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師匠と弟子
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氷原に出て、三日が過ぎた。
まずはとにかくひとりでも野営ができるようにならなきゃいけないと、エリサは野営地の見定めかたから始めて、火のおこし方、燃料をくべるタイミング、熾火の作り方……等々、野宿をするための技術ばかりを教わった。
このあたりは平坦だから、遠くまで見通せる。万が一の何かがあってはぐれたとしても、火をおこせれば、その煙や明かりを目印に探すことだってできるのだから。
そう言われてのことだ。
食事は、ヴァロとフロスティが獲った獲物と、そのついでに集めた野草や果実だ。
夏の終わりは一年で一番いろいろな実りが期待できる時期でもある。エリサも“谷”にいた頃は、放牧地との往復の合間に食べられる野草を摘んだり木の実を集めたりしたものだった。
――もう、ヴァロが半分妖精だなんてことはどうでもよくなっていた。
取り替えられることを心配するより、もっと考えなきゃいけないことも覚えなきゃいけないことも多かった。
野営で煮炊きに使うのは、泥炭とヴァロの持っている携帯燃料が中心で、薪ではない。こんな氷原で、木は貴重品なのだ。
もちろん、海岸沿いや山のそばなら針葉樹林もあるし、薪だって十分集められる。けれど、そうでもなければ十分な量の枯れて乾燥した低木や草があることなんてめったにない。
だから、ヴァロが持ち歩くのは、練炭と呼ばれる砕いた石炭と木炭を混ぜて固めた携帯用の燃料だった。
領主から支給された専用の燃料入れに、おおよそ十日分ほど入っているという。
ヴァロの腰に下がった袋は、どう見てもひと塊の羊肉だけでいっぱいになってしまいそうな大きさだ。そんなにたくさん? と驚くエリサに、ヴァロは「領主が魔術師である利点のひとつだよ」と片目を瞑ってみせた。
しかし、それでも手持ちの燃料だけで氷原を歩くには限界がある。
だから、ヴァロのようにこの地域を巡回する野伏や斥候兵のため、燃料を蓄えた小屋があちこちに用意されていた。
最初に訪れた燃料小屋は町からほんの一日程度の場所だった。そこに蓄えられていたのは割っただけの石炭で、夏の間に町から運び込むらしい。
町から離れた小屋は、たいてい湿地の近くに建てられている。湿地から泥炭を小さく切り出して乾かしたものを貯めておくためだ。
天候が許すなら使った分の泥炭を切り出して干していくこと、自分の手持ちに余分があるときはその余分を残していくこと……このふたつが小屋を利用する者に課せられたルールなのだと、ヴァロは説明する。
だいたい、石炭が置いてある小屋にしたって、町からの補充は夏場だけだ。冬はそうもいかない。氷嵐からの避難場でもあるここの燃料が無くなれば、氷原を歩く野伏や斥候たちの死活問題となる。
もちろん、獣や蛮族に荒らされて根こそぎなくなることも少なくない。
だがそれでも、こういう場所に貯蔵することを止めてしまえば、安全に氷原を歩くことが難しくなってしまうのだ。
「こういう小屋は、あちこちに隠れるように作ってあって、しかも結構頑丈なんだ。氷嵐や吹雪が来そうな時には逃げ込めるようにもなっている」
エリサは説明を受けながら、小屋に積まれた石炭に目を丸くして見入っていた。
石炭を掘り出すのは重労働で、それ故に贅沢品だ。火をつければ鉄を溶かせるくらい熱くなるからと、谷では鍛治師にばかり融通されていた。
だから、こんなに積み上がった石炭を見たことなんて、一度もない。
夏に切り出して乾かした泥炭を、冬は一度に使い過ぎないよう、慎重に量を配分して家族で固まって暖を取るというのが、エリサの普通の生活だったのだ。
「こんなにたくさん、初めて見た」
「町からあまり遠くない場所に炭鉱があるから……というか、炭鉱があるから町を作ったっていう方が正確かな」
「そうなの?」
