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葡萄の町
まな板の上のエルヴィラ
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エルヴィラがどうしようかと考えながらミーケルをちらりと見やる。
彼はその視線にすぐ気付き、「ん?」と、なぜか上機嫌ににっこりと微笑んでエルヴィラを見返した。
「エルヴィラも、それでいいね?」
「ふぇ?」
いったい何が良いのか。
まるで話を聞いていなかったエルヴィラは、ぽかんと首を傾げてしまう。
「なんだ、オットー様の前だからって緊張してて聞いてなかった? 今日のお礼にと、君を晩餐に招待してくださったんだよ」
「え、えっ?」
「僕は残念ながら仕事があるから、君は僕の名代も兼ねて頼むよ」
慌てるエルヴィラに、ミーケルはとても楽しそうににっこりと笑った。
「あ、私、その、作法とか……粗相をしてしまったら――」
あうあうと焦るエルヴィラに、オットーまでがにっこりと微笑みを向ける。
「大丈夫ですよ。当日は気軽に楽しめるような形式にしましょう。
間違っても、こんな可愛らしいお嬢さんに恥をかかせるようなことにはしませんから、ご安心ください」
「う、え……」
だめだ断れない。
エルヴィラはさらに冷や汗を垂らす。
貴族にここまで言わせて断っては、エルヴィラこそがオットーに恥をかかせたことになってしまう。
「あ、あの、楽しみに、して、おります」
エルヴィラはしおしおと項垂れながら、晩餐なんていったいどうしたものかとぐるぐる考えた。
もちろん、何も浮かばなかった。
* * *
約束の日。
宿でがっちり磨き上げ、勝負用に髪を結われて化粧をされて、いつもよりも幾分か装飾の多い騎士服を着た。
「なんで騎士服なの。君、勝負掛かってるのわかってる?」
「わかってるけど、愛人は、やだ」
冴えない顔色で眉尻を下げて嘆息するエルヴィラに、ミーケルは呆れ顔だ。
「別にオットー本人を引っ掛けるわけじゃなくたって、屋敷には他にも男はいるだろ。伯爵家の使用人なら身元も身分もそれなりだよ」
「それはわかるけど、オットー様があの調子で他の者が寄ってくるだろうか」
「そこは君がうまく頑張るところじゃないの?」
そんなに言うほどうまくいくだろうか。
そもそも、オットーが本気でエルヴィラに愛人になれと命じてきたら、他国へ姿を眩ませでもしなきゃ、逃げ切れないのだ。
シェーンフェルト伯爵家は、“深淵の都”がかつて王国の王都であったころから続く古い血筋の貴族だ。
今でこそ十大貴族には数えられていないが、それに続く権勢を誇っている。その継嗣にやらかしたら、今度こそエルヴィラはおしまいではないか。
さらに言えば、エルヴィラだけの問題ではない。ミーケルだって不興を買う可能性だってあるのだ。
なのに、どうしてエルヴィラひとりを出そうとするのか。
約束の時間に来た馬車に乗り込み、「じゃ、健闘を祈る」と笑顔で手を振られ、エルヴィラはまた溜息を吐いた。
本当に、どうなることやら。
馬車に揺られて着いたのは、町郊外のシェーンフェルト伯爵家別邸だった。そういえば、このあたりに葡萄畑を所有していると言っていたことを思い出す。
都の名だたる貴族の館に比べれば、幾分か質素な邸宅だ。
だが、それでも敷地は広く、庭園の手入れも行き届いている。さすが古くから続く名家だけあると、唸らせるほどに。
門をくぐり、ようやく館の正面に到着した。馬車寄せに着くとすぐに馬車の扉が開かれ……驚いたことに、オットー本人が迎えに出てきているではないか。
「ようこそ、シェーンフェルト家の別邸へ」
「あ、あの、お招きとお出迎え、まことにありがとうございます、閣下」
本来、エルヴィラの身分を考えれば、この館を預かる家令かオットーの執事が出てくれば死ぬほど丁重に出迎えられたと言っていいくらいだろう。
なのに、なぜ本人がわざわざ出て来るんだ。
まさか、オットーは本当に本気でエルヴィラをモノにしようと考えているのか。
