クソイケメンな吟遊詩人にはじめてを奪われて無職になったので、全力で追いかけて責任取らせます

ぎんげつ

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水路の町

女騎士の勲(いさおし)

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「なに!?」

 どすんと尻から地べたに落ちて、エルヴィラは呆然とする。

「な、どこへ行った! クソ竜め!」

 慌てて見回すと、大広間の片隅に逃げていく一匹の小さな蛇が目に入った。

「――まさか、貴様がクソ竜か?」

 エルヴィラは怯えた顔で自分を見上げる蛇に短剣を突きつける。大広間の壁に身を押し付けて、蛇はぶるぶると震え上がる。

「あ……えーと、これは、エルヴィラの勝ちだね」

 仁王立ちになって蛇を凝視するエルヴィラと目を逸らす蛇の姿に、先に立ち直ったミーケルが、ぷ、と噴き出しながらエルヴィラの勝利を宣言した。
 エルヴィラの気迫勝ちと言ったところだろうか。

「貴様それでも竜か! 竜は誇り高い生き物じゃなかったのか! まさか変身して逃げ出すなどとは笑止千万だ! 貴様は今日から竜を名乗るのをやめろ!」

 だが、エルヴィラはいまひとつ納得していないらしい。なおも迫るその姿に、蛇はさらに竦み上がり縮こまる。
 さながら、天敵に睨まれる小動物のようだ。
 エルヴィラは憤懣やるかたなしとばかりに顔を顰め、がしっと首を掴み取った。持ち上げてぶらんとぶら下がった蛇を覗き込んで、「このヘタレめ」と吐き捨て、ぽいと放り投げてしまう。

「もう二度とひとを攫おうなどと不埒なことを考えるなよ、クソ竜」

 顔を引き攣らせた蛇がこくこくと必死に頷き返すと、エルヴィラはふと何かを思いついたかのようににやりと尊大に笑った。

「――今回のことはミケによーく広めてもらうからな」

 ハッ、と蛇が焦った顔で目を見開いた。

「そっ、それだけはやめて」
「何がやめてだ。貴様自身のしでかした所業だぞ。存分に広めてやる」
「は、反省してるからやめて。お願い」
「知らん」

 そんなあ、と情けない声をあげる蛇を無視しめ、エルヴィラは鼻息荒く振り返る。後ろで腹を抱えて笑い転げる吟遊詩人に、「ミケ、帰ろう」と声をかけ、ゆっくり歩き始めた。



 宿に帰っても、ミーケルは思い出し笑いに襲われては笑い続けていた。

「君さ、先祖に巨人でもいるの? 竜を締め落とす人間の騎士の話なんて、さすがの僕も聞いたことないよ」
「爺様が、背後から首絞めて脅すと大抵の奴の心は折れるって言ってたんだ」

 自分に竜の首が折れるなんて思ってなかったし、本当に竜が脅されてくれるかも賭けだったんだけど。
 エルヴィラはそうぼそぼそ呟きながら、武具の確認をする。

 さすがトゥーロの作った黒鉄アダマンタイト製の鎧だ。竜の爪や牙を受けても若干の傷だけで、たいした凹みもなく済んでいた。
 歪みも動きに影響が出るほどではない。これなら修理の必要もないだろう。

「それにしたって、竜の首締めたあげくに折るぞって脅すなんて発想、ふつうのひとには無いって」
「……母上が小柄だから、私の身体もあまり大きくならないんじゃないかって、爺様が心配して伝授してくれたんだ。身体の大きな奴にも勝てるようにって。大人が相手でも1対1で弱点を取れば勝つ方法はあるぞって」
「いや、それでも人間同士の話だろう? 竜相手にそんなの、普通は考えないね」
「爺様は私が子供でも容赦なくしごいてくれたから、爺様のおかげだ」

 戦神教会の“猛将司祭”の逸話はかなり破天荒なものが多いが、ミーケルはきっとよくある英雄譚のように少し大袈裟に語られてるんだろうと考えていた。
 だが、孫娘のエルヴィラがこの調子なのだ、もしかしたら誇張なしの本当のことが伝わってるのかもしれない。

「君の家って、君だけじゃなくて君以外もむちゃくちゃなんだね」
「そうかな?」

 まだ笑い続けながら、ミーケルは感心していた。



*****

水路の町
ベースはもちろんヴェネツィア。
車はもちろん自転車も乗り入れられず、主要交通機関は船である。警察や救急のような緊急車両も車両ではなく船舶。
駅降りるとマジで目の前がヴァポレット(バス役の定期船)乗り場なので滾る。
ヴァポレットの定額パスを買って大運河と外洋を一周する環状ルートでのんびり観光も楽しいし、徒歩でだらだら歩き回るのも楽しい。町全体がテーマパークとはよく言ったものである。

そして、海産物がとても美味しい。
刺身もあるが、醤油はないので塩とレモンで食べる。日本に比べたら、生魚の臭いが気になるかも?
あと、「SUSHI!」と言って大皿で出してくれるのはいいが、ウェイターのお兄さん、それ寿司ではなく刺し盛りです。
シャリがない。

そして、章の冒頭に出てきた中華の店のベースは、マズイで悪名高いロンドンのソーホーにあった中華料理店です。
ロンドン、マジでアレだった。トマト以外の味のしないパスタとか、ダダ甘いだけのケーキとか……なぜこうなった?と疑問しか浮かばなかった。
が、困ったら各国料理に逃げろと友人から言われていたので、中華に逃げました。
美味かった。超美味かった。海老餃子のスープとか最高に美味かった。あの海老餃子以上の中華に未だ出会えていない。
そして隣の卓でも海老餃子注文してて、「そうだろ美味いもんな!」て笑顔で(勝手に)頷いていたら、隣卓の英国人、具の海老餃子まるっと残しやがった。
お前らそういうところだよ!って思いました。
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