62 / 152
水路の町
女騎士の勲(いさおし)
しおりを挟む
「なに!?」
どすんと尻から地べたに落ちて、エルヴィラは呆然とする。
「な、どこへ行った! クソ竜め!」
慌てて見回すと、大広間の片隅に逃げていく一匹の小さな蛇が目に入った。
「――まさか、貴様がクソ竜か?」
エルヴィラは怯えた顔で自分を見上げる蛇に短剣を突きつける。大広間の壁に身を押し付けて、蛇はぶるぶると震え上がる。
「あ……えーと、これは、エルヴィラの勝ちだね」
仁王立ちになって蛇を凝視するエルヴィラと目を逸らす蛇の姿に、先に立ち直ったミーケルが、ぷ、と噴き出しながらエルヴィラの勝利を宣言した。
エルヴィラの気迫勝ちと言ったところだろうか。
「貴様それでも竜か! 竜は誇り高い生き物じゃなかったのか! まさか変身して逃げ出すなどとは笑止千万だ! 貴様は今日から竜を名乗るのをやめろ!」
だが、エルヴィラはいまひとつ納得していないらしい。なおも迫るその姿に、蛇はさらに竦み上がり縮こまる。
さながら、天敵に睨まれる小動物のようだ。
エルヴィラは憤懣やるかたなしとばかりに顔を顰め、がしっと首を掴み取った。持ち上げてぶらんとぶら下がった蛇を覗き込んで、「このヘタレめ」と吐き捨て、ぽいと放り投げてしまう。
「もう二度とひとを攫おうなどと不埒なことを考えるなよ、クソ竜」
顔を引き攣らせた蛇がこくこくと必死に頷き返すと、エルヴィラはふと何かを思いついたかのようににやりと尊大に笑った。
「――今回のことはミケによーく広めてもらうからな」
ハッ、と蛇が焦った顔で目を見開いた。
「そっ、それだけはやめて」
「何がやめてだ。貴様自身のしでかした所業だぞ。存分に広めてやる」
「は、反省してるからやめて。お願い」
「知らん」
そんなあ、と情けない声をあげる蛇を無視しめ、エルヴィラは鼻息荒く振り返る。後ろで腹を抱えて笑い転げる吟遊詩人に、「ミケ、帰ろう」と声をかけ、ゆっくり歩き始めた。
宿に帰っても、ミーケルは思い出し笑いに襲われては笑い続けていた。
「君さ、先祖に巨人でもいるの? 竜を締め落とす人間の騎士の話なんて、さすがの僕も聞いたことないよ」
「爺様が、背後から首絞めて脅すと大抵の奴の心は折れるって言ってたんだ」
自分に竜の首が折れるなんて思ってなかったし、本当に竜が脅されてくれるかも賭けだったんだけど。
エルヴィラはそうぼそぼそ呟きながら、武具の確認をする。
さすがトゥーロの作った黒鉄製の鎧だ。竜の爪や牙を受けても若干の傷だけで、たいした凹みもなく済んでいた。
歪みも動きに影響が出るほどではない。これなら修理の必要もないだろう。
「それにしたって、竜の首締めたあげくに折るぞって脅すなんて発想、ふつうのひとには無いって」
「……母上が小柄だから、私の身体もあまり大きくならないんじゃないかって、爺様が心配して伝授してくれたんだ。身体の大きな奴にも勝てるようにって。大人が相手でも1対1で弱点を取れば勝つ方法はあるぞって」
「いや、それでも人間同士の話だろう? 竜相手にそんなの、普通は考えないね」
「爺様は私が子供でも容赦なくしごいてくれたから、爺様のおかげだ」
戦神教会の“猛将司祭”の逸話はかなり破天荒なものが多いが、ミーケルはきっとよくある英雄譚のように少し大袈裟に語られてるんだろうと考えていた。
だが、孫娘のエルヴィラがこの調子なのだ、もしかしたら誇張なしの本当のことが伝わってるのかもしれない。
「君の家って、君だけじゃなくて君以外もむちゃくちゃなんだね」
「そうかな?」
まだ笑い続けながら、ミーケルは感心していた。
*****
水路の町
ベースはもちろんヴェネツィア。
車はもちろん自転車も乗り入れられず、主要交通機関は船である。警察や救急のような緊急車両も車両ではなく船舶。
駅降りるとマジで目の前がヴァポレット(バス役の定期船)乗り場なので滾る。
ヴァポレットの定額パスを買って大運河と外洋を一周する環状ルートでのんびり観光も楽しいし、徒歩でだらだら歩き回るのも楽しい。町全体がテーマパークとはよく言ったものである。
そして、海産物がとても美味しい。
刺身もあるが、醤油はないので塩とレモンで食べる。日本に比べたら、生魚の臭いが気になるかも?
