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第六章 お金のための関係 (蒼side)
30.津田くんの忠告
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週末明けの月曜日、普段なら憂鬱な日だけど僕は昨日の麗夜さんの家でのことを思い出しながら普段よりうきうきしながら外回りの営業活動をしていた。麗夜さんからテスターの仕事のお金をもらって懐が潤ったことも嬉しいけど、それ以上に彼は案外家庭的で僕と料理の趣味が合うとわかったことが嬉しかった。
若くてイケメンで会社の社長である上に、料理も上手だなんて、麗夜さんって本当になんでもできる人なんだ……とますます彼に惹かれた。
テスターの仕事も月1回受けられれば借金の返済にはぎりぎり間に合うけど、麗夜さんは月2回ほど仕事に誘ってくれている。これで借金の返済をどうにか出来るだけじゃなく、ボロボロだったスーツを新調したり、極限まで節約していた食費を増やせたり人間らしい生活ができるようになった。
お昼ご飯は相変わらず公園でおにぎりを食べているけど、その中身だって最近は少しまともなものを入れられるようになった。
夕方、僕が先輩から押しつけられた雑用の書類コピーをしていると、同期の津田くんが声をかけてきた。
「野々原くん、お疲れ様」
「津田くん、お疲れ様。こんな時間まで残っているなんて珍しいね」
他人から頼まれるとうまく断れない性格の僕と違って、要領がいい彼が残業することはめったになかった。
「どうしても野々原くんに教えてあげたいことがあって……。これ、見てよ……」
彼は私物のスマホの画面を僕に見せた。
それはどこかのパーティー会場の写真のようだけど、ほとんど裸の格好の男性に囲まれた麗夜さんが写っていた。
「麗夜さんっ……」
背中に冷や汗が伝るのを感じた。
どうしてだろう、他の男性の裸の腰に麗夜さんの手が回されているのがすごく嫌で、胸がずきんと痛んだ。
男性たちはみんな小さな水着に一万円札がねじ込まれていた。
「これ、野々原くんが大口の契約取った美麗クリエイションって会社の社長だよね? たまたまネットでこんな写真見つけて僕、びっくりしちゃって」
津田くんは心底心配そうに僕の顔を覗き込んだ。
「なんか、さすがゲイ向けアダルトグッズの会社の社長って感じだよね。すごくチャラそうな人だね。なにやら手が早いことで相当有名らしいよ」
麗夜さんはそんな人じゃないって否定したいのに、僕自身麗夜さんのことをあんまりよく知らないんだと実感してショックだった。
「……野々原くんって、確かこの社長から知り合いを紹介してもらってさらに契約取ったりしてるんだよね? 大丈夫? まさかとは思うけど、過剰な接待を要求されたりしてない?」
「えっ……」
彼の会社の製品のテスターをしていていつも流れで抱かれているなんて津田くんには言えない。
「とにかく、まじめで大人しい野々原くんがこんなチャラ社長に純情な心を弄ばれたら可哀想だなって思って、僕は同期として心配で忠告したかったんだ」
「……そっか、ありがとう」
誰もいないオフィスに呆然と立ち尽くす僕を残して津田くんは、
「じゃあ僕はお先に」
とカバンを持って帰って行った。
しばらく呆然と立ち尽くしていた僕はまだ終わっていない資料のコピーの続きを始めたけれど、気持ちがもやもやして全然集中できない。
「この豚汁すごく美味しいです」
「ふふ、肉団子スープなんかも昔はよく作ったな。刻んだレンコンとか入れて。今度一緒に作ろうか?」
「はい、是非っ」
楽しかった昨日の会話を思い出しても、今は少し虚しささえ感じる。
さっき津田くんが見せてくれた画像の中の彼は僕と一緒にいるときよりもずっと生き生きしているように見えたから。やっぱり僕とは生きる世界が違う人なんだ……と思い知らされた。
若くてイケメンで会社の社長である上に、料理も上手だなんて、麗夜さんって本当になんでもできる人なんだ……とますます彼に惹かれた。
テスターの仕事も月1回受けられれば借金の返済にはぎりぎり間に合うけど、麗夜さんは月2回ほど仕事に誘ってくれている。これで借金の返済をどうにか出来るだけじゃなく、ボロボロだったスーツを新調したり、極限まで節約していた食費を増やせたり人間らしい生活ができるようになった。
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彼は私物のスマホの画面を僕に見せた。
それはどこかのパーティー会場の写真のようだけど、ほとんど裸の格好の男性に囲まれた麗夜さんが写っていた。
「麗夜さんっ……」
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どうしてだろう、他の男性の裸の腰に麗夜さんの手が回されているのがすごく嫌で、胸がずきんと痛んだ。
男性たちはみんな小さな水着に一万円札がねじ込まれていた。
「これ、野々原くんが大口の契約取った美麗クリエイションって会社の社長だよね? たまたまネットでこんな写真見つけて僕、びっくりしちゃって」
津田くんは心底心配そうに僕の顔を覗き込んだ。
「なんか、さすがゲイ向けアダルトグッズの会社の社長って感じだよね。すごくチャラそうな人だね。なにやら手が早いことで相当有名らしいよ」
麗夜さんはそんな人じゃないって否定したいのに、僕自身麗夜さんのことをあんまりよく知らないんだと実感してショックだった。
「……野々原くんって、確かこの社長から知り合いを紹介してもらってさらに契約取ったりしてるんだよね? 大丈夫? まさかとは思うけど、過剰な接待を要求されたりしてない?」
「えっ……」
彼の会社の製品のテスターをしていていつも流れで抱かれているなんて津田くんには言えない。
「とにかく、まじめで大人しい野々原くんがこんなチャラ社長に純情な心を弄ばれたら可哀想だなって思って、僕は同期として心配で忠告したかったんだ」
「……そっか、ありがとう」
誰もいないオフィスに呆然と立ち尽くす僕を残して津田くんは、
「じゃあ僕はお先に」
とカバンを持って帰って行った。
しばらく呆然と立ち尽くしていた僕はまだ終わっていない資料のコピーの続きを始めたけれど、気持ちがもやもやして全然集中できない。
「この豚汁すごく美味しいです」
「ふふ、肉団子スープなんかも昔はよく作ったな。刻んだレンコンとか入れて。今度一緒に作ろうか?」
「はい、是非っ」
楽しかった昨日の会話を思い出しても、今は少し虚しささえ感じる。
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