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水路の町
勝てば官軍
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「……いいじゃないか、勝ったんだから」
怒鳴られて、エルヴィラはやや口を尖らせてぶつぶつと言い返す。
「それに、手足が飛んだり痛くて動けなくなったりするのは死ぬときだし、たぶんその時は私もやり切ったなって思ってるだろうから大丈夫だよ」
「はあ?」
エルヴィラのあまりの言い草に、ミーケルはついカッとなってしまう。
いったい何が「やり切った」だ。自己満足で自分だけは死ぬけど気にするなとでも言うつもりなのか。
「何が大丈夫なんだよ! 蘇生の神術なんて伝手もお金もないってのに、死んだら終わりだってわかってるの?」
「死んだら終わりって当たり前じゃないか。
だいたい、最後まで立ってて勝ってればすべて良しなんだし、今日はちゃんと勝ったし帰って来れたんだから文句言うなよ。
それに、クラーケンと戦ってた竜がなかなかやるなって私を褒めてくれたんだぞ。
すごいだろう? 竜に褒められたんだぞ?」
頭痛と眩暈がして、ミーケルは頭を抱える。
いったいどんな育ち方をしたら、こんな女騎士ができあがるんだ。猛将の孫娘だからなのか。意味がわからない。
「――脳筋理論も大概にしなよ。
君さ、もしかして、人じゃなくて、竜かなんかに生まれたほうがよかったんじゃないか?」
「いや、竜に生まれるのはつまらないな。どうせなら竜に乗りたいし、竜より竜の乗り手のほうがかっこいいじゃないか」
鼻を膨らませるエルヴィラに、もうかける言葉が見つからなかった。
この調子だと、そのうち本当に竜を力づくで従えて、乗騎にでもしてしまうんじゃないだろうか。
「それより、ミケ、約束!」
「ん?」
「約束だ。戦いが終わったら、続きをするって」
「ああ……うん、わかったよ。もうなんでもいいや。今日は君の気がすむまで、いちゃいちゃでもなんでもしてあげるよ」
「やった!」
満面の笑顔で両手をあげて万歳をするエルヴィラを抱き寄せて、ミーケルはキスをする。
「潮臭いし鉄臭いし魚臭いし、まずはちゃんと風呂に入るところからだね」
「ああ!」
いったいなんで、こんな馬鹿といつまでも一緒にいるんだろうか。
ミーケルは、自分のことまでわからなくなってきた。
宿へ入る前に、魔術で頭から水を浴びせられ、大雑把に汚れを流された。
「ミケは、いろんな魔術が使えるんだな」
「だから、詩人は器用じゃないとやってられないって、前に言っただろう?」
「他に、どんなことができるんだ?」
「小魔術程度ならひと通り」
「すごいな」
感心するエルヴィラに、ミーケルは、は、と溜息を吐く。
「小魔術なんて、たいしたことはできないけどね……ほら、濡れてるんだから早く入って着替えて」
ミーケルに追い立てられ、エルヴィラは素直に頷いて中へ入る。
「鎧の塩もちゃんと落とさないと傷むよ。たらい出しておいで。乾かすくらいならやってあげるから、さっさと水で洗うんだ」
「わかった」
着替えて部屋の片隅にあった大きなたらいを出すと、ミーケルが魔術で水を満たす。エルヴィラは「便利でいいな!」と笑って、丁寧に鎧を洗い始めた。
「――身体」
「ん? なんだ?」
鎧を洗うエルヴィラを眺めているうちに、ミーケルはその動きが時折ぎこちなくなることに気づいた。
思わず眉を顰めてしまうくらいに。
「ほんとうに、もう痛むところはないの?」
「んーと……大丈夫だと思う」
首を傾げて自分の身体を眺めるエルヴィラに、ミーケルはまた呆れて溜息を吐く。
「君さ、身体が資本の仕事してるんだから、もうちょっと気を使いなよ。どうしてそう無頓着でいられるんだ」
「だって、動けるうちは問題ないって、爺様も言ってたし」
「司祭と違って君は自分で治せないんだから、同列で考えるなよ。今動けたって後から影響がでるってことも多いのに、何を言ってるんだ」
「そうなのかな」
憮然とした顔で「大丈夫なのにな」と溢すエルヴィラに、「まったくもう」と小回復の魔法を使う。
「あれ、なんか身体がぎしぎしいわなくなった」
「やっぱり全快してなかったのか」
「ぎしぎしいうくらい、鍛錬の後とか当たり前だし。一晩寝ればだいたい治るから、気にしたことなかった」
「あのね……」
鍛錬と実戦を同列視してるのかと、あまりの適当さにミーケルは呆然とする。
しかも肋骨を何本か持って行かれるほどの怪我をしたところだというのに。
思い返せば、“ローレライ”の時だって考えなしに突っ込んでたのだ。
このまま放っておいたら近いうちに致命的なことになって、ほんとうに死んでしまうんじゃないだろうか。
「……調べてあげる」
「え?」
「君の“大丈夫”があてにならないのは、よくわかった。だから僕がちゃんとチェックしてやるよ」
「え、え?」
