クソイケメンな吟遊詩人にはじめてを奪われて無職になったので、全力で追いかけて責任取らせます

ぎんげつ

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古城の町

魔物討伐

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 外門まで戻ると、エルヴィラはアリスの肩をしっかり抱いて告げた。

「ではアリス、わかるだろう? もう、大人に怒られるかもなんて事態じゃない。お前は今すぐ町へ戻って警備に知らせろ。ここにハーピィがいるぞ、と」
「う、うん」
「私はお前の友達を助けてから、ここを下りる」
「で、でも、姉ちゃんは大丈夫?」
「まかせろ。これでも私は騎士だ。戦神の猛き御名と輝ける太陽にかけて、お前の友達をちゃんと助けてみせるさ。
 だから、お前は先に戻ってろ」

 エルヴィラが笑ってとん、と背中を押すと、アリスは少し逡巡してからゆっくり頷き、来た道を下っていった。

 さて、どうしたものかとエルヴィラは考える。
 都で参加したハーピィ討伐部隊には、当然魔術師も司祭もいた。歌からの護りもあったし、空を飛び回る奴らを魔術で引きずり落とすこともできた。
 だが、今はひとりだ。

「詰所に何かあるかな」

 外門のすぐ横にあった警備兵の詰所を覗く。
 中には以前ここに備え付けてあったのだろう、様々なものが乱雑に転がっていた。

「縄はまだそれほど腐ってないかな。盾は……だめだ、皮帯が黴びてぼろぼろだ」

 やっぱり胴鎧をつけてくるべきだったと考えながら、床に散らばったものや壁に掛けられたままだっだものを確認する。
 何かないかとあれこれ探したものの、結局、まだ使えそうなものは縄くらいか。
 最後に、耳に布を丸めて詰め込み、上から布を巻きつけて念入りに塞ぐ。ハーピィの声を遮る代わりに、ここから先は音を察知することができない。
 慎重に、城壁に沿って身を隠しながら進まなければ。

 進みながらちらっとだけ、ここでまんいちハーピィにやられてしまったらミーケルはどう思うかな、と考えた。



 ようやく内門が見えて、さすがに音が聞こえないのは怖いものだなと考える。
 どこかにアリスの友達だという子供の姿がないかと目を凝らして、城側の城壁に貼り付くようにしながら、ゆっくりと進んでいく。

 あの角を曲がれば正面に内門がある、という場所までようやく辿り着いて、そっと影から覗いてみると……。

「いた」

 門の真下に少年がぼんやり座っているのが見えた。おまけに、その後ろにちらりと見える、城の中庭の木の上のハーピィも。

「子供を見張ってるのか? それにしても――」

 でかい。

 木の上、子供をしっかりと見下ろせる場所に居座るハーピィは、エルヴィラの知るものに比べてひと回り以上大きかった。
 おまけに、少し観察しただけで、誰かが子供を助けに現れたら襲いかかるつもりなんだろうということはすぐに伺えた。

 エルヴィラは必死に考える。
 子供を抱えたままあれと戦うのは無理だ。けれど、操られた子供がどう動くかわからない。
 せめてミーケルがここにいれば、やつに子供を任せてハーピィに集中できるのに。
 仕方ない、あの場所からどうにか子供を浚って、暴れるようなら気絶させて――

 その前に、と縄の端に適当な石を拾って結び付けた。
 即席の“絡み縄ボーラ”だ。
 端に錘を付けた適当な長さの縄を数本結び合わせたもので、うまく獲物に投げつけると絡み付いて動きを封じてくれるというものだ。
 これがうまく使えれば戦いも楽になるのだけれど。

 それからも、影に潜んだまま、じっと周囲を観察して――エルヴィラはいきなり陰から飛び出し、走った。
 ハーピィがうれしそうににやりと笑い、ばさりと翼を羽ばたかせた。その巨体にも関わらずふわりと木から舞い上がり、エルヴィラ目掛けて滑空する。

 ぼんやりと座り込んだままの子供を拾い上げたエルヴィラは、自分の身体で覆うように抱え込んで姿勢を低くする。
 空から迫るハーピィの爪は鋭く尖っていた。
 あれに引っ掛けられたら、ただでは済まないだろう。
 子供を庇いつつ身を投げ出し、ごろごろと転がり、どうにか爪を避けて立ち上がると、すぐに物陰に隠れた。

 ハーピィは再び高く舞い上がり、ぐるぐると空を回っている。陰から出たとたん、また滑空して爪で引っ掻くつもりだろう。
 内門までは十五……二十歩くらいだろうか。内門を出た後は、外門まで上を遮るものなんてほとんどない、うねうねと曲がりくねる道を戻らなければならない。

 子供を置いて、あれを先に倒したほうがよいだろうか。

 抱えたままだった子供を降ろそうとして、ふと、おかしいことに気づいた。
 焦点の合わない目でへらへらと笑ったまま、エルヴィラから離れようとしない。

「待て、やめろ」

 しがみついた手を伸ばし、エルヴィラの頭に巻いた布を毟り取ろうとする。
 さすがにこんな至近距離でハーピィの歌をまともに聞いてしまっては、エルヴィラだって無事で済むとは思えなかった。

 ハーピィを窺いつつ揉み合ううちに、とうとう子供の手が布に掛かり、力任せに剥ぎ取られてしまう。
 とたんにハーピィの歌声が耳から流れ込み、意識を強引に塗り潰そうとして――

「“英雄は告げる。
 正義は我らのもの。
 正しきは我ら。ならば神々の鉄槌は彼らの上に”」

 ハーピィの声を押しのけて、歌声がやってきた。

「“我が名と誉れにかけて、不埒なる神に仕えしものに裁きを下さん”」
「ミケ……!」
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