クソイケメンな吟遊詩人にはじめてを奪われて無職になったので、全力で追いかけて責任取らせます

ぎんげつ

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古城の町

かかったな、鳥頭!

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 内門の下でリュートを掻き鳴らし、声を張り上げて歌っているのはミーケルだった。
 あいつ、熱はどうしたんだと考えながら、同時に助かったとも思う。

 詩人の音楽はハーピィの歌声の力を打ち消してくれる。
 これで憂い無くあれと戦える。

 子供の動きも止まった。ぼんやりとした表情になり、「え?」と小さく呟いた。
 ハーピィの呪縛が解けたのだ。
 エルヴィラはもう一度子供を抱え、内門までいっきに駆け抜けた。ハーピィは虚を突かれたのか、上をぐるぐる回るだけだ。

「お前、熱はどうした」
「見てわかんない? 今にも倒れそうだよ。というか、君、こんなところでいったい何してるんだよ」

 リュートで音楽を奏でながら、ミーケルは非常に腹立たしそうな顔でエルヴィラをじろりと睨んだ。
 確かに、顔はまだ赤いし、ぜいぜいと荒く浅い呼吸で苦しそうだ。

「宿で寝てればよかったのに」
「何だ、君、死にたかったの? 僕がいなきゃ、あれの歌に対抗できないくせに」
「耳栓してたぞ」
「しっかり外されておいて、何言ってるの」

 子供がぽかんとしたまま、ふたりを見比べるように視線を動かしている。
 エルヴィラは、はあ、と息を吐いた。

「で、ミケはこのまま歌えるのか」
「僕は一流プロだよ。このくらいで歌えなくなるはずないだろう?」

 エルヴィラは呆れた顔でミーケルを見返した。

「なら、端に隠れて歌ってろ。庇ってる余裕なんてないからな」
「それでも護衛騎士? 一流プロなら自分と対象を守ってなんぼじゃないの?」
「私の指示に従えない奴は護衛対象じゃない」
「しかたないなあ」

 ミーケルはぶちぶちと言っている間もリュートを奏でる手を休めなかった。
 子供に「おいで」と声をかけると、ハーピィの目を逃れるように内門の見張り部屋の扉を蹴り開けて、中へと入る。

「ここで一緒に脳筋の仕事っぷりでも観察してようか。あと、僕から離れないでね」

 子供は呆気にとられたまま、こくんと頷いた。



「ふはははは! ハーピィめ!」

 剣を片手にびしりとハーピィを指差し、エルヴィラは高らかに笑う。

「戦いと勝利の神の猛き御名と天空に輝ける太陽にかけて、このエルヴィラ・カーリスの剣より生きて逃れると思うなよ!
 貴様の歌がこれ以降ひとびとの耳に届くことはない!」

 さっきとは打って変わって、エネルギーに満ち溢れるエルヴィラの声が、あたりにビリビリと響き渡る。

「に、兄ちゃん……」
「今日も絶好調みたいだから、あれなら大丈夫だよ」

 なおも高笑いを続けるエルヴィラの姿に、少年は思わず傍らのミーケルへと目をやった。ミーケルは少年ににっこりと笑う。

 そういうミーケルだって、顔は赤いし目は潤んで焦点が合ってないし、息もぜいぜいと荒くて、今にも倒れそうだ。
 けれど、少年が大丈夫かと声を掛けようと口を開きかけたところで唐突に、ミーケルはエルヴィラの声に負けないほど高らかにリュートを掻き鳴らす。

 いつの間にか、荒かったミーケルの呼吸が静かになっていた。

 ふっと笑ったミーケルは、すぅと大きく息を吸い込んだ。
 それから、奏でるリュートの音色に合わせて、ゆったりと流れる川の水を思わせるような、滔々とした声で歌い始める。
 とても病人とは思えないほど、伸びやかな声だ。

「“豊かなる水を湛えし大河グローシャー。大いなる流れの傍らそびえ立ついわおに、魔なるもの巣食う”」

 ハーピィが滑空を始める。
 翼を身体に添わせるように縮め、速度を乗せ、エルヴィラ目掛けて空を滑るように落ちてくる。
 エルヴィラは不敵な笑みを浮かべると、低く構えた剣で迎え撃つ。

「“川辺の堅牢なる岩壁のいただきにあるは美しき乙女の姿。輝く金の髪を風にそよがせ、妙なる調べを歌う”」

 ガツ、と鈍い音がして爪と剣が噛み合う。
 少年の目には、その一瞬に散った火花が見えた。

「“『水辺の魔女ローレライ』と呼ばれし乙女の歌声を聞く男、たちまち魅入られ、櫂漕ぐ手を止める”」

 エルヴィラはチッと舌打ちをすると、飛び去るハーピィ目掛けて腰の即席絡み綱ボーラを投げつける。

 少しでいい、絡まって足留めをしてくれれば――

 しかしその望みは虚しく、ハーピィはまた空へと舞い上がる。
 やはり即席の間に合わせでは難しいということか。
 エルヴィラはもう一度舌打ちをする。
 ならば、やつが降下してくるタイミングを見計らって少しずつやるしかない。

「“いわおより飛び立ち空を舞う姿、天の御使いのごとく美しく、その白き手で招かれ名を呼ばれし男、乙女へと手を伸ばす”」

 こちらを見たハーピィが、再びゲタゲタと笑い声を上げた。

「ふっ、天空高く逃げ出さなくては笑うこともできんと見える。おおかたそうして逃げ回り続けたからこそ、そこまででかく育つことができたということか」

 くっくっと笑いながらハーピィを見上げ、エルヴィラは再び剣を構えた。
 言葉がわかるのかどうか定かではないが、エルヴィラの嘲りは見て取れたのだろう。ハーピィは美しい顔を歪ませて、再び降下する構えを取った。

「“しかし男の船、川底に潜みたる魔物の手によりたちまち水底へと引きずり込まれ”」

 エルヴィラはなおも笑いながら、向かいくるハーピィに、剣を向けるのではなく絡み縄を投げつけた。
「だから貴様は馬鹿なのだ、鳥頭め!」
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