クソイケメンな吟遊詩人にはじめてを奪われて無職になったので、全力で追いかけて責任取らせます

ぎんげつ

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水路の町

もっと知りたい

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「――ミケは、子供のころからリュートを弾いてるから、そんなに上手なのか?」

 ふと思いついたことを訊いてみると、ミーケルは少し考えるようにエルヴィラを見てから、「まあ、そんなとこ」と頷いた。

「僕の家は、皆何かしら楽器をやるからね」
「へえ。優雅な家なんだな」
「そうでもないよ」

 ふっと笑うミーケルに、エルヴィラは首を小さく傾げた。

「でも、私の家じゃ楽器を習おうなんて発想も出なかった」
「まあ、普通は貴族の子女でもなければ、そんなことしないしね」

 肩を竦めるミーケルに、エルヴィラは目を瞠る。

「じゃあ、まさか、ミケは貴族なのか?」
「違うよ」

 笑いながらぽんぽんと頭を叩かれて、なんとなくはぐらかされた気分になった。

 ずっと、ミーケルの所作や物腰は貴族みたいにとても綺麗で優雅だと思っていた。都で彼と初めて顔を合わせた場で、侯爵家の姫様だって感心していたほどに。
 ただの芸人じゃこうはいかない。
 たまに乱暴で下品な口を利いたりもするけれど、基本的には上品な人間なんじゃないだろうか。

 もうちょっとだけミーケルのことが知りたい。
 考えてみたら、ミーケルはエルヴィラの家や祖父のことを知ってるのに、エルヴィラはミーケル本人のことすらよく知らないのだ。

「ずるいな」

 エルヴィラは納得がいかないとひとりごちる。

「何が?」
「何でもない。ミケばっかりがいろんなことを知っててずるいって思っただけだ」
「あたりまえだよ。僕は吟遊詩人なんだからね」
「それでもなんだかずるい」

 むう、と剥れるエルヴィラを、ミーケルはくすりと笑って肩を抱く。

「ごまかそうとしてる」
「何をごまかすって?」
「何かだ」
「話にならないな」

 くすくす笑いながら、ミーケルは「ほら、宿に戻ろう」と背中を押した。
 月の光に浮かび上がる横顔をちらりと見上げて、エルヴィラはミーケルをもっと知りたいと思った。



 翌朝、ぐっとしがみ付かれて目が覚めた。
 見ると、エルヴィラがミーケルのお腹のあたりで丸まるような格好で、匂いでも嗅いでるかのようにしっかりとしがみついていた。

 “岩小人の町”からは部屋もベッドも分けず、共寝するようになっていた。これも、そうなってからはいつものことだ。

 は、と息を吐き軽く伸びをして、寝たまま変な顔で笑うエルヴィラを眺めながら、ミーケルは今日は何をしようかと考える。
 特に仕事も入っていないし、一日のんびりと過ごせるはずだ。久しぶりにリュートの本格的な手入れをするのもいいかもしれない。

 半分寝ぼけた頭でそんなことを考えていると、腹に頭を押し付けられる感覚がして――と、思ったとたんに、ごすっという衝撃が鳩尾に入った。

「く……馬鹿力――っ」

 げほっと小さく咳込んでしまう。
 こういう時だけ騎士の素質を現すのはなんでなんだろうか。

 日々の手入れをするようになって、確かにエルヴィラの見た目は中の上くらいに上がった。訓練で所作も若干丁寧にはなった。
 だが他は相変わらずだ。面倒臭いところも変わってない。

 ぐぐ、とさらに頭を押し付けられる感触がして、少し危機感を感じる。腕はどうせ馬鹿力で解けないから、せめて頭が腹に当たらないようにと上にずらす。
 ついでに、どうせこのまま起きられないのだから寝直してしまえと目を瞑る。



「ミケ! 町が水浸しだ!」

 いつの間にか起きていたエルヴィラの声で目が覚めた。少しうつらうつらするだけのつもりが、本格的に寝てしまっていたらしい。
 ふああと欠伸をひとつして、ミーケルはベッドの上に起き上がる。

「――ああそうか、そろそろ大潮だっけね」

 そういえば、昨晩は月がふたつともほぼ丸かったなと、ミーケルは呟いた。

「大潮……だと? 大潮で、町がこんなふうになるのか?」

 昨日は水路の中だけだった水が、今は建物の入り口までひたひたと迫っている。
 この様子では、一階まで水に浸かっているのではないか。

「この町はもともと河口の中洲だから、水面とあまり変わらない高さに地面があるんだよ。だから、大潮の満潮で水面が上がると低いところは水没するんだってさ。
 今日は月がふたつとも満ちてるし、かなり水位が上がってるんじゃないかな」

 ベッドを下りたミーケルが、エルヴィラの隣に来て外を覗き込む。

「こりゃ今日は外出無理だね。部屋でおとなしくしていよう」

 じわじわと、まだまだ水位が上がりつつあるのを見て、エルヴィラも頷いた。
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