もう、どうやって乗り切ろうかとばかり考えながら、エルヴィラは諦め半分に差し出されたオットーの手を取った。
彼はその視線にすぐ気付き、「ん?」と、なぜか上機嫌ににっこりと微笑んでエルヴィラを見返した。
「エルヴィラも、それでいいね?」
「ふぇ?」
いったい何が良いのか。
まるで話を聞いていなかったエルヴィラは、ぽかんと首を傾げてしまう。
「なんだ、オットー様の前だからって緊張してて聞いてなかった? 今日のお礼にと、君を晩餐に招待してくださったんだよ」
「え、えっ?」
「僕は残念ながら仕事があるから、君は僕の名代も兼ねて頼むよ」
慌てるエルヴィラに、ミーケルはとても楽しそうににっこりと笑った。
「あ、私、その、作法とか……粗相をしてしまったら――」
あうあうと焦るエルヴィラに、オットーまでがにっこりと微笑みを向ける。
「大丈夫ですよ。当日は気軽に楽しめるような形式にしましょう。
間違っても、こんな可愛らしいお嬢さんに恥をかかせるようなことにはしませんから、ご安心ください」
「う、え……」
だめだ断れない。
エルヴィラはさらに冷や汗を垂らす。
貴族にここまで言わせて断っては、エルヴィラこそがオットーに恥をかかせたことになってしまう。
「あ、あの、楽しみに、して、おります」
エルヴィラはしおしおと項垂れながら、晩餐なんていったいどうしたものかとぐるぐる考えた。
もちろん、何も浮かばなかった。
* * *
約束の日。
宿でがっちり磨き上げ、勝負用に髪を結われて化粧をされて、いつもよりも幾分か装飾の多い騎士服を着た。
「なんで騎士服なの。君、勝負掛かってるのわかってる?」
「わかってるけど、愛人は、やだ」
冴えない顔色で眉尻を下げて嘆息するエルヴィラに、ミーケルは呆れ顔だ。
「別にオットー本人を引っ掛けるわけじゃなくたって、屋敷には他にも男はいるだろ。伯爵家の使用人なら身元も身分もそれなりだよ」
「それはわかるけど、オットー様があの調子で他の者が寄ってくるだろうか」
「そこは君がうまく頑張るところじゃないの?」
そんなに言うほどうまくいくだろうか。
そもそも、オットーが本気でエルヴィラに愛人になれと命じてきたら、他国へ姿を眩ませでもしなきゃ、逃げ切れないのだ。
シェーンフェルト伯爵家は、“深淵の都”がかつて王国の王都であったころから続く古い血筋の貴族だ。
今でこそ十大貴族には数えられていないが、それに続く権勢を誇っている。その継嗣にやらかしたら、今度こそエルヴィラはおしまいではないか。
さらに言えば、エルヴィラだけの問題ではない。ミーケルだって不興を買う可能性だってあるのだ。
なのに、どうしてエルヴィラひとりを出そうとするのか。
約束の時間に来た馬車に乗り込み、「じゃ、健闘を祈る」と笑顔で手を振られ、エルヴィラはまた溜息を吐いた。
本当に、どうなることやら。
馬車に揺られて着いたのは、町郊外のシェーンフェルト伯爵家別邸だった。そういえば、このあたりに葡萄畑を所有していると言っていたことを思い出す。
都の名だたる貴族の館に比べれば、幾分か質素な邸宅だ。
だが、それでも敷地は広く、庭園の手入れも行き届いている。さすが古くから続く名家だけあると、唸らせるほどに。
門をくぐり、ようやく館の正面に到着した。馬車寄せに着くとすぐに馬車の扉が開かれ……驚いたことに、オットー本人が迎えに出てきているではないか。
「ようこそ、シェーンフェルト家の別邸へ」
「あ、あの、お招きとお出迎え、まことにありがとうございます、閣下」
本来、エルヴィラの身分を考えれば、この館を預かる家令かオットーの執事が出てくれば死ぬほど丁重に出迎えられたと言っていいくらいだろう。
なのに、なぜ本人がわざわざ出て来るんだ。
まさか、オットーは本当に本気でエルヴィラをモノにしようと考えているのか。
もう、どうやって乗り切ろうかとばかり考えながら、エルヴィラは諦め半分に差し出されたオットーの手を取った。
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