クソイケメンな吟遊詩人にはじめてを奪われて無職になったので、全力で追いかけて責任取らせます

ぎんげつ

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深淵の都

ラスボス登場

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「――ふたりとも、勝負なら明日になさい」

 はあ、という溜息と共に声がかかる。背筋がすっと伸びた、エルヴィラに似た面持ちの女性がいつの間にか現れていた。
 振り向いたソールとエルヴィラが、たちまちびしっと直立不動の姿勢を取る。

「……は、母上」
「すみません。久し振りで、つい……」
「いつまでも来ないと思ったら、まったくお前たちはいくつになっても……今日はそのために来たのではないでしょうに」
「は、はい」

 きびきびとした足取りでミーケルとエルヴィラの前に立つと腰を落として礼を取る。

「カーリス家が当主クィンシーの妻、コンスタンスと申します」

 ミーケルも最敬礼を返す。

「かつて在りし“嵐の国”救国の女王ウルリカの末裔にして“深森の国”伯爵位を戴くストーミアン家が当主アルヴァーと、“嵐の国”王室付魔術師を務めたフォルダール家の娘ベリトの長男、オスヴァルト・ストーミアンです。“深淵の都”にも名高きカーリス家への訪問をお許し戴き、恐悦至極に存じます」
「こちらこそ、丁寧な名乗り、痛み入ります。
 さあ、立ち話はここまでにして、奥へ参りましょう」

 先に立って歩き出すコンスタンスの後に、エルヴィラとミーケルも続く。ソールは励ますようにエルヴィラの肩をぽんと叩いた。


 * * *


 部屋に通されたものの、クィンシーが来るまで話すことは何も無いと言われ、ただじっと待った。
 母と向かい合ったまま、出された茶もまともに喉を通らず、エルヴィラは父がすぐに帰るようにとひたすら祈る。
 実際には四半刻三十分も掛からないほどの時間だったが、エルヴィラにはとてつもなく長い時間のように思えた。

「待たせたな」

 ノックに続いてようやくクィンシーが現れて、エルヴィラはほっと息を吐いた。

「いえ。昼間は教会にて失礼しました。本日は訪問のお許しをいただき、まことに感謝しています」

 すっと腰を上げたミーケルに合わせ、エルヴィラも慌てて立ち上がる。改めてクィンシーへの礼を示して、ミーケルは人好きのする微笑みを浮かべた。
 普段とても適当な態度のミーケルばかりを見ていたが、さすがにこういう場では作法通りの所作を難なくこなせるのかと、エルヴィラは感心する。
 やっぱりミーケルはすごい。

「それで、話があるそうだが?」

 話の内容などとっくにわかっていたが、クィンシーは改めてミーケルに尋ねた。
 じろりと睨むような視線をしっかり受け止めて、ミーケルは「はい」と頷く。

「カーリス家当主たるクィンシー司教に、エルヴィラ嬢との結婚を認めていただきたいのです」

 単刀直入に過ぎるミーケルの言葉に、クィンシーは小さく息を呑む。
 エルヴィラはあくまでもにこやかなミーケルの顔をじっと見つめて、それから父へと視線を移し……期待に輝く目で、父が是と口に出すのを待つ。

「オスヴァルト・ストーミアンと仰いましたね?」

 けれど、クィンシーが何かを述べる前に口を開いたのは、母コンスタンスだった。

 にっこりと微笑みつつカップからひと口ゆっくりと茶を飲んで喉を湿し、コンスタンスは続ける。

「もし、許さないと申しましたら、いかがなさるおつもりですか?」
「は、ははう……」

 とたんに泣きそうな顔でおろおろと狼狽えるエルヴィラを落ち着かせるように背を叩き、ミーケルはコンスタンスへ微笑みを返す。

「許さないと言われたら……そうですね、その時はエルヴィラを攫います」
「攫うのですか?」

 まあ、と目を瞠るコンスタンスに微笑みを浮かべたまま頷くミーケルを、エルヴィラがぱっと見上げた。

「我が祖である救国の女王ウルリカを、悪魔の巣食う王宮より連れ出した偉大なる父祖竜に倣い、エルヴィラを攫って逃げようと思います」

 きらきらと目を輝かせ、エルヴィラはミーケルを見つめた。
 やっぱりミーケルは頼りになる。そうか、だめなら攫われればいいのか。
 エルヴィラは嬉しさのあまりぶるぶる震え、がっちりミーケルに抱きついた。

「まかせろミケ! しっかり攫われてやるからな!」
「ちょ、ヴィー、落ち着いて。苦しいから。あと攫うはものの喩えだから」

 抱きつくエルヴィラの腕をなんとか外し、またとんとんと背中を叩く。

「父上、母上、許してくれないなら、私はミケに攫われるからな! 許すなら今のうちだ。あとは無いぞ!」

 すくっと立ち上がって高らかに宣言するエルヴィラに、ミーケルが引き攣る。
 だからどうしてそうなるんだ。
 喩えって言ってるじゃないか。
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