あと、「SUSHI!」と言って大皿で出してくれるのはいいが、ウェイターのお兄さん、それ寿司ではなく刺し盛りです。
シャリがない。
そして、章の冒頭に出てきた中華の店のベースは、マズイで悪名高いロンドンのソーホーにあった中華料理店です。
ロンドン、マジでアレだった。トマト以外の味のしないパスタとか、ダダ甘いだけのケーキとか……なぜこうなった?と疑問しか浮かばなかった。
が、困ったら各国料理に逃げろと友人から言われていたので、中華に逃げました。
美味かった。超美味かった。海老餃子のスープとか最高に美味かった。あの海老餃子以上の中華に未だ出会えていない。
そして隣の卓でも海老餃子注文してて、「そうだろ美味いもんな!」て笑顔で(勝手に)頷いていたら、隣卓の英国人、具の海老餃子まるっと残しやがった。
お前らそういうところだよ!って思いました。
どすんと尻から地べたに落ちて、エルヴィラは呆然とする。
「な、どこへ行った! クソ竜め!」
慌てて見回すと、大広間の片隅に逃げていく一匹の小さな蛇が目に入った。
「――まさか、貴様がクソ竜か?」
エルヴィラは怯えた顔で自分を見上げる蛇に短剣を突きつける。大広間の壁に身を押し付けて、蛇はぶるぶると震え上がる。
「あ……えーと、これは、エルヴィラの勝ちだね」
仁王立ちになって蛇を凝視するエルヴィラと目を逸らす蛇の姿に、先に立ち直ったミーケルが、ぷ、と噴き出しながらエルヴィラの勝利を宣言した。
エルヴィラの気迫勝ちと言ったところだろうか。
「貴様それでも竜か! 竜は誇り高い生き物じゃなかったのか! まさか変身して逃げ出すなどとは笑止千万だ! 貴様は今日から竜を名乗るのをやめろ!」
だが、エルヴィラはいまひとつ納得していないらしい。なおも迫るその姿に、蛇はさらに竦み上がり縮こまる。
さながら、天敵に睨まれる小動物のようだ。
エルヴィラは憤懣やるかたなしとばかりに顔を顰め、がしっと首を掴み取った。持ち上げてぶらんとぶら下がった蛇を覗き込んで、「このヘタレめ」と吐き捨て、ぽいと放り投げてしまう。
「もう二度とひとを攫おうなどと不埒なことを考えるなよ、クソ竜」
顔を引き攣らせた蛇がこくこくと必死に頷き返すと、エルヴィラはふと何かを思いついたかのようににやりと尊大に笑った。
「――今回のことはミケによーく広めてもらうからな」
ハッ、と蛇が焦った顔で目を見開いた。
「そっ、それだけはやめて」
「何がやめてだ。貴様自身のしでかした所業だぞ。存分に広めてやる」
「は、反省してるからやめて。お願い」
「知らん」
そんなあ、と情けない声をあげる蛇を無視しめ、エルヴィラは鼻息荒く振り返る。後ろで腹を抱えて笑い転げる吟遊詩人に、「ミケ、帰ろう」と声をかけ、ゆっくり歩き始めた。
宿に帰っても、ミーケルは思い出し笑いに襲われては笑い続けていた。
「君さ、先祖に巨人でもいるの? 竜を締め落とす人間の騎士の話なんて、さすがの僕も聞いたことないよ」
「爺様が、背後から首絞めて脅すと大抵の奴の心は折れるって言ってたんだ」
自分に竜の首が折れるなんて思ってなかったし、本当に竜が脅されてくれるかも賭けだったんだけど。
エルヴィラはそうぼそぼそ呟きながら、武具の確認をする。
さすがトゥーロの作った黒鉄製の鎧だ。竜の爪や牙を受けても若干の傷だけで、たいした凹みもなく済んでいた。
歪みも動きに影響が出るほどではない。これなら修理の必要もないだろう。
「それにしたって、竜の首締めたあげくに折るぞって脅すなんて発想、ふつうのひとには無いって」
「……母上が小柄だから、私の身体もあまり大きくならないんじゃないかって、爺様が心配して伝授してくれたんだ。身体の大きな奴にも勝てるようにって。大人が相手でも1対1で弱点を取れば勝つ方法はあるぞって」
「いや、それでも人間同士の話だろう? 竜相手にそんなの、普通は考えないね」
「爺様は私が子供でも容赦なくしごいてくれたから、爺様のおかげだ」
戦神教会の“猛将司祭”の逸話はかなり破天荒なものが多いが、ミーケルはきっとよくある英雄譚のように少し大袈裟に語られてるんだろうと考えていた。
だが、孫娘のエルヴィラがこの調子なのだ、もしかしたら誇張なしの本当のことが伝わってるのかもしれない。
「君の家って、君だけじゃなくて君以外もむちゃくちゃなんだね」
「そうかな?」
まだ笑い続けながら、ミーケルは感心していた。
*****
水路の町
ベースはもちろんヴェネツィア。
車はもちろん自転車も乗り入れられず、主要交通機関は船である。警察や救急のような緊急車両も車両ではなく船舶。
駅降りるとマジで目の前がヴァポレット(バス役の定期船)乗り場なので滾る。
ヴァポレットの定額パスを買って大運河と外洋を一周する環状ルートでのんびり観光も楽しいし、徒歩でだらだら歩き回るのも楽しい。町全体がテーマパークとはよく言ったものである。
そして、海産物がとても美味しい。
刺身もあるが、醤油はないので塩とレモンで食べる。日本に比べたら、生魚の臭いが気になるかも?
あと、「SUSHI!」と言って大皿で出してくれるのはいいが、ウェイターのお兄さん、それ寿司ではなく刺し盛りです。
シャリがない。
そして、章の冒頭に出てきた中華の店のベースは、マズイで悪名高いロンドンのソーホーにあった中華料理店です。
ロンドン、マジでアレだった。トマト以外の味のしないパスタとか、ダダ甘いだけのケーキとか……なぜこうなった?と疑問しか浮かばなかった。
が、困ったら各国料理に逃げろと友人から言われていたので、中華に逃げました。
美味かった。超美味かった。海老餃子のスープとか最高に美味かった。あの海老餃子以上の中華に未だ出会えていない。
そして隣の卓でも海老餃子注文してて、「そうだろ美味いもんな!」て笑顔で(勝手に)頷いていたら、隣卓の英国人、具の海老餃子まるっと残しやがった。
お前らそういうところだよ!って思いました。
10
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました
大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる