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水路の町
これは、爺様仕込みだ
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「クラーケンの時も思ったが、あんた人間のくせに結構やるな」
「感心したか? いつ降参してもいいんだぞ」
離れて体勢を立て直しながら、そんな言葉を交わす。エルヴィラもアライトも、少し息が上がりつつあるようだ。
エルヴィラが中段に剣を構えるのに合わせ、アライトも身体を低くする。ガチガチと威嚇するように牙を打ち鳴らし、にやりと笑った。
再びエルヴィラが突撃し、勢いを利用して剣を突き込んだ。
アライトは爪で反らすが完全とはいかず、肩口の鱗が割れて傷を負う。エルヴィラもアライトの爪を完全には避けきれず、なぎ倒されるように横に吹き飛ぶ。
たたらを踏んでどうにか留まりはしたが、お互い無傷とは言えない格好だ。
エルヴィラは目を眇め、もう一度剣を振りかぶった。剣術では基本とされる上段の構えを取り、頭の横に真っ直ぐ剣を立てる。
攻撃と防御、どちらにもすぐに移れるバランスのいい構えだ。
アライトも再び身を沈め、がちんと牙を大きく打ち鳴らす。
じり、じりとお互い回り込むように間を詰めていき――
鋭く踏み込んだエルヴィラは、刀身を滑らせるようにアライトの爪と牙を受け流しながら、身体をくるりと捻らせる。
しかし完全に弾くことはできなかったのか、それともアライトに押し負けたのか、柄から片手が離れ、剣を巻き取られてしまう。
「エルヴィラ!?」
ミーケルが思わず一歩前に踏み出す。
――と、「かかったな、クソ竜め!」という叫びとともにエルヴィラが、アライトの前脚を踏み台にして瞬く間に背に乗り上げた。
「何!?」
アライトは予想もしていなかったのか、一瞬だけ動きが止まる。エルヴィラは、いつの間にか、手に鞘ごと抜いた短剣を握ってもいた。
「何を……」
呆然と見守るミーケルの目の前で、エルヴィラはひょいひょいとアライトの首に腕を回すと、長さの足りない分は鞘に入れたままの短剣で補って、ぎゅうぎゅうと締め上げ始めた。脚も外れないように、がっちりと首元に絡めている。
そのままじわじわと首を背中側に反らすようにたわめ、締め上げていく形だ。さすがの竜でもこれはたまらない。
そもそも、竜の首を締め上げようなんていう人間の話など、聞いたこともない。
「くく、驕ったなクソ竜。貴様の慢心は見ていて呆れるほどだったぞ。私が貴様の半分もない大きさだと思って侮るからだ」
「ぐ、う……な、なんてこと……」
はくはくと口を開閉し、目を白黒させてアライトは空気を求める。
いや、息を長く止められる竜にとっては、空気よりも首の血流を止められることのほうが辛いのだろう。
身体を戻そうとすればますます首と喉は締まるし、かといって背のエルヴィラには手足どころか尾も翼も届かない。この体勢では振り返って噛み付くことも不可能だ。
ぎりぎりと締め上げる腕と絡めた脚に渾身の力を込めて、エルヴィラは「負けを認めるなら今のうちだぞ、クソ竜」と嘲笑う。
人間のくせに、なんという馬鹿力なんだ。
「う、な……っ」
暴れて振り解こうにも体勢が悪すぎるのだろう、四肢でがっちり組み付いたエルヴィラを、アライトはうまく外せない。
「くく、そうやって暴れるうちに首が折れるかもしれんな」
低く囁くエルヴィラの声に、アライトの身体がびくっと震える。こんな風に人間に締め上げられるなんて初めての経験だ。
ましてや首が折れるぞと脅されては平常でいられない。
じわじわと恐怖が募る。
「私の爺様仕込みの締め技だ。
私が子供で、身体がまだ今の半分くらいの大きさしかなかったうちから、爺様に容赦なく叩き込まれたんだぞ。貴様なんぞに外せるわけがない」
ゆっくりと首がたわめられ、ぎし、と嫌な音がする。
誇り高い竜である自分が、なぜこんな小さな人間を恐いと感じなければいけないのか。けれど、理屈ではない恐怖心が湧き上がる。
「さあ選べ。このまま絞め殺されるか、おとなしく負けを認めるかだ」
負け? 自分が負けを認める?
この誇り高き青銅竜である自分が、人間ごときに負けを?
