クソイケメンな吟遊詩人にはじめてを奪われて無職になったので、全力で追いかけて責任取らせます

ぎんげつ

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歌う竜の町

先約

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※作者注:ミーケルは基本的にクズ男です
*****

 巻きつかれた手を無理やり解きながら、ミーケルは首を傾げた。

「ええと――君は誰?」
「やだ、ミーケルったら。前にこの町を出る時、ここへ戻ったらまた私と会うからって約束したじゃないの」

 甘えるような声で「ねえ?」と小首を傾げる娘に、ミーケルは「思い出せないんだけど」と顔を顰める。

「ええ? 酷いわ、絶対って約束したのよ」

 だんだんと状況が飲み込めたのか、エルヴィラは目をまん丸に見開いたまま、じり、と一歩後退あとじさる。

「ミケ――先約があったのか」
「いや、エルヴィラ、待つんだ」
「そうか。前にこの町でということは、誓いの前ということか」

 ぶつぶつと呟くエルヴィラに、ミーケルの眉間に皺が寄る。

「エルヴィラ?」
「ねえ、ミーケル。この子なあに? 変な声」
「へん――」
「それに、気持ち悪い目だわ」
「ええと、そうか」

 娘の言葉で小さく俯くエルヴィラに、ミーケルは少し焦る。
 イライラしたように娘に目をやり、いい加減にしてくれ、と言い放った。

「君が誰か、ほんとうに知らないんだけど、因縁つけるのはやめてくれないか?」
「――酷い。絶対またって約束したのに、ほんとうに忘れたの?」

 愕然としながらも気を取り直して再び首に手を回そうとする娘と避けようとするミーケルの攻防が、また始まった。

「誓いの前、か――」

 さらにじりじりと後退ったエルヴィラは、とうとうくるりと身を翻して走り出す。文句を言いたいけれど、ミーケルがエルヴィラに誓う前の話じゃ仕方ない。
 だけど、だからといって見てはいたくないのだ。

「あ、おい、エルヴィラ!」
「あん、ねえ、ミーケル!」

 女に向き直って、ミーケルはこめかみをぴくぴくと震わせながら、もう一度無理やり腕を外した。

「悪いけど君のことなんて覚えてないよ。おおかた、僕の言葉尻を都合よく解釈しただけなんじゃないか?」
「……な、なっ!」
「ああ、やっぱり。図星って顔だね」

 一瞬目が泳いだことで、ミーケルは断言する。

「ならここまでだ。これ以上は、限度を超えてる」
「そんな、どうして!? あんな“悪魔混じり”なんかより、私の方がずっと若いしきれいなのに――」
「自惚れるのは勝手にやっててくれるかな。僕には君のほうこそどうでもいいんだよ」

 たちまち顔を真っ赤にする娘をどうにか振り払い、ミーケルはエルヴィラの後を追って走り出した。
 娘はぶるぶると手を震わせて、ダン! と足を鳴らす。

「ミーケルの馬鹿っ! 何よ、タラシ! 嘘つき! 覚えてなさいよ!」

 地面を踏み付けて罵る娘の声は、すぐにミーケルへは届かなくなった。

 そして、少なくなったとはいえ相変わらずの人混みに紛れて、エルヴィラの姿は既に見えなくなってしまっていた。

 いったいどこへ消えたのか。

 エルヴィラの行きそうなところ、と考えて、そういえばあまり思いつかないことに、ミーケルは気がついた。
 ああでも自棄酒か自棄食いくらいはやるかもしれない。
 まずは酒場や食事処を順番に覗いてみよう。



 きれいな金髪だったな。
 目も澄んだ青だったし。
 ちょっと前までは自分だって結構いい感じの赤毛で鮮やかなオレンジ色だったし、もっとちゃんとのばしてたんだけどな。
 目だって青かったんだ。

 視界の端の毛先をちょっと摘んで眺めて、エルヴィラは少しだけ溜息を吐く。

 あの時、あの蔓みたいなやつを自分が遮らなきゃ、後ろのミーケルたちがやられてたのだ。だからそのこと自体に後悔はない。
 ただ、変わってしまったことが、ほんのちょっと残念なだけだ。

 しょぼしょぼと酒を飲みながら煮込みをつつきまわしていると、「エルヴィラ」と、不意に声が掛けられた。

「え」
「え、じゃないよ。勝手に思い込んでいなくなるのは勘弁してくれって言っただろう?」

 咎めるように言われて、エルヴィラは思わず眉根を寄せてしまう。

「だって、約束してたって」
「あれは彼女の口から出任せだ」

 とてもそうは聞こえなかったのに――と、エルヴィラが少し上目遣いにじっとりと見つめると、ミーケルは気まずそうに目を逸らしてしまった。

「――悪かったよ」

 ぼそりと呟くミーケルに、エルヴィラは驚いて瞠目する。

「ミケも、謝るんだ」
「僕を何だと思ってるんだ」

 顔を顰めてミーケルがエルヴィラの横に座ると、すぐに給仕がやってきて麦酒のマグを置いていった。
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