クソイケメンな吟遊詩人にはじめてを奪われて無職になったので、全力で追いかけて責任取らせます

ぎんげつ

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水路の町

古の約定

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 ミーケルは注意深くふたりを観察する。エルヴィラはよくわかってないようだが、さすがにアライトは“古の約定”のことを知っているようだ。
 古い古い時代、血の気の多い竜たちの殺し合いを防ぐ意味もあって作られた約定である。うまく盾に取れば、エルヴィラに有利な条件にできるはずだ。

「ひとつめ。武器はおのおのふたつまでとする。
 エルヴィラは長剣と短剣、アライトは牙と爪を使用する。
 戦いの場はここで、地上とする。
 魔法の使用は不可とする」

 ミーケルはアライトをそっと窺い、彼が不満を示さないことにほっとする。

 竜はその全身に加え、吐息ブレスすらも武器とする。
 空を飛び陸を走るだけでなく、水の中をも自在に泳ぎ回り、どんな地形すらも味方につける。さらに言えば、年経た竜は魔法すら使いこなしてしまうのだ。力だけなら地上最強と言ってもいい生き物である。
 だから“竜殺しドラゴンスレイヤー”と呼ばれる者が英雄として持て囃されるのだ。

 だが、ここで武器と戦場を限定できれば、尾や翼による一撃や吐息ブレス、そして空からの突撃を警戒する必要はなくなる。エルヴィラの勝率は上がる。

「ふたつめ。勝負はどちらかが負けを認めるか、三度地に臥すまでとする。
 みっつめ。敗者は勝者の命に従うこととする」

 アライトとエルヴィラが互いに睨み合うようすをちらりと見る。種族はまったく違うのに、どうしてこう、同じような表情をしているのか。

「──この条件に異議はないか。異議なくば、従うと誓いを立てよ」
「それで構わない。俺の牙と鱗と名誉に掛けて、条件と結果に従うと誓う」
「異議はない。戦神の猛き御名と天高く輝ける太陽、吟遊詩人のリュートにかけて、エルヴィラ・カーリスもこの決闘のすべてを受け入れると誓おう」
「ならば、この身に流れる血とリュートに掛けて、吟遊詩人ミーケルがこの決闘の公正な立会人となる」

 エルヴィラとアライトがゆっくりと睨み合う。エルヴィラの目が、真っ青な焔でも点ったかのように爛々と輝いているのを見て、ミーケルは仕方ないなと苦笑する。

「ならエルヴィラ、君の武具は持ってきてあるから準備をするんだ。
 いいな、アライト」
「構わない。せいぜいしっかり準備を整えることだ」

 あくまでも余裕な態度を崩さず、アライトは頷いた。



 ふたりが位置につき、身構えるのを待って、ミーケルは合図をする。

「では、はじめ!」

 びりびりとあたりを震わすほどの咆哮をあげる竜に、エルヴィラが剣を突きつける。

「くはははは! クソ竜め、その高慢な鼻っ柱をへし折って人間の偉大さを思い知らせてやるわ! 後になって吠え面をかくなよ!」
「あんたのような女を力ずくで従わせるのも、おもしろいってもんだ。絶対に負かしてひいひい泣かせてやるからな!」

 水平に剣を構えたエルヴィラが、アライトに向かって突撃をかける。アライトは自分の鱗の硬さを過信してか、正面から受けて立つつもりだ。
 薙ぎ払おうとアライトは鋭い爪の生えた前脚を振るうが、しかし身を低くしてエルヴィラはこれを躱す。
 すぐにガツンと金属同士が打ちあうような音が鳴り、火花が散った。硬いはずの竜の鱗が割れ、アライトが軽く目を瞠る。

「ふ、たいしたことがないな、クソ竜」
「なかなかやるじゃないか……俺のはほんの体慣らしだよ」
「さっそく負け惜しみか」

 いきなり横とびにごろりと転がって、エルヴィラはアライトの牙を避ける。
 エルヴィラの利点は身体が小さく小回りが利くことだろう。それに対して、アライトの利点は全身を覆う硬い鱗と身体が大きいことによるリーチの長さか。

 どうでもいいけど、やっぱりエルヴィラは男に生まれたほうがよかったんじゃないかな、とミーケルはちょっと遠い目になってしまう。



 それからも、ミーケルはふたりの勝負をじっと見つめていた。
 どちらの一挙手一投足も見逃さないよう、ひたすらに目を凝らし、すべてを頭に焼き付けるように、じっと見つめ続ける。

 エルヴィラよりふたまわりは大きいアライトの爪や牙を、トゥーロの鎧はよく弾いている。やはり彼を紹介しておいて良かった。以前の鎧であれば、もうとっくにぼろぼろに壊れてしまっていただろう。
 剣も、竜を相手に刃こぼれもせず、よく保っている。

 アライトと互角にやり合うエルヴィラの姿に、ミーケルは少しだけほっとする。

 しかし、そうは言ってもやはり竜は竜だ。
 鱗は硬く、なかなか刃を通さない。体格のせいか、俊敏さではエルヴィラに劣るけれど、力では明らかに勝っている。

 ミーケルの歌があれば確実に勝てるだろうが、公正な立場での立会人となってしまった今、それはできない。
 歯がゆさに、ミーケルは唇を噛み締める。
 その間にも、エルヴィラもアライトも、じわじわと傷を増やしていった。ひとつひとつは擦り傷でも、数が増えればそれだけ消耗を招くのだ。このまま戦いが進んだ先で、立っているのははたしてどちらだろうか。

 ガキン、ガツンとふたりの打ち合うと音に、ときおり咆哮や叫び声が混じりながら、戦いは続く。長引けば長引くほどエルヴィラが不利になっていく気がして、ミーケルの背を冷や汗が濡らす。

 ほんとうに、まんいちの時にはどうするべきか。
 “古の約定”に誓ってしまったからには、どうしたって決闘の結果はついて回る。アライトの要求をうまく捻じ曲げ、曲解させるようにもっていくか。それをエルヴィラが良しとすれば完璧だが――

「絶対無理だろうな」

 良くも悪くも正面突破一択のエルヴィラに、そんな腹芸ができるとは思えない。
 ああもう、なんて面倒臭いんだ。

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