29 / 57
第六章 お金のための関係 (蒼side)
29.忙しい彼
しおりを挟む
ふかふかな布団の中で僕は目を覚ました。
間接照明の柔らかな光とアロマの香りがするおしゃれな空間。自宅のボロアパートとはあまりに違って、一瞬ここはどこかと思ったが、そういえば麗夜さんの部屋に来ていたんだと思い出した。
よく寝てすっきりした。相変わらず自力で契約が取れない僕は外回りで歩き回って、帰社すれば雑用を押しつけられて残業続きで、寝不足だったのだ。
ベッドの隣の空間に彼の姿はなかった。休日だとは言っていたけど、忙しい人だからまた仕事に戻ったのかもしれない。僕に客を紹介してくれているときや、テスターの仕事で会っているときも彼はたびたび電話で呼び出されていた。社長さんって本当に大変なんだ。
ベッドの隣に彼がいて僕を抱きしめてくれていたらいいのに、なんて少しでも思うのは図々しい話だ。
そもそも麗夜さんは営業マンとしてダメダメで借金の返済に追われている僕に同情して、知り合いを客として紹介してくれたり、自社製品のテスターの仕事を一回5万円で雇ったりしてくれているのだから。
当たり前だけど恋人でも何でもないんだ。勘違いしちゃいけない、と僕は首をフルフル振った。
はあ……とため息をつくと、ぐーっとお腹が鳴った。
そう言えば僕はお昼ご飯を作る約束で今日ここへ来たんだった……。炊けたはずのご飯と作っておいたきんぴらごぼう、他にもおかずを作るつもりだった。
そうだ、麗夜さんが帰って来たら食べられるようにして置いてあげよう……。
そう思って僕は服を着てリビングへ向かった。
「おはよう、目が覚めた?」
麗夜さんはキッチンのコンロの前にいた。香ばしい揚げ物の香りがしている。
「麗夜さん、仕事に行ったんじゃなかったんですね?」
「え? ふふ。今日は大事な用がある日だって秘書の都築に言っておいたから、呼び出されないよ」
僕が麗夜さんの家に来ることが、大事な用事だなんて……。
「お腹すいたでしょ? せっかくだから色々作っておいたんだ。一緒に食べよう?」
彼は鶏の唐揚げがこんもりと乗った皿を僕に見せた。
「え、麗夜さんが作ったんですか!? 確か料理はしないって……」
調理器具や家電も新品のものばかりだったのに。
「自分の会社を持ってからは時間がないから料理はしないって決めていただけで、元々料理は大好きなんだよ。だから蒼と一緒に料理したくってね」
住む世界が違う人だけど、麗夜さんにはすごく親近感が湧く。
炊いたご飯も今風のふっくらと結んだおにぎりにしてお皿に乗っていた。
「手伝いますっ」
僕はお椀に彼が作っておいてくれた豚汁をよそった。
食べて見ると、麗夜さんが作った鶏の唐揚げもひじきとレンコンと豆のサラダも、豚汁もとても美味しかった。
「美味しいです、この明太子おにぎりも」
「ふふ、よかった」
彼は僕が作ったきんぴらごぼうをとても褒めてくれた。
間接照明の柔らかな光とアロマの香りがするおしゃれな空間。自宅のボロアパートとはあまりに違って、一瞬ここはどこかと思ったが、そういえば麗夜さんの部屋に来ていたんだと思い出した。
よく寝てすっきりした。相変わらず自力で契約が取れない僕は外回りで歩き回って、帰社すれば雑用を押しつけられて残業続きで、寝不足だったのだ。
ベッドの隣の空間に彼の姿はなかった。休日だとは言っていたけど、忙しい人だからまた仕事に戻ったのかもしれない。僕に客を紹介してくれているときや、テスターの仕事で会っているときも彼はたびたび電話で呼び出されていた。社長さんって本当に大変なんだ。
ベッドの隣に彼がいて僕を抱きしめてくれていたらいいのに、なんて少しでも思うのは図々しい話だ。
そもそも麗夜さんは営業マンとしてダメダメで借金の返済に追われている僕に同情して、知り合いを客として紹介してくれたり、自社製品のテスターの仕事を一回5万円で雇ったりしてくれているのだから。
当たり前だけど恋人でも何でもないんだ。勘違いしちゃいけない、と僕は首をフルフル振った。
はあ……とため息をつくと、ぐーっとお腹が鳴った。
そう言えば僕はお昼ご飯を作る約束で今日ここへ来たんだった……。炊けたはずのご飯と作っておいたきんぴらごぼう、他にもおかずを作るつもりだった。
そうだ、麗夜さんが帰って来たら食べられるようにして置いてあげよう……。
そう思って僕は服を着てリビングへ向かった。
「おはよう、目が覚めた?」
麗夜さんはキッチンのコンロの前にいた。香ばしい揚げ物の香りがしている。
「麗夜さん、仕事に行ったんじゃなかったんですね?」
「え? ふふ。今日は大事な用がある日だって秘書の都築に言っておいたから、呼び出されないよ」
僕が麗夜さんの家に来ることが、大事な用事だなんて……。
「お腹すいたでしょ? せっかくだから色々作っておいたんだ。一緒に食べよう?」
彼は鶏の唐揚げがこんもりと乗った皿を僕に見せた。
「え、麗夜さんが作ったんですか!? 確か料理はしないって……」
調理器具や家電も新品のものばかりだったのに。
「自分の会社を持ってからは時間がないから料理はしないって決めていただけで、元々料理は大好きなんだよ。だから蒼と一緒に料理したくってね」
住む世界が違う人だけど、麗夜さんにはすごく親近感が湧く。
炊いたご飯も今風のふっくらと結んだおにぎりにしてお皿に乗っていた。
「手伝いますっ」
僕はお椀に彼が作っておいてくれた豚汁をよそった。
食べて見ると、麗夜さんが作った鶏の唐揚げもひじきとレンコンと豆のサラダも、豚汁もとても美味しかった。
「美味しいです、この明太子おにぎりも」
「ふふ、よかった」
彼は僕が作ったきんぴらごぼうをとても褒めてくれた。
8
あなたにおすすめの小説
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
【BL】捨てられたSubが甘やかされる話
橘スミレ
BL
渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。
もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。
オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。
ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。
特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。
でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。
理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。
そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!
アルファポリス限定で連載中
二日に一度を目安に更新しております
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。
キノア9g
BL
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。
気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。
木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。
色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。
ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。
捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。
彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。
少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──?
騎士×妖精
魔王の息子を育てることになった俺の話
お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。
「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」
現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません?
魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL
BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。
BL大賞エントリー中です。
アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました
あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」
穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン
攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?
攻め:深海霧矢
受け:清水奏
前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。
ハピエンです。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
自己判断で消しますので、悪しからず。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる