クソイケメンな吟遊詩人にはじめてを奪われて無職になったので、全力で追いかけて責任取らせます

ぎんげつ

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鹿角の町

ゆるゆると

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 昼を回った頃、ようすを見に行くと、アライトはだらしなく顔を緩めたまま産まれた赤ん坊につききりになっていた。女の子なんだとでれでれしっ放しのアライトに、名前は決まったのかとミーケルが尋ねる。

「おう、決まったぞ。“シルヴァーナ”だ」
森の娘シルヴァーナか。青銅竜の子らしい名前だね」

 まだ小さな瘤にしか見えない角と申し訳程度に背にくっついている翼は、これから成長とともにどんどん大きくなるのだという。身体を覆う小さな鱗はとても滑らかで、太陽の光を反射してキラキラと明るい金茶に輝いていた。

「顔はイヴリンっぽいな。髪もイヴリンみたいな金だ」
「だろう? イヴリンに似て美人になるぞ。角も翼もいい形だしな。尻尾も長くてまっすぐで綺麗なんだ」

 目尻の下がりきったアライトは、竜は数日眠らなくても平気だからと、しばらくずっと、イヴリンと子供の世話に終始するつもりのようだ。
 そのイヴリンはさすがに消耗したのか、赤ん坊に乳をやる以外は何もかもをアライトに任せてずっと寝たきりだった。

「数日は寝たままゆっくり休めって、司祭様にも言われたのよ」

 ふう、と息を吐きながら、イヴリンが言う。

「それに、今産まれてくれて良かったみたい。これ以上育ってからだと、かなりの難産になったろうって」

 お包みに包まれた赤ん坊を抱いて、イヴリンはくすくすと笑う。

「だから、まあ、エルヴィラの怪我の功名ってとこね」

 赤ん坊もイヴリンも無事でほんとうによかったと、エルヴィラはほっとする。

 いかに司祭が付いていても、やはりお産で生命を落とすものは多いのだ。傷や病気を治す神術はあるが、お産は怪我でも病気でもない。誕生と死は神の手の中だ。
 それに、まんいちの場合に“蘇生”の神術で母親は取り戻せても、信仰が定まる以前の、神々の庇護を受けていない赤ん坊を蘇生してくれる神はいないのだ。

「ねえ、エルヴィラ。あんたどうせしばらく旅はできないんでしょう? なら、子供が産まれるまでうちにいなさいよ」
「えっ」
「それは、さすがに迷惑なんじゃ?」

 イヴリンの言葉にさすがのエルヴィラも驚く。ミーケルですら、遠慮の言葉を口にする。

「……なんていうかね、心配なのよ。あんた全然常識がないでしょ? ほっといたら、妊婦のくせに平気で騎士の鍛錬とか続けそうじゃないの。下手したらアライトにくっついて森の大掃除にまで出かけそうよね」
「うっ」

 実際やろうと考えていたことを言い当てられて、エルヴィラは言葉に詰まる。ミーケルは「まあ、ね」と宙を睨むように視線を泳がせる。

「それに、しばらくは私もアライトも子供にかかりきりになっちゃうし……家事を手伝って貰えたらありがたいなと思って」
「そ、それなら任せろ!」
「でも、無理のない程度でいいからね?」
「ああ!」

 ほっとしたように笑うエルヴィラに、イヴリンも安堵の吐息を漏らす。ほんとうに、妹というより目が離せない娘みたいじゃないかと考えながら。



 毎日毎日、アライトは甲斐甲斐しくご飯を食べさせたり水を飲ませたりと、イヴリンと子供に必死だ。
 イヴリンも昼となく夜となく少し休んでは赤ん坊に乳をやってを繰り返すうちに、「だんだん今がいつなのかわからなくなってきたわ」と言いだした。
 疲れてとても眠いはずなのに、赤ん坊の声が少しでも聞こえると、とたんにぱっと目が覚めてしまうらしい。

 エルヴィラも掃除やら洗濯やらの家事を頑張った。もともと体力だけはあるので、家事程度ではさほど身体に響かないようだ。
 アライトはイヴリンの食事や赤ん坊の世話やらで忙しいし、ミーケルはそれに関しては役に立たない。必然的にそこはエルヴィラの仕事になったのだ。
 ただ、よくしたもので、やっぱりだらだらしているだけに思えたミーケルも、赤ん坊がぐずったといっては呼ばれて子守唄を歌う仕事が任されるようになった。
 ミーケルの子守唄は効果覿面らしい。

「僕の歌に慣れたら、そこらの子守じゃ満足できなくなるよ」
「いいじゃないか。耳が肥えたらすごい吟遊詩人になれるかもしれないぞ」

 そんなこと言ったところで、弟子なんか取らないよとミーケルは肩を竦める。



 そうやって、ふたりは結局イヴリンの申し出のままに、家事手伝いをしながらアライトの屋敷に滞在していた。
 このまま数年、子供が育つまで留まるなら、準備をしなけりゃいけないな……と考えながら。
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