クソイケメンな吟遊詩人にはじめてを奪われて無職になったので、全力で追いかけて責任取らせます

ぎんげつ

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歌う竜の町

詩人のご機嫌取り

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「それにしても、君はもっと怒ってよかったと思うんだけど」
「怒る?」

 麦酒を飲みながら言うミーケルを、エルヴィラはきょとんと見つめ返した。

「あんな風に言われて平気なのか? 相当理不尽な言い掛かりだったじゃないか」
「ああ、目とか声のことか」

 どうやらミーケルはそのことを気にしていたらしい。エルヴィラは麦酒をひと口飲んで、うん、と頷く。

「自分でも目はちょっと気持ち悪いなって思うし、声も酷いんだからしょうがない。それに、私のほうが明らかに強いから。強いほうが弱いほうに譲ってやらないと」
「――ここ、戦場じゃないんだからさ。そんな風に武勲か何かみたいに考えるの、やめないか?」
「だって、たぶん、あの女の子は私の拳一発で死ぬぞ」
「そうじゃなくて」

 はあ、とミーケルは思わず嘆息を漏らす。

「君の目は気持ち悪くないし、声だって問題ない。あれはどう考えても、君を貶めようとした言葉だったことくらい、わかるだろう?」

 わからない振りはするなと言外に言われて、エルヴィラは目を伏せる。

「……だって、私の場合、最初からじゃなかったし、ミケからしてみたら詐欺みたいなものじゃないのか」

 上目遣いにそんなことを呟いて、「だから、無理に来なくたって」などとも言い出す。ミーケルはまた盛大に呆れたという溜息を吐いた。

「あのね。僕がそんなに殊勝で我慢強い奴に見える? 嫌だったら、君が逃げた時にこれ幸いと放置して追いかけてなんかこなかったに決まってるだろう」
「う」
「う、じゃないよ。何度言えばわかるのさ、鳥頭」
「だって……」

 まったく、とエルヴィラの肩を抱き寄せる。

「確かに元の青い色も良かったよ。真夏の空みたいで。でも、今の赤だって、君らしくていいじゃないか」

 エルヴィラはぱちぱちと瞬きをする。
 エルヴィラらしいって?

「赤は君の色だって言ったろう?
 声も、たしかに綺麗だとは言わない。だけど迫力は増したし、名乗りを挙げるのにはいいんじゃない? 少なくとも、僕は嫌いじゃない。味もあるしね」
「……迫力と、味」

 いいのか悪いのか、どうにも微妙な気はするけれど、ミーケルが嫌いじゃないというならいいか。
 そう考えて、エルヴィラは納得する。

「それよりも」

 ぐ、とミーケルが顔を近付ける。

「君はどうなの」
「私?」
「そう」

 少し真面目な顔で、やや目を眇めてじっと見つめるミーケルに、つい視線を彷徨わせてしまう。どうって、何がどうなのか。
 困った顔で黙ってしまうエルヴィラに、ミーケルはしょうがないなと笑う。

「君は変なところで引っ込むよね。普段はあんなに押してくるくせに」
「変なところって」
「だって、そうじゃないか。僕に夜這いを掛けようとしたり、どこまでもくっついてくる宣言をしたりするくせに、なんで今度は思い込みで離れるのさ」

 俯いてもじもじと指を合わせて、やっぱり視線を彷徨わせたままエルヴィラは小さく小さく「だって」と呟く。

「ん?」
「だって……怖いじゃないか」
「怖い?」

 思いもよらない単語に、ミーケルは眉を顰める。
 怖い? いったい何が?

「だって、まんいちミケがもう顔も見たくないって言ったら、他の女の子のところに行っちゃうってことになるじゃないか。
 ミケが決めることだとわかってるんだ。でも、もし言われたら離れなきゃいけないし、だから怖いんだ」

 ミーケルはぽかんとエルヴィラを見る。何を言い出すのかと思えば――

「だから、言われる前に離れておけば、後でこっそり戻ってもいいかなって」
「……君って時々かわいいこと言うね」
「な、なんだと」

 カッと顔に血を昇らせて、エルヴィラは、むう、と顰め面を作る。

「そんなに僕についてきたいんだ?」

 顰め面のまま、だけどおずおずと頷くエルヴィラの頭を、ぽんぽんと叩く。

「なら、もう早とちりしないで、勝手にどこかに行ったりするんじゃないよ。前に約束しただろう?」
「う……」
「う、じゃなくて。前にも言ったように、僕は、君の最後でもいいんじゃないかってくらいには君を気に入ってるんだから。わかった?」
「うぅ……」

 わかったと頷くエルヴィラの顔を、ミーケルは「ほんとうに?」と覗き込む。

「君、たまにわからないで返事してる時があるからね」
「ちゃんと、わかってる」

 少しふてくされたような顔で、またエルヴィラは頷く。どうして自分が叱られてるような気持ちになるんだろう、と考えながら。
 そんなエルヴィラに、「ほんとうに、君は考えてることがだだ漏れになるね」とミーケルは笑ってキスをした。

「じゃ、昼間言ってたとおり、宿に戻ったらいちゃいちゃするかい?」
「う……する」
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