クソイケメンな吟遊詩人にはじめてを奪われて無職になったので、全力で追いかけて責任取らせます

ぎんげつ

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歌う竜の町

突然現れたのは

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「ミケはなんでも知ってるんだな」

 墓を後にして町に戻りながら、エルヴィラは感心したように呟いた。

「ん?」
「だって、伝説のほんとうなんて、普通は知らないどころか考えたこともないし」
「ああ、たまたまだよ」

 くす、と笑ってミーケルは肩を竦める。

「たまたま、そういう話を聞ける機会があったんだ」
「ふうん?」

 たとえたまたまだろうが、そんな話を聞けるということ自体がすごいのだと、エルヴィラは思う。

「やっぱり、ミケはなんでも知ってる」
「買いかぶりすぎ」

 ぽん、と頭を叩かれて抱き寄せられた。思わずへにゃっと笑ってしまったところに「君がものを知らないだけだよ」と囁かれて、むうっと口を尖らせる。

「いいんだ。私が知らなくてもミケが知ってれば」
「君のそれ、いい加減でやめとかないと、痛い目見るかもよ?」
「いいったらいいんだ。ミケがいるから」

 どうしたらここまで自分を盲目的に信頼できるのか、これも一種の才能なのではないかとミーケルは思う。

 正直、悪い気はしない。
 けれど、その信頼に応えられなかったらどうなるのかと、少し恐ろしくもなる。
 とはいえ、エルヴィラのことだ。そんなの私が勝手に信じてるだけだから気にするな、とでも言うのだろうが――しかたないな、と息を吐く。

「いいならいいけど、あまり人のことばかり当てにしないでよ」
「大丈夫だ。ミケが大変な時は、わたしがなんとかするし」
「君の大丈夫は、ほんとうにどこから出てくるんだろうね」

 呆れ顔のミーケルに、エルヴィラは「任せろ」とまた笑って見せた。



 夕刻になって、町の喧騒も少し落ち着き始めていた。
 近隣から買い出しに来た者たちが、既に帰途に着いたからだろう。市場通りからはだいぶ人が減っていた。
 アライトは「俺は空気が読めるからな」としたり顔で姿を消してしまった。
 どうやら今日はもうひとりで行動するつもりらしい。

「そういえば、ミケはいつも冬越しはどうしてるんだ?」
「ああ、雪が降る頃に適当な町に留まって、雪解けまで過ごすことにしてるよ」
「今年はどこで冬越しするんだ?」
「もう少し南のほうで過ごすつもりだけど?」
「そうか」

 楽しみだな、とエルヴィラはにひゃりと笑った。冬越しの間、部屋に篭って存分にいちゃいちゃできるんじゃないだろうか。
 想像すると今から楽しみだ。

「なんで君はそう、考えてることがだだ漏れなんだろうね」
「楽しみなんだからしかたない」
「最近、開き直るようにもなったよね」

 やっぱり呆れて溜息を吐くミーケルに、「私は日々進歩してるからな」と、エルヴィラは胸を張る。
 それ、ちょっと違うんじゃないだろうか。
 そう思ったけれど、ミーケルは黙っておいた。

 すっかり日が短くなって、太陽はもう地平線に隠れようとしている。夜が近づいてさらに一段冷たくなった北風が、通りをひゅうと吹き抜けていく。
 荒れ地のほぼ南端に位置するこの町では、冬になると北の荒れ地から吹く冷たく乾いた風に曝されるようになるのだ。

「この町でこの風が吹くと、もうすぐ冬なんだなって思うよ」
「へえ。都だと、海がひっきりなしに荒れるようになって北から来る船が減ると、冬だなって思うんだけどな」
「荒れ地の周辺はあまり雪は降らないけど、風はすごく冷たいんだ」

 なるほどなあ、とエルヴィラは藍色に染まり始めた空を見上げる。そういえば、このあたりは雨も少なかったなと考えながら。

「……ミケ、お腹空いた。夕飯は何にするんだ?」
「もう? 唐突だね」

 あちこちの露店を眺めながら、急にエルヴィラがそんなことを言い出した。

「夕飯を早く済ませて、いちゃいちゃしたい」
「――最近、発情期の猫みたいになったよね」
「正直なのは美徳なんだぞ」
「正直の種類によるだろう?」

 ぺたりと張り付いて歩くエルヴィラに苦笑して、それなら適当に食堂のあたりをぶらついてみようかと、市場広場へ向かうことにした。

「ミーケルじゃないの!」

 誰かが甲高い声で叫び、どん、と体当たりするように背後からぶつかった。

「――え?」

 そのままぎゅうっと抱きつくようにミーケルの腕を掴み、「ねえ、いつ戻って来たの?」と鼻に掛った声で悶えるように身体を擦り付け、しなだれ掛かる。

 いきなりの出来事にエルヴィラはぽかんと呆気に取られつつも、顔を上げて相手を確認する。
 金の巻き毛に淡い青の目がきれいな、成人を迎えた頃の若い女の子が、エルヴィラをじっと睨んでいた。

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