「負けを認めるくらいなら死を選ぶというのでも構わんぞ。お前の誇りはきっとミケが余すところなく後世に伝えてくれるだろう。
だから、死にたいのであれば安心して死ね」
くつくつと背中で不気味に笑うエルヴィラの声とぎしぎし軋む骨に、アライトはますます怯える。
まさか、自分より遥かに劣ると思っていた小さな生き物を、こうも恐ろしいと感じる日が来るなんて。
「さあ、どうする、竜。死か敗北か、好きなほうを選ばせてやろう」
エルヴィラの腕にさらに力がこもる。決して大柄でもない身体に、いったいどれほどの膂力があるというのか。
これ以上は反らせないというほどにぎりぎりと締め上げられて、首の関節はそろそろ限界だ。ほんとうにこのまま折られてしまうのか。
「ぐ、う、あ……っ」
いきなりエルヴィラの手の中にあった竜の首が消えて、空を切った。
「感心したか? いつ降参してもいいんだぞ」
離れて体勢を立て直しながら、そんな言葉を交わす。エルヴィラもアライトも、少し息が上がりつつあるようだ。
エルヴィラが中段に剣を構えるのに合わせ、アライトも身体を低くする。ガチガチと威嚇するように牙を打ち鳴らし、にやりと笑った。
再びエルヴィラが突撃し、勢いを利用して剣を突き込んだ。
アライトは爪で反らすが完全とはいかず、肩口の鱗が割れて傷を負う。エルヴィラもアライトの爪を完全には避けきれず、なぎ倒されるように横に吹き飛ぶ。
たたらを踏んでどうにか留まりはしたが、お互い無傷とは言えない格好だ。
エルヴィラは目を眇め、もう一度剣を振りかぶった。剣術では基本とされる上段の構えを取り、頭の横に真っ直ぐ剣を立てる。
攻撃と防御、どちらにもすぐに移れるバランスのいい構えだ。
アライトも再び身を沈め、がちんと牙を大きく打ち鳴らす。
じり、じりとお互い回り込むように間を詰めていき――
鋭く踏み込んだエルヴィラは、刀身を滑らせるようにアライトの爪と牙を受け流しながら、身体をくるりと捻らせる。
しかし完全に弾くことはできなかったのか、それともアライトに押し負けたのか、柄から片手が離れ、剣を巻き取られてしまう。
「エルヴィラ!?」
ミーケルが思わず一歩前に踏み出す。
――と、「かかったな、クソ竜め!」という叫びとともにエルヴィラが、アライトの前脚を踏み台にして瞬く間に背に乗り上げた。
「何!?」
アライトは予想もしていなかったのか、一瞬だけ動きが止まる。エルヴィラは、いつの間にか、手に鞘ごと抜いた短剣を握ってもいた。
「何を……」
呆然と見守るミーケルの目の前で、エルヴィラはひょいひょいとアライトの首に腕を回すと、長さの足りない分は鞘に入れたままの短剣で補って、ぎゅうぎゅうと締め上げ始めた。脚も外れないように、がっちりと首元に絡めている。
そのままじわじわと首を背中側に反らすようにたわめ、締め上げていく形だ。さすがの竜でもこれはたまらない。
そもそも、竜の首を締め上げようなんていう人間の話など、聞いたこともない。
「くく、驕ったなクソ竜。貴様の慢心は見ていて呆れるほどだったぞ。私が貴様の半分もない大きさだと思って侮るからだ」
「ぐ、う……な、なんてこと……」
はくはくと口を開閉し、目を白黒させてアライトは空気を求める。
いや、息を長く止められる竜にとっては、空気よりも首の血流を止められることのほうが辛いのだろう。
身体を戻そうとすればますます首と喉は締まるし、かといって背のエルヴィラには手足どころか尾も翼も届かない。この体勢では振り返って噛み付くことも不可能だ。
ぎりぎりと締め上げる腕と絡めた脚に渾身の力を込めて、エルヴィラは「負けを認めるなら今のうちだぞ、クソ竜」と嘲笑う。
人間のくせに、なんという馬鹿力なんだ。
「う、な……っ」
暴れて振り解こうにも体勢が悪すぎるのだろう、四肢でがっちり組み付いたエルヴィラを、アライトはうまく外せない。
「くく、そうやって暴れるうちに首が折れるかもしれんな」
低く囁くエルヴィラの声に、アライトの身体がびくっと震える。こんな風に人間に締め上げられるなんて初めての経験だ。
ましてや首が折れるぞと脅されては平常でいられない。
じわじわと恐怖が募る。
「私の爺様仕込みの締め技だ。
私が子供で、身体がまだ今の半分くらいの大きさしかなかったうちから、爺様に容赦なく叩き込まれたんだぞ。貴様なんぞに外せるわけがない」
ゆっくりと首がたわめられ、ぎし、と嫌な音がする。
誇り高い竜である自分が、なぜこんな小さな人間を恐いと感じなければいけないのか。けれど、理屈ではない恐怖心が湧き上がる。
「さあ選べ。このまま絞め殺されるか、おとなしく負けを認めるかだ」
負け? 自分が負けを認める?
この誇り高き青銅竜である自分が、人間ごときに負けを?
「負けを認めるくらいなら死を選ぶというのでも構わんぞ。お前の誇りはきっとミケが余すところなく後世に伝えてくれるだろう。
だから、死にたいのであれば安心して死ね」
くつくつと背中で不気味に笑うエルヴィラの声とぎしぎし軋む骨に、アライトはますます怯える。
まさか、自分より遥かに劣ると思っていた小さな生き物を、こうも恐ろしいと感じる日が来るなんて。
「さあ、どうする、竜。死か敗北か、好きなほうを選ばせてやろう」
エルヴィラの腕にさらに力がこもる。決して大柄でもない身体に、いったいどれほどの膂力があるというのか。
これ以上は反らせないというほどにぎりぎりと締め上げられて、首の関節はそろそろ限界だ。ほんとうにこのまま折られてしまうのか。
「ぐ、う、あ……っ」
いきなりエルヴィラの手の中にあった竜の首が消えて、空を切った。
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