クソイケメンな吟遊詩人にはじめてを奪われて無職になったので、全力で追いかけて責任取らせます

ぎんげつ

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岩小人の町

呆れた脳筋だ

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 その、トゥーロ親方マイスター・トゥーロ、あなたの噂はかねがね耳にしている。それに、あなたの作ったものを手にしたことも。あなたの作るものは、本当に素晴らしいものばかりだ。
 だから、その――素晴らしい職人であるあなたにお会いできて、とても光栄だ!」

 ガチガチに固まり上擦り裏返った声でひと息に述べて、エルヴィラはぺこりとお辞儀をした。
 トゥーロの目が丸くなる。

「ミーケル、お前さん、面白いのを連れてるな」
「面白いかどうかはともかく、トゥーロ、ひとつ付け加えておくと、彼女はあの“猛将司祭”ブライアンの孫娘だよ」
「なんだって? なぜそれを先に言わん!」

 緊張のあまり顔まで強張らせながらのエルヴィラの言葉に、ミーケルが笑いながら付け足した。
 トゥーロは思わず頭にガンと響くほどの大声を上げて、どかどかとエルヴィラの前へと進み出る。

「お嬢さん、あんたがブライアンの孫娘ってのは本当かね? 顔をよく見せてくれんか」
「あ、ああ。戦神教会のブライアン・カーリス司祭なら、確かに私の祖父だが……まさか、親方マイスターは祖父を知っているのか?」

 じろじろと、まるで出来上がった武具を確かめるように、トゥーロは上から下までエルヴィラを眺めまわす。

「ふむ……その目元といい、真っ青な色といい、確かにやつに似ておるな。あれはよい戦士であった。司祭にしておくには惜しいほどにな。
 ふむふむ、そうか、ブライアンの孫娘か」

 ひとり納得したのか、トゥーロは噛みしめるように頷く。エルヴィラは戸惑うばかりだ。かのトゥーロ親方マイスター・トゥーロが祖父の知己だなんて、聞いたことがなかった。

「あ、あの……親方」
「で、ここへは何を求めに来た? お前も戦うものなんだろう」
「え、え? まさか、作っていただけるのですか!?」

 おう、と鷹揚に頷くトゥーロに、エルヴィラはうれしさあまって今にも倒れてしまいそうだった。
 おたおたと財布を取り出して、手近なテーブルの上にざらっと全部をぶちまける。金貨と、未だ換金してなかった宝飾品の全部をだ。

「わ、私の手持ちはこれで全部なんだ。だから、これで作れる剣と、できれば鎧を……」
「ふむ……どれ」

 トゥーロは山になったエルヴィラの全財産を確認すると「十分だ」と笑った。

「さっそく採寸しないといかんな。今つけてる防具は、それで全部か?」
「旅の間は、この上に胴鎧と、脚にも腿当てを。あとは兜だ」
「ふむ。剣はそれか。少し見せてみろ」

 エルヴィラは腰から剣を抜き、トゥーロに渡す。

「この傷は?」
「それは、ハーピィとやりあった時に、そいつの爪で……」

 それまで黙っていたミーケルが、くすりと笑った。

「“ローレライ”だよ、トゥーロ。ただのハーピィじゃなくて、“ローレライ”とひとりでやりあって、勝ったんだ」
「何?」
「ひ、ひとりじゃなかったぞ。お前だっていたじゃないか」
「僕は熱があったから、歌ってるだけだったよ。しかも、“ローレライ”の“魅了の歌”を無効化するだけで手一杯だった」
「それでも、お前の歌がなきゃ、私だって支配されるところだった」
「なるほど、あの“ローレライ”か」

 しみじみと剣を眺めて、トゥーロはにやりと笑う。

「さすがブライアンの孫娘か。こりゃ、しっかり作らんといかんてことだな」
「えっ?」
「よし、エルヴィラ、こっちにおいで。お前さんにちょうどいい重さを測ろうか」

 それから、トゥーロに引き回されるようにして身体中を採寸され、重たい小石を詰めた袋をいくつも担いで力の強さを測られ……。
 さらには模擬戦までやって、身体の使い方の癖までを確認された。

 それは、フルオーダーの武具をあつらえる時には必ずやるような、とても本格的な計量だった。トゥーロの出来合いの武具を手に入れられればと考えていたエルヴィラは、それだけで期待してしまう。

「そうだな、出来上がるまでひと月はかかるだろう。途中で何度か再採寸も必要になる。その間、お前さんはこの町に留まっておいてくれ」
「わかった」
「あとは、お前さんの紋を入れることになるが」
「私の、紋」

 いよいよ自分も、自身の紋を入れた武具を手にできるのか。紋入りの武具なんて、まさに一人前の騎士であることの証明ではないか。
 エルヴィラはごくりと喉を鳴らす。

「紋を入れるのは最後の最後のだからな、それまでに決めておいてくれよ」
「あ、ああ、わかった」



 トゥーロの工房を出てからずっと、エルヴィラは夢の中をふわふわと歩いているようだ。まだ信じられない。あのトゥーロに武具を鍛えて貰えるなんて。

「よかったじゃないか。
 あんなに乗り気なトゥーロなんて滅多に見ないよ。きっといいものを作ってくれるんじゃない?」
「すごいな。夢みたいだ」
「トゥーロは職人気質だからね。どんなに金貨を積んでも気に入らない相手には絶対作らない。だから、君はトゥーロに気に入られたってことだよ」
「そうなのかな。どうして気に入ってもらえたんだろう」

 不思議そうに首を傾げるエルヴィラに、ミーケルはくすりと笑う。

「そりゃ、君が“猛将司祭”の孫娘に違わない騎士だってわかったからだろうね」
「え?」
「普通の騎士や戦士は、魔法の助けもないのにひとりで“ローレライ”に向かってくなんてことしないんだよ。おまけにそれで勝つなんてね」
「だって、ミケが来たじゃないか」
「僕が来るなんて思ってなかっただろう? それに、子供もすぐどうにかなるわけじゃなかったのに」
「え、あ……うん、たしかに、そうだった、かも?」

 今気がついたように、エルヴィラはぽかんとミーケルを見上げた。

「呆れた。まさかそんなことも考えてなかった?」
「子供を助けなきゃってばっかり考えてたし……それにミケが間に合ってくれたじゃないか。結局問題はなかったからいいんだ」
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