クソイケメンな吟遊詩人にはじめてを奪われて無職になったので、全力で追いかけて責任取らせます

ぎんげつ

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聖女の町

女の子ってだけでいい

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 アンジェはにこにこと笑ったまま、断言した。

「まず、最初に悪いのは、サイラス殿ね」
「え、でも」

 結局、エルヴィラは夫探しをしてることやサイラスに告白して振られてしまったこと、破れかぶれに“惚れ薬”を飲んでしまったことまでを全部話してしまった。
 ミーケルとの一件のこと以外、全部だ。
 アンジェはにっこりと柔らかい微笑みは崩さず、黙って最後までずっと、ゆっくりとエルヴィラの話を聞いてくれた。

「女の子の恋に本物も偽物もないの。エルヴィラちゃんが恋だと思ったんだから、それは間違いなく恋なのよ。
 サイラス殿の言葉は、いい歳した男性が体良く自分が悪者にならないように、言葉を選んでお断りしただけよ。
 まったく、サイラス殿も肝の据わりが足りてないだなんて。
 いいわ。彼には、私からよおく言い含めておくわね。エルヴィラちゃんはちっとも悪くないんだから、そんな酷い男のことなんか忘れちゃいなさい」
「え、そんな……」

 本当にそんなことでいいのだろうか。
 サイラスにとても悪いことをしてしまったような気がして、冷や汗が出る。

「女の子の自信を奪うような言い方する男はただの未熟者なの。だからエルヴィラちゃんが気にするようなことはないわ。ね?
 ――それに」

 アンジェはエルヴィラの目をじっくりと覗き込むように見つめる。

「私には、エルヴィラちゃんが、“惚れ薬”の影響を受けてるようには見えないわね」
「え?」

 驚くエルヴィラに、アンジェは楽しそうに笑ってみせる。

「私はこれでも太陽と癒しの神に仕える神官よ。もしエルヴィラちゃんの心が何か魔法的な影響で普通の状態じゃないのだったら、すぐにわかるわ」

 どうにも信じられず、エルヴィラは半信半疑という表情で目を泳がせる。そんなエルヴィラの頬をアンジェはそっと撫でて、祈りの言葉を呟いた。

「“天空高く輝ける神の名において、あなたの心の嵐は鎮まり穏やかな風となる。あなたを掻き乱す憂いは去り安寧が訪れる”」

 にっこり笑って、アンジェはまたエルヴィラの顔を覗き込んだ。

「さあ、今とさっきとで、エルヴィラちゃんの、吟遊詩人くんへの気持ちに変化はあるかしら?」

 頭がすっきりしたような気がする。さっきまでぐらぐらしていたエルヴィラの心も、不思議と落ち着いていた。

 アンジェはエルヴィラの頰を優しく撫で続けている。柔らかくて暖かい掌が、自分を励ましてくれているようだ。
 今、アンジェは心を落ち着かせてくれる神術を使ってくれたのだろうか。もしかしたら、“惚れ薬”の影響を消すような――けれど“解呪”とも違うように思えて、エルヴィラは小さく首を傾げた。

「変わってない、と思う」
「そう」

 ふふ、と笑うアンジェにゆっくり頭を撫でられて、くすぐったい気持ちになる。都を出てからずっと、こんなに落ち着いたことはなかったかもしれない。

「じゃあ、エルヴィラちゃんが次に考えるのは……そうねえ……エルヴィラちゃんは、とにかく条件さえ良ければ誰でもいいから結婚したいの? それとも、ちゃんと好きになった人と添い遂げたい?」
「え……?」

 何か違うのだろうかと、エルヴィラは首を傾げる。

「え、と……」
「そこをよーく考えて、ね? そうしたら、エルヴィラちゃんの夫探しもうまくいくんじゃないかしら」

 にこにこするアンジェに言われると、そういうものかと思えてしまう。
 よくわからないけど、そのふたつは違うことなんだろう。エルヴィラはちゃんと考えてみようと、小さく頷いた。



 お風呂を出た後も、あれこれとお喋りは続いた。
 髪や顔の手入れの仕方も、教えてもらえた。

 ミーケルに教え込まれた方法もいいけれど、もっと手抜きでも大丈夫と、アンジェが簡単で続けやすい方法を教えてくれたのだ。
 手を抜くところとしっかりやるところ、それを押さえておけば大丈夫なのよ、と。

 髪や身体の手入れというのは、毎日の剣の鍛錬のようだった。
 毎日きっちりやらなければすぐに衰えてしまうことと、毎日ではなくても大丈夫なこと。剣の鍛錬にだってそういうものはある。

 ──本当に、こんな風にゆったり過ごすのは、久しぶりかもしれない。

 だんだんと、アンジェが自分の歳の離れた姉か従姉のような気さえしてきた。自分にも本当に姉妹がいればよかったのに、とエルヴィラは考えていた。
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