クソイケメンな吟遊詩人にはじめてを奪われて無職になったので、全力で追いかけて責任取らせます

ぎんげつ

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岩小人の町

猛将司祭の孫娘

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 一度だけ、トゥーロの作った剣を手に取らせてもらったことがある。

 バランスといい重さといい握りといい、とても素晴らしい逸品だった。
 手に吸い付くように収まり、試しにと斬った藁束はさほど力を込めていたわけでもないのにすっぱりと真っ二つだ。刃の部分にも狂いひとつなく……ああ、いいなあ。
 エルヴィラはうっとりと吐息を漏らす。

 彼の作る鎧も素晴らしかった。
 体格に合わせるものだから、さすがに試着は無理だった。
 けれど、手に持っただけでもその重さとバランスの良さが伺えて……あれも溜息ものだったなとうっとりする。

「一応言っておくけど、作ってもらえるかどうかは知らないよ。それは君次第、トゥーロ次第だからね」
「あ、ああ、わかってる。でも、今は駄目だとしても将来があるじゃないか」

 トゥーロほどの職人となると、誰かの紹介でもなければ会ってすらもらえないものなのだ。ここで顔繋ぎができるだけでも僥倖だ。

「前から思ってたけど、君って結構ポジティブだよね」
「そうか?」
「無駄に前向きっていうか」

 エルヴィラはそうだろうかと首を傾げる。単に思ったところを述べてるだけなのに、と。
 ミーケルはやっぱり呆れていて、「ま、そこが君の良いとこなんじゃない?」とビールを飲んだ。



 翌日、ミーケルと一緒にさっそくトゥーロの工房を訪ねた。

 岩小人の例に漏れず、彼の工房は鉱山の坑道を整えた岩山の中である。
 見上げるほどに大きな岩山の腹に開いた入り口と、その両脇の見事な彫刻を、エルヴィラはただただぽかんと見上げる。

「この山の鉱脈を最初に見つけた岩小人の氏族長と、鉱山を守って小鬼ゴブリンたちと戦い勝利した、ここの氏族の英雄の像だよ」

 彫刻は、入り口を護るふたりの岩小人の像だった。それぞれが戦鎚と戦斧を構え、害為すものは決して通さないという強い目でじっと山麓を見据えている。
 まるで、岩小人の姿を取った戦いと勝利の神の姿のようだ。

 岩山の中を貫く大きな通路も見事なものだった。
 もしかしたら、都の目抜き通りよりも大きいかもしれない。天井も高く、例えば鷲獅子に乗って飛ぶことさえできそうだ。

 通路の両脇にはさまざまな建物……というより、壁をくり抜いた居住区や商店の入り口や窓があり、やはり見事な彫刻で飾られている。
 植物で飾る代わりに石に彫られた蔓模様や色石を嵌め込んだ花が壁を飾り、ここが暗い岩の中だと思えないほどに明るく華やかにしている。

「妖精族の作るものが繊細で優美なら、岩小人の作るものは緻密で豪放だと言われる。でも、これを見たらわかるように、岩小人の作るものには繊細さと優美さもあるんだよ」
「――すごいな。これ、ここまで作りこむのに何年かかったんだろう」
「さあ。百年や二百年じゃ済まないだろうね。
 幸い、この町は運よく“大災害”の影響をあまり受けなかったらしい。魔法嵐も、起きてもごくごく小さいものばかりなんだ。
 だから、これほどのものが残せたと言われてる」
「へえ……」

 話しながら、ミーケルはどんどん奥へと進む。人混みのざわめきはだんだんと減って、カンカンと金属を打つ音に変わっていく。

「このあたりから、鍛冶職人の区画なんだ」

 外へ逃しきれない炉の熱がこもるせいか、幾分か暑さも増している。ガチャガチャとうるさい音を立てながら手押し車で鉱石を運ぶものや、燃料の炭を運ぶものも行き交い、意外に人通りも多い。
 エルヴィラは、物珍しげにあちこち見回した。

「ミケ、あの、看板はなんだ?」
「あれは、工房主の紋章だよ。あれを見て、誰の工房かを判断するんだ」
「へえ」

 外の町で、店が出している看板のようなものなのかと考える。
 槌や炉床や武器などを組み合わせた紋章の形を模って板をくり抜き、さらに浮き彫りにして彩色した看板は、少しくらい暗くてもはっきり形が見て取れる。
 これなら文字のように見間違えることもないだろう。

「着いた。ここだよ」

 掲げられた看板を見上げて、ミーケルが立ち止まった。
 金床に槌と剣を交差させた紋章だった。

「ここが」

 エルヴィラはごくりと唾を飲み込む。いよいよかと思うと、なんだか心臓がドキドキしてきた。

「なに緊張してるのさ。入るよ」

 ミーケルにぱんと背中を叩かれて、エルヴィラは「ああ」と頷く。
 そんなエルヴィラをミーケルはひとしきり笑ってから、「トゥーロ、久しぶり」と非常に気安く声を掛けて中へと入った。

「おう、いきなりだな歌姫の子。いつここに来たんだ」

 ミーケルの声に応えて、工房の奥から声が上がった。鍛冶場の騒音にも負けないくらい太く響く声だ。
 その声に続いてすぐにずんぐりとした、身長はミーケルの三分の二ほどなのに重さはミーケル以上にありそうな、厳つい岩小人が姿を表す。

「昨日着いたんだよ。もっと早く来るつもりだったんだけど、足止め食っちゃって。
 はい、これお土産。“葡萄の町”の蒸留酒ブランデー。もう二十年くらい寝かせたってやつだよ」
「ほほう? それは良いものだな」

 岩小人トゥーロは酒瓶を受け取ると、うれしそうににやっと笑った。
 すぐに後ろに立つエルヴィラにも気づいて、じろじろと値踏みするように見やる。

「で、そいつはなんだ。見たところ騎士か戦士って格好だが」
「あ、あ、あ、あのっ! わ、私はエルヴィラ・カーリス。この吟遊詩人ミーケルの臨時護衛騎士だ!」

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