クソイケメンな吟遊詩人にはじめてを奪われて無職になったので、全力で追いかけて責任取らせます

ぎんげつ

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神竜の加護ある町

また、面倒なことを

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 オーウェンは、本格的な冬の到来前の最後の北行きの船で都へと戻っていった。

 エルヴィラが書いた手紙を預かり、これからはなるべく家に連絡を入れるようにと言い含め、それからいくつもの魔法薬と“不浄からの護り”の護符をエルヴィラに渡して、とてもとても名残惜しそうに。
 何か困ったことがあったらすぐ知らせるように、困ったことがなくてもいいから手紙を寄越すようにと、しつこいくらい繰り返し言い残して。

 別れ際、エルヴィラも「皆に私は大丈夫だって伝えてくれ」とオーウェンをぎゅうっと抱き締めた。
 残ると決めてもやっぱりちょっと目は潤んでいた。

「そんな顔をされたら、無理にでも連れ帰りたくなるよ、エルヴィラ」
「だ、だめだ。でも、兄上も身体に気をつけて。ソール兄上や母上たちにもよろしく伝えてくれ。セロンや父上にもだ」
「ああ、わかってるよ。エルヴィラは前以上に可愛かったと伝えるからね」
「う……」

 オーウェンはエルヴィラの額にキスをして、船へと乗り込んでいった。
 そんな光景を見ながら、エルヴィラがやたらとぺたぺたくっつきたがるのは、きっとこの兄の影響だとミーケルは考えていた。



 そこから数日で領主家の仕事も写本も終えて宿へと戻ったものの、ミーケルはそろそろこの町を出たほうがいい頃合だろうと考えていた。
 何しろ、オーウェンとの“決闘”で、とてもこの町で落ち着いていられる状況ではなくなってしまったのだ。

 自業自得ではあるものの、自ら竜に戻ってみせたアライトも、なんやかやと煩わしいことばかりになったとぶつくさ零していた。
 宿に押さえた部屋の外に出るときも、ずっと栗鼠や小鳥の姿で隠れたままだ。イヴリンの機嫌もすこぶる悪い。
 外に出ると皆が煩いと、結局ふたりともあまり外に出なくなってしまった。

「この町で冬越ししようと思ってたけど、移動したほうがよさそうだ」

 外面のいいミーケルでも面倒になったのかと、エルヴィラは首を傾げる。
 吟遊詩人はちやほやされるのが仕事じゃなかったっけ? と。

「歌で知名度が上がるのはいいんだよ。だけど、今回は違うだろう?」
「ん……」

 たしかに、ミーケルを訪ねてくるのはむくつけき騎士とか兵士ばかりなのだ。しかも、あのミーケルの戦いぶりを見てちょっと物申す、というほうの。

 彼らの言うように、ミーケルの戦い方は騎士や戦士の戦い方ではなかった。だが、それに文句を言っていいのは勝った者だけなのではないだろうか。
 敗者が文句を言ってもただの負け惜しみだし、ましてや当事者でないものに何か言う権利などないだろう。

 あの戦いについて、何か言えるのは戦う前のオーウェンだけだったはずだ。
 いちど受け入れたくせに負けて文句を言うのは言語道断だし、ましてや外野が口を出すなんて見当違いも甚だしい。
 ――そもそも、オーウェン自身が負けは負けだと潔く受け入れてたではないか。

「もう面倒だから、今のうち、冬が来る前に別なところに行こうと思うんだよ」

 この辺りは海のそばで暖かいから冬越しに良かったんだけどね、と欠伸をしながらミーケルは行儀悪く長椅子にごろりと横になってしまう。

「じゃあ、どこで冬を越すんだ?」

 ミーケルはちらっと何か考えるように宙を見つめてから、首を傾げるエルヴィラに手招きした。すぐさまいそいそと寄ってきたエルヴィラを長椅子に座るように示して、その膝に頭を乗せた。

 あ、これすごくいい、とエルヴィラはミーケルを見下ろしながらドキドキしてしまう。膝の上の頭の重みと手に触れる柔らかい黒髪がすごくいいのだ。
 これからはなるべく膝枕これをやろうとエルヴィラは心に決める。

「そうだなあ、そろそろ山のものが食べたいな。ちょっと内陸のほうに行こうか……森があるところがいいかな。冬を迎えて獣が肥る季節だしね」
獣肉ジビエか!」

 たしかに、今は最後の狩りの季節だ。最初の雪が舞う直前の、冬籠り前の獲物がよく肥えて一番おいしくなる季節なのだ。

「いいな! この季節の兎や鹿はすごくおいしいぞ!」
「だろう?」

 たちまち涎を垂らしそうな顔で獣肉料理をあれこれ数え上げ始めるエルヴィラに、くすりと笑う。
 ミーケルはゆっくり上半身を起こすとエルヴィラの顎に手を添えて……ぐいと顔を近付けた。

「で、ヴィー、ここ最近また余計なことを考えてただろう?」
「……う」

 鼻がぶつかりそうな距離でにっこり微笑まれて、エルヴィラは思わず目を逸らす。
 このまま黙ってたら見逃してくれないかなと思ったが、にこにこと微笑みながらじっと見つめ続けるミーケルに、エルヴィラはとうとう観念した。
 そもそも、ミーケルを相手にエルヴィラがごまかし通せるわけがない。

「――ミケには、護衛なんていらないんじゃないかって」

 きょろきょろと目をあちこちに泳がせるエルヴィラに、ミーケルは顔を顰めた。
 思った通り、やっぱり面倒なことを考えていたか。

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