「炭鉱がなければ、こんな北の地を開拓しようなんて、さすがのユースダール家でも考えなかっただろうね」
炭鉱が石炭を掘り出すための場所だということは、エリサでも知っている。
町の人間は、石炭目当てでこの北にまで来たということなのか。
北壁山脈の北側は見渡す限りの平原で、冬が来ればそこにあるすべてが凍りついてしまう。そのさらに北は、一年を通して凍りついた海と凍ったままの土と分厚い氷だけの世界だと言われている。
その氷しかない北の果てには、氷原の民とはまた違う変わった人間が、鯨や海豹を獲って暮らしている。
そう、谷の婆様が言ってた。
霜巨人や氷竜の国もあるのだと。
だから、“女王”を崇める氷原の民以外にわざわざ北に来たがる人間がいるなんて、思いもしなかった。
石炭にはそこまでの価値があるということか。
エリサは氷原を出たことなんてない。
夏場に谷の近辺の草地で羊の世話をするのがせいぜいだったし、町から谷の間を歩いたことしかないのだ。
それから何日も何日も、草原や針葉樹の森の様子、それから湿原の状態を確認しながら、ヴァロとエリサは移動を続けた。
移動しながら、ヴァロはそこで何を見るべきかを丁寧に説明してくれた。実際に見せてもくれた。
けれど、だからといってなかなか覚えられるものでもない。
それでも、ヴァロは見つけたものをすべて――獣の残した形跡や、この地を通った何者かの残したものなど、とにかく気づいたもの全部をエリサに見せては、それがいったい何なのかを教えてくれる。
「エリサ、来てごらん。ほかの野伏が残した印があるよ。どうやら雪熊がこの先に巣を作ったらしい」
「雪熊? 狩るの?」
「いや。その必要はないな」
ふうん、とエリサは首を傾げる。
いくつかの小石と結んだ草、それから手のひらにすっぽり収まる程度の小枝を組み合わせただけで、どうしてそこまでわかるのだろう。
不思議そうに印を見つめるエリサに、ヴァロはくすりと笑ってひとつひとつを指し示した。
「この石の並べ方は動物を示してる。石の数は大きさで、結んだ草は巣、小枝は方角だ。だから、これだけだと“東の方角に大きな動物の巣”と示してるだけに過ぎない」
ヴァロは、置いてあった印を動かした。
「石ひとつなら人間より小さい、ふたつなら人間くらい、三つなら人間の倍……という調子で、大まかな大きさを伝えるんだ。それとは別に、ここにこう並べれば、四つ足の獣、この形なら竜、こうすると巨人……と、並べ方でどんなものがいるかも変わる」
すごい、とエリサは目を瞠る。
ちょっとした組み合わせ方で意味が変わるなんで、刺繍の呪い模様のようだ。
「さっきの印だと、馬二頭分くらいの大きさの動物だ。このあたりに巣をつくるなら、大きさから考えて雪熊が妥当なところだろう」
「ヴァロさんは、氷原のこと、神子様や族長よりも知ってるの?」
「それはどうだろうね?」
ヴァロはまた笑って肩を竦める。
「私は氷原のごく一部を歩いてるだけだから、まだまだ知らないことは多いよ。
ともあれ、こういう印を残す場所は、だいたい決めてあるんだ。万が一……自分が帰れなかった時のために、気になることは必ず残しておかなきゃいけない」
「――万が一?」
軽い調子で続けるヴァロに、エリサはごくりと喉を鳴らす。
考えてみれば、こうして外を歩く間、狼や鳥の気配はあったけれど、ヴァロ以外の人に会うことはなかった。
「各人の受け持つ地域は完全に別ではなくて、少しずつ重なり合ってるんだ。だから、こうしておおよその場所を決めて連絡を取り合ったりもするんだよ」
ヴァロは小石と小枝を、また別な形に並べた。
「氷原は危険な場所だ。君も知ってるように、獣や竜、巨人だっている。嵐も来る。だから、もしもの時には警告を伝えられるようにと、こうして印を残すんだ。それに、君も、残された印を見つけられるようにならなきゃいけない。
――これは、この先に大きな危険があるという印だ。滅多に使うことはないが、これを見つけたら、絶対に示された方角へ行ってはいけないという印だ」
