で包んで上を向かせた。にっこり笑って、首を傾げる。

「そんなこと、誰が言ったの?」
「ええと……」
「エルヴィラちゃんさえよかったら、私に話してみない?」
「その、ええと……」

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