いきなり肩に担がれ風呂場に連れて行かれて、エルヴィラはばたばたと慌てた。
そんなに怒られるようなことなのか。
怒鳴られて、エルヴィラはやや口を尖らせてぶつぶつと言い返す。
「それに、手足が飛んだり痛くて動けなくなったりするのは死ぬときだし、たぶんその時は私もやり切ったなって思ってるだろうから大丈夫だよ」
「はあ?」
エルヴィラのあまりの言い草に、ミーケルはついカッとなってしまう。
いったい何が「やり切った」だ。自己満足で自分だけは死ぬけど気にするなとでも言うつもりなのか。
「何が大丈夫なんだよ! 蘇生の神術なんて伝手もお金もないってのに、死んだら終わりだってわかってるの?」
「死んだら終わりって当たり前じゃないか。
だいたい、最後まで立ってて勝ってればすべて良しなんだし、今日はちゃんと勝ったし帰って来れたんだから文句言うなよ。
それに、クラーケンと戦ってた竜がなかなかやるなって私を褒めてくれたんだぞ。
すごいだろう? 竜に褒められたんだぞ?」
頭痛と眩暈がして、ミーケルは頭を抱える。
いったいどんな育ち方をしたら、こんな女騎士ができあがるんだ。猛将の孫娘だからなのか。意味がわからない。
「――脳筋理論も大概にしなよ。
君さ、もしかして、人じゃなくて、竜かなんかに生まれたほうがよかったんじゃないか?」
「いや、竜に生まれるのはつまらないな。どうせなら竜に乗りたいし、竜より竜の乗り手のほうがかっこいいじゃないか」
鼻を膨らませるエルヴィラに、もうかける言葉が見つからなかった。
この調子だと、そのうち本当に竜を力づくで従えて、乗騎にでもしてしまうんじゃないだろうか。
「それより、ミケ、約束!」
「ん?」
「約束だ。戦いが終わったら、続きをするって」
「ああ……うん、わかったよ。もうなんでもいいや。今日は君の気がすむまで、いちゃいちゃでもなんでもしてあげるよ」
「やった!」
満面の笑顔で両手をあげて万歳をするエルヴィラを抱き寄せて、ミーケルはキスをする。
「潮臭いし鉄臭いし魚臭いし、まずはちゃんと風呂に入るところからだね」
「ああ!」
いったいなんで、こんな馬鹿といつまでも一緒にいるんだろうか。
ミーケルは、自分のことまでわからなくなってきた。
宿へ入る前に、魔術で頭から水を浴びせられ、大雑把に汚れを流された。
「ミケは、いろんな魔術が使えるんだな」
「だから、詩人は器用じゃないとやってられないって、前に言っただろう?」
「他に、どんなことができるんだ?」
「小魔術程度ならひと通り」
「すごいな」
感心するエルヴィラに、ミーケルは、は、と溜息を吐く。
「小魔術なんて、たいしたことはできないけどね……ほら、濡れてるんだから早く入って着替えて」
ミーケルに追い立てられ、エルヴィラは素直に頷いて中へ入る。
「鎧の塩もちゃんと落とさないと傷むよ。たらい出しておいで。乾かすくらいならやってあげるから、さっさと水で洗うんだ」
「わかった」
着替えて部屋の片隅にあった大きなたらいを出すと、ミーケルが魔術で水を満たす。エルヴィラは「便利でいいな!」と笑って、丁寧に鎧を洗い始めた。
「――身体」
「ん? なんだ?」
鎧を洗うエルヴィラを眺めているうちに、ミーケルはその動きが時折ぎこちなくなることに気づいた。
思わず眉を顰めてしまうくらいに。
「ほんとうに、もう痛むところはないの?」
「んーと……大丈夫だと思う」
首を傾げて自分の身体を眺めるエルヴィラに、ミーケルはまた呆れて溜息を吐く。
「君さ、身体が資本の仕事してるんだから、もうちょっと気を使いなよ。どうしてそう無頓着でいられるんだ」
「だって、動けるうちは問題ないって、爺様も言ってたし」
「司祭と違って君は自分で治せないんだから、同列で考えるなよ。今動けたって後から影響がでるってことも多いのに、何を言ってるんだ」
「そうなのかな」
憮然とした顔で「大丈夫なのにな」と溢すエルヴィラに、「まったくもう」と小回復の魔法を使う。
「あれ、なんか身体がぎしぎしいわなくなった」
「やっぱり全快してなかったのか」
「ぎしぎしいうくらい、鍛錬の後とか当たり前だし。一晩寝ればだいたい治るから、気にしたことなかった」
「あのね……」
鍛錬と実戦を同列視してるのかと、あまりの適当さにミーケルは呆然とする。
しかも肋骨を何本か持って行かれるほどの怪我をしたところだというのに。
思い返せば、“ローレライ”の時だって考えなしに突っ込んでたのだ。
このまま放っておいたら近いうちに致命的なことになって、ほんとうに死んでしまうんじゃないだろうか。
「……調べてあげる」
「え?」
「君の“大丈夫”があてにならないのは、よくわかった。だから僕がちゃんとチェックしてやるよ」
「え、え?」
いきなり肩に担がれ風呂場に連れて行かれて、エルヴィラはばたばたと慌てた。
そんなに怒られるようなことなのか。
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