そう言って、ヴァロは置かれた印の意味を説明する。
「それから、これは助けを求めているという印。けれど、この印を見つけたら、助けに向かうより先にまず狼煙を焚くこと。狼煙は最初に町を出る時に渡したね?」
こくんと頷いて、エリサは腰に下げた小さな革の袋を見た。
なるべく長く、煙がたくさん出るようにと石炭と薬品を調合して固めた、専用の燃料を入れた袋だ。
「それから、かならず周囲を確認すること。もしかしたら、印を置いた者が狼煙を焚いているかもしれない。
ただし、煙があっても、やはり迂闊に駆けつけてはいけない。身を隠しながら慎重に、状況を確認をするんだ」
エリサはもう一度頷く。
簡単な身の隠し方は教えられたけど、うまくできるだろうか。
「そんなに心配することはないよ。これから最低五年は、私の弟子として行動を共にするんだから、君ひとりでそういう事態になることはほぼないと言っていい。それにフロスティもいる。何か危険があれば、最初にフロスティが気付いて教えてくれるよ」
エリサがほっとしたよう息を吐くと、ヴァロはまた笑って、「それじゃ、雪熊のようすを確認に行こうか」と頭をポンと叩いた。
歩き出しながら、エリサは少し先を歩くヴァロを見つめる。
「ねえ、ヴァロさん」
「ん?」
足を緩めて、ヴァロはちらりと振り返った。
「――私、野伏になるといいって言われたけど、斥候と野伏ってどう違うの?」
「ああ……」
そうか、たしかにそんな話はしたことがなかったなと、ヴァロは空を見上げる。どう説明すれば、わかるだろうかと。
「まず、斥候は文字通りだよ。軍や警備の一兵で、偵察とか捜索とか……戦いの時はこっそり敵情を確認に行ったりする、そういうのを専門とする役割の兵だ」
「うん」
「野伏は……ちょっと難しいな。私は領主に兵として雇われて斥候もどきな仕事をしてるけど、野山で気ままに生きているのが本来の姿だとは思う」
「気ままに?」
「そう――本当は、宮仕えしたり町で暮らしたりっていうのは、私も苦手なんだ」
「ええ?」
驚くエリサに、ヴァロは困ったように眉尻を下げた。
まずはとにかくひとりでも野営ができるようにならなきゃいけないと、エリサは野営地の見定めかたから始めて、火のおこし方、燃料をくべるタイミング、熾火の作り方……等々、野宿をするための技術ばかりを教わった。
このあたりは平坦だから、遠くまで見通せる。万が一の何かがあってはぐれたとしても、火をおこせれば、その煙や明かりを目印に探すことだってできるのだから。
そう言われてのことだ。
食事は、ヴァロとフロスティが獲った獲物と、そのついでに集めた野草や果実だ。
夏の終わりは一年で一番いろいろな実りが期待できる時期でもある。エリサも“谷”にいた頃は、放牧地との往復の合間に食べられる野草を摘んだり木の実を集めたりしたものだった。
――もう、ヴァロが半分妖精だなんてことはどうでもよくなっていた。
取り替えられることを心配するより、もっと考えなきゃいけないことも覚えなきゃいけないことも多かった。
野営で煮炊きに使うのは、泥炭とヴァロの持っている携帯燃料が中心で、薪ではない。こんな氷原で、木は貴重品なのだ。
もちろん、海岸沿いや山のそばなら針葉樹林もあるし、薪だって十分集められる。けれど、そうでもなければ十分な量の枯れて乾燥した低木や草があることなんてめったにない。
だから、ヴァロが持ち歩くのは、練炭と呼ばれる砕いた石炭と木炭を混ぜて固めた携帯用の燃料だった。
領主から支給された専用の燃料入れに、おおよそ十日分ほど入っているという。
ヴァロの腰に下がった袋は、どう見てもひと塊の羊肉だけでいっぱいになってしまいそうな大きさだ。そんなにたくさん? と驚くエリサに、ヴァロは「領主が魔術師である利点のひとつだよ」と片目を瞑ってみせた。
しかし、それでも手持ちの燃料だけで氷原を歩くには限界がある。
だから、ヴァロのようにこの地域を巡回する野伏や斥候兵のため、燃料を蓄えた小屋があちこちに用意されていた。
