クソイケメンな吟遊詩人にはじめてを奪われて無職になったので、全力で追いかけて責任取らせます

ぎんげつ

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鹿角の町

味見

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 ミーケルにぺったりとくっついて、匂いをいっぱいに吸い込んで、自分より少しだけ高い体温を感じて、回した手から身体の厚みを感じて、耳に心地よく響く声を感じて、幸せだなと考える。
 そのミーケルはといえばもうずっと、考えるように羽根ペンの羽根を齧ってみたり、じっと宙を睨んだり、それから何か思いついたように急にカリカリとペン先で羊皮紙を引っ掻いてみたりを繰り返している。

「ねえ、ずっとくっついてて飽きないの?」
「全然飽きない」

 エルヴィラはずっとにまにましながら、ひたすらミーケルの隣に座ってくっついている。ミーケルは卓上の羊皮紙とにらめっこを続けたまま、エルヴィラの頭をぽんぽんと叩く。
 冬越しで一箇所にじっと落ち着いてる間、仕事がないときのミーケルは、たいていこんな風に詩や歌を書き起こしたり纏めたりしているのだ。

 今年は歌姫の手記の写しが手に入った。
 それに、エルヴィラがやらかしたクラーケンやアライトとの一騎打ちに“三首竜の町”での一件に屍竜に……と、題材には事欠かないほどいろいろあった。
 これまで見聞きしただけで頭の中に留め置いただけのものを、きちんと整理して吐き出して聴かせられるものにまとめるのも、立派な詩人の仕事なのだ。

「私がミケの作った歌の最初の聴き手になるんだ」
「はいはい」

 羊皮紙に集中したまま生返事を返すミーケルに、頭を擦り付ける。
 半ば無意識になのか、またぽんぽんと自分の頭を叩くミーケルに、エルヴィラはにひゃりと笑う。
 そして、羊皮紙を睨んでいたと思ったら急に傍らのリュートを取って和音を二、三鳴らしてみたり、ぶつぶつと口ずさんでみたり――歌を作るのもなかなかに大変なのだなと思いつつ、エルヴィラは目を瞑った。



「あれ」

 いつの間にうとうとしてしまったのか、ミーケルの脚に頭を乗せて寝ていることに気付いた。そしてミーケルはというと、クッションをいくつも重ねて肘掛けに寄りかかるようにやっぱり寝ていた。
 卓上には書き散らして丸めた羊皮紙が何枚も散らばっている。

 部屋の中は既に薄暗く、日もだいぶ傾いていた。

 頭を持ち上げてきょろきょろとしていると、ミーケルが「ん……」と唸る。
 まだ目が覚めてないのか、むにゃむにゃと何か口の中で呟くような声に続いて、ぐいとエルヴィラを引き寄せようとする。エルヴィラはまたにまにまと笑って、引き寄せられるままに身体をずり上げた。

 これすごくいいかも、なんて考えながら。

 引き寄せられて抱えられて、エルヴィラはさらにミーケルにくっついた。
 長椅子の上はさすがに狭い。けれど、この狭さがいい。
 長椅子から転げ落ちないようにぴったりと身体を寄せて、エルヴィラはさらにミーケルのあれこれを堪能する。寝ぼけてなのか、ぎゅ、と抱き締められて、またにひゃっと笑ってしまう。
 こうやってのんびりするのはほんとうに、とてもとてもいいことだ。

 ぐりぐり頭を擦り付けるとミーケルの腕に力がこもった。またもごもごと何かを口の中で呟きながら、エルヴィラの頭にキスまでしてくる。
 寝ぼけたミーケルは最高かもしれない。
 エルヴィラはそこまで考えて、起こさないようにゆっくりと身体をずり上げ、ミーケルの肩口に顔を埋めた。

 ミーケルの匂いがする。
 どうしよう、齧りたい。

 緩めた襟元から覗く首筋を目の前に眺めているうちに、エルヴィラはだんだんドキドキしてきた。
 キスしたり齧ったりしてもいいかな。起きちゃうだろうか。

 ──いいや齧っちゃえ。

 少しだけ逡巡してから、エルヴィラは思い切ってぱくっとミーケルの首に齧り付いた。齧り付くといっても歯は立てないのだけれど。

「ん」

 ミーケルがわずかに身動ぎしつつ微かに声と吐息を漏らした。慌てて身体を離そうとしたら、エルヴィラを抱える腕の力が強くなった。
 このままくっついてていいのかな。
 またもぞもぞとミーケルの首に顔を埋める。

 ずっとこんなのが続くといいな。
 エルヴィラはもう一度ぱくりとミーケルの首に齧り付いた。やわやわ齧り続けていると、ミーケルが、ふう、とまた吐息を漏らして腕の力を強める。
 今度はもがいても外れない。

「ん……なに?」 

 とうとう目を覚ましたミーケルが薄目を開ける。
 慌てて顔を上げたエルヴィラの背をそのままするっと撫で上げて頭の後ろに手を添えると、ちゅ、と唇を啄ばんだ。
 まだ目が覚めきってはいないのか、半分寝ぼけた顔のままなのに、「何してたの」とまたキスをした。

「う……あの、だな」
「ん?」

 真っ赤になったエルヴィラがなんとか言い訳を探そうと必死にあうあう言葉を探す。薄目のままミーケルは笑って、もう一度「何してたのか、言ってごらん」とキスをした。

「な、なんか、いい匂いがするから、おいしいのかなって」
「それで、おいしかった?」
「う……み、ミケだから、おいしいに、決まってる」

 くすくす笑いながら訊かれて、エルヴィラはますます赤くなってしまう。
 そんなエルヴィラの唇を塞いで、ミーケルは本格的にキスをした。舌を絡めて十分に口内を舐って……唇を離して吐息のかかる距離で、そっと囁く。

「なら、もっとちゃんと味見してみたら?」
「ちゃんと、って……」

 ちょんとまた唇を啄ばんで、真っ赤なまま視線を泳がせるエルヴィラに笑う。

「そう、ちゃんと。ヴィーの好きなところを好きなだけ味見していいよ」
「ん……好きな、とこって」
「ヴィーが味見をしたいところ」

 エルヴィラを身体の上に乗せるようにして、ミーケルが仰向けになった。

「おいで」

 促されてさらに血が上る。たぶん、耳の先まで真っ赤になっているだろう。
 それに、好きなところって、いったいどこを?

「さっきは首だったっけ? 迷うなら、そこから始めるかい?」

 ミーケルが、自分の首に押し付けるようにエルヴィラの頭を抱き寄せる。

「ほら、味見してごらん」

 エルヴィラはごくりと唾を飲み込み、ぱくりと口を開けて齧りつく。やわやわ甘噛みするように唇を動かして……それからおずおずと舌先でなぞった。

「そ、上手だよ」

 は、と漏らされたミーケルの吐息が熱い。
 優しく頭から背へと撫でられて、これ以上ないくらいにドキドキしてしまう。身体の奥に何か、よく馴染んだような初めてのような、不思議な感覚が駆け抜ける。
 音を立てて舌を這わせ始めてすぐ、エルヴィラの息も荒くなっていった。

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