最初に訪れた燃料小屋は町からほんの一日程度の場所だった。そこに蓄えられていたのは割っただけの石炭で、夏の間に町から運び込むらしい。
町から離れた小屋は、たいてい湿地の近くに建てられている。湿地から泥炭を小さく切り出して乾かしたものを貯めておくためだ。
天候が許すなら使った分の泥炭を切り出して干していくこと、自分の手持ちに余分があるときはその余分を残していくこと……このふたつが小屋を利用する者に課せられたルールなのだと、ヴァロは説明する。
だいたい、石炭が置いてある小屋にしたって、町からの補充は夏場だけだ。冬はそうもいかない。氷嵐からの避難場でもあるここの燃料が無くなれば、氷原を歩く野伏や斥候たちの死活問題となる。
もちろん、獣や蛮族に荒らされて根こそぎなくなることも少なくない。
だがそれでも、こういう場所に貯蔵することを止めてしまえば、安全に氷原を歩くことが難しくなってしまうのだ。
「こういう小屋は、あちこちに隠れるように作ってあって、しかも結構頑丈なんだ。氷嵐や吹雪が来そうな時には逃げ込めるようにもなっている」
エリサは説明を受けながら、小屋に積まれた石炭に目を丸くして見入っていた。
石炭を掘り出すのは重労働で、それ故に贅沢品だ。火をつければ鉄を溶かせるくらい熱くなるからと、谷では鍛治師にばかり融通されていた。
だから、こんなに積み上がった石炭を見たことなんて、一度もない。
夏に切り出して乾かした泥炭を、冬は一度に使い過ぎないよう、慎重に量を配分して家族で固まって暖を取るというのが、エリサの普通の生活だったのだ。
「こんなにたくさん、初めて見た」
「町からあまり遠くない場所に炭鉱があるから……というか、炭鉱があるから町を作ったっていう方が正確かな」
「そうなの?」
「炭鉱がなければ、こんな北の地を開拓しようなんて、さすがのユースダール家でも考えなかっただろうね」
炭鉱が石炭を掘り出すための場所だということは、エリサでも知っている。
町の人間は、石炭目当てでこの北にまで来たということなのか。
北壁山脈の北側は見渡す限りの平原で、冬が来ればそこにあるすべてが凍りついてしまう。そのさらに北は、一年を通して凍りついた海と凍ったままの土と分厚い氷だけの世界だと言われている。
その氷しかない北の果てには、氷原の民とはまた違う変わった人間が、鯨や海豹を獲って暮らしている。
そう、谷の婆様が言ってた。
霜巨人や氷竜の国もあるのだと。
だから、“女王”を崇める氷原の民以外にわざわざ北に来たがる人間がいるなんて、思いもしなかった。
石炭にはそこまでの価値があるということか。
エリサは氷原を出たことなんてない。
夏場に谷の近辺の草地で羊の世話をするのがせいぜいだったし、町から谷の間を歩いたことしかないのだ。
それから何日も何日も、草原や針葉樹の森の様子、それから湿原の状態を確認しながら、ヴァロとエリサは移動を続けた。
移動しながら、ヴァロはそこで何を見るべきかを丁寧に説明してくれた。実際に見せてもくれた。
けれど、だからといってなかなか覚えられるものでもない。
それでも、ヴァロは見つけたものをすべて――獣の残した形跡や、この地を通った何者かの残したものなど、とにかく気づいたもの全部をエリサに見せては、それがいったい何なのかを教えてくれる。
「エリサ、来てごらん。ほかの野伏が残した印があるよ。どうやら雪熊がこの先に巣を作ったらしい」
「雪熊? 狩るの?」
「いや。その必要はないな」
ふうん、とエリサは首を傾げる。
いくつかの小石と結んだ草、それから手のひらにすっぽり収まる程度の小枝を組み合わせただけで、どうしてそこまでわかるのだろう。
不思議そうに印を見つめるエリサに、ヴァロはくすりと笑ってひとつひとつを指し示した。
「この石の並べ方は動物を示してる。石の数は大きさで、結んだ草は巣、小枝は方角だ。だから、これだけだと“東の方角に大きな動物の巣”と示してるだけに過ぎない」
ヴァロは、置いてあった印を動かした。
「石ひとつなら人間より小さい、ふたつなら人間くらい、三つなら人間の倍……という調子で、大まかな大きさを伝えるんだ。それとは別に、ここにこう並べれば、四つ足の獣、この形なら竜、こうすると巨人……と、並べ方でどんなものがいるかも変わる」
すごい、とエリサは目を瞠る。
ちょっとした組み合わせ方で意味が変わるなんで、刺繍の呪い模様のようだ。
「さっきの印だと、馬二頭分くらいの大きさの動物だ。このあたりに巣をつくるなら、大きさから考えて雪熊が妥当なところだろう」
「ヴァロさんは、氷原のこと、神子様や族長よりも知ってるの?」
「それはどうだろうね?」
ヴァロはまた笑って肩を竦める。
「私は氷原のごく一部を歩いてるだけだから、まだまだ知らないことは多いよ。
ともあれ、こういう印を残す場所は、だいたい決めてあるんだ。万が一……自分が帰れなかった時のために、気になることは必ず残しておかなきゃいけない」
「――万が一?」
軽い調子で続けるヴァロに、エリサはごくりと喉を鳴らす。
考えてみれば、こうして外を歩く間、狼や鳥の気配はあったけれど、ヴァロ以外の人に会うことはなかった。
「各人の受け持つ地域は完全に別ではなくて、少しずつ重なり合ってるんだ。だから、こうしておおよその場所を決めて連絡を取り合ったりもするんだよ」
ヴァロは小石と小枝を、また別な形に並べた。
「氷原は危険な場所だ。君も知ってるように、獣や竜、巨人だっている。嵐も来る。だから、もしもの時には警告を伝えられるようにと、こうして印を残すんだ。それに、君も、残された印を見つけられるようにならなきゃいけない。
――これは、この先に大きな危険があるという印だ。滅多に使うことはないが、これを見つけたら、絶対に示された方角へ行ってはいけないという印だ」
そう言って、ヴァロは置かれた印の意味を説明する。
「それから、これは助けを求めているという印。けれど、この印を見つけたら、助けに向かうより先にまず狼煙を焚くこと。狼煙は最初に町を出る時に渡したね?」
こくんと頷いて、エリサは腰に下げた小さな革の袋を見た。
なるべく長く、煙がたくさん出るようにと石炭と薬品を調合して固めた、専用の燃料を入れた袋だ。
「それから、かならず周囲を確認すること。もしかしたら、印を置いた者が狼煙を焚いているかもしれない。
ただし、煙があっても、やはり迂闊に駆けつけてはいけない。身を隠しながら慎重に、状況を確認をするんだ」
エリサはもう一度頷く。
簡単な身の隠し方は教えられたけど、うまくできるだろうか。
「そんなに心配することはないよ。これから最低五年は、私の弟子として行動を共にするんだから、君ひとりでそういう事態になることはほぼないと言っていい。それにフロスティもいる。何か危険があれば、最初にフロスティが気付いて教えてくれるよ」
エリサがほっとしたよう息を吐くと、ヴァロはまた笑って、「それじゃ、雪熊のようすを確認に行こうか」と頭をポンと叩いた。
歩き出しながら、エリサは少し先を歩くヴァロを見つめる。
「ねえ、ヴァロさん」
「ん?」
足を緩めて、ヴァロはちらりと振り返った。
「――私、野伏になるといいって言われたけど、斥候と野伏ってどう違うの?」
「ああ……」
そうか、たしかにそんな話はしたことがなかったなと、ヴァロは空を見上げる。どう説明すれば、わかるだろうかと。
「まず、斥候は文字通りだよ。軍や警備の一兵で、偵察とか捜索とか……戦いの時はこっそり敵情を確認に行ったりする、そういうのを専門とする役割の兵だ」
「うん」
「野伏は……ちょっと難しいな。私は領主に兵として雇われて斥候もどきな仕事をしてるけど、野山で気ままに生きているのが本来の姿だとは思う」
「気ままに?」
「そう――本当は、宮仕えしたり町で暮らしたりっていうのは、私も苦手なんだ」
「ええ?」
驚くエリサに、ヴァロは困ったように眉尻